映画『生理ちゃん』監督・脚本家に聞く

映画『生理ちゃん』監督・脚本家が制作の過程で気づいたこと

映画『生理ちゃん』監督・脚本家が制作の過程で気づいたこと

生理を擬人化して大きな話題となった『生理ちゃん』(KADOKAWA)が映画化され11月8日に公開されました。

原作を手掛けたのが男性ならば、監督も脚本も男性という(ほぼ)男子だけで制作されたという本作はどのように作られたのでしょうか。監督を務めた品田俊介さんと脚本を担当した赤松新さんに、『生理ちゃん』を映画化することになったきっかけや、撮影を通じて発見したことについて伺いました。

インタビューを見守る「生理ちゃん」

インタビューを見守る「生理ちゃん」

女性にとって生理はただそこに「ある」もの

——『生理ちゃん』はWEBメディア『オモコロ』で掲載されてすぐその人気に火がついた作品ですが、もともと原作はご存知でしたか?

赤松新さん(以下、赤松):実は知らなかったんです。僕は吉本興業に所属しているんですけど、先輩芸人の矢部太郎さんが(漫画『大家さんと僕』の作者で、本作で手塚治虫文化賞短編賞受賞)、「僕の漫画が選ばれなかったら『生理ちゃん』が手塚治虫文化賞を獲ると思うくらい良い作品だ」と言っていて。

その翌年に『生理ちゃん』も同じ賞を獲って、「おお」って。初めて読んだ時は、生理を擬人化したうえ、生理パンチで痛みを表現したり、互いの生理ちゃんが見えるという設定の斬新さに驚きましたね。しかも全部いい話だし。

品田俊介さん(以下、品田):僕はもともと映画の監督をしてみないかというオファーをいただくところから始まって、じゃあ何を撮ろうかなと、いろいろな原作を探す中で『生理ちゃん』に出会いました。すごい身近にある世界なのにまったく知らない、というか知ろうともしてこなかった世界だったので、これを機にのぞいてみたいと思ったんです。だから正直、最初は生理における繊細なメッセージを伝えたいとか、高い志があったわけではなかったんです。

監督の品田さん

監督の品田さん

——映画化するにあたって生理のことをリサーチするのは抵抗がありませんでしたか? おそらく品田さんも赤松さんも、性教育は男女別の世代ですよね。

品田:そうですね。僕は80年生まれで、赤松さんは75年生まれ。生理について勉強する機会は全然なかったですね。

赤松:生理がリアルになるのは、……やっぱり彼女ができてからでした。でも勉強ってほどのことはしていないんですけどね。

品田:そういう背景もあるので、最初はリサーチのためとはいえ「生理」と口に出すことにためらいは多少ありました。

赤松:友達に「映画のタイトル何?」って聞かれると、周りを見渡してから小声で「生理ちゃん……」って言ってました。

——なんとなく、配慮しなくちゃいけない気持ちになってしまったんですね。

品田:声に出しちゃいけないんじゃないかって思い込みがあったんですよね。どこにもそんなルールなんてありませんけど、内面化された暗黙の了解というか、ね。

赤松:そうですね。勝手なあれですけどね。

品田:我々としては真面目に「生理とはなんぞや」って、男同士で膝突き合わせて議論するわけなんですけど、女の人はそんなことしないですよね。当たり前のように毎月生理がきて、生活の一部になっているから、語るものでもなければ考えるものでもないというか。

赤松:そうそう。僕らは「生理とは」をロジカルにやろうとしていたけど、女性にとっては全然違って、ただそこにある「Be」って感じなんですよ。

品田:仕事仲間でも友人でも、女性はいつも周りにいるけれど、彼女たちとは見えてる世界が違うんだなってわかりました。

赤松:僕は人によって全然、生理の症状が違うことにも驚きましたね。母親以外、いろんな女性に話を聞かせてもらったんですけど、みんな違うんですよ。僕としては、痛みに差がある程度かなって思っていたんですけど、イライラするとか眠くなるとか、その日によっても違うとか、こんなに種類があるのか! と、目からウロコでした。

脚本を担当した赤松さん

脚本を担当した赤松さん

「別に爆弾を抱えているわけじゃねーし」と言われ…

——そこまで違うと、映画にするのは難しかったのでは?

品田:そうですね、エピソードを選ぶのは一番悩みましたね。その時は原作が9話まであって。一話完結になっているので、そこから3話選ぶところが大変でした。その結果選んだのは、みんなの隣にいそうな身近な人を選びました。見ている人が寄り添えるようなキャラクターになるように関係性も考えたりして。

実は、青子役の二階堂ふみさんと、りほを演じた伊藤沙莉さんがあまり絡んでいないのも実は意図的にそうしました。普通の映画だと、その二人の友情関係も作っていくんですけど、あまり友人の間だけの話とか、狭い世界の話にはしたくなかったんです。

——脚本で苦労したところはありますか?

赤松:セリフが自然かどうかというところは意識しました。作品を見た女性が「そんなんじゃないんだけど……」ってなるのが一番キツいから。でもどう受け取られるかはどんなに考えても想像しきれない部分もあるから、正直、怖かったですね。

品田:間違っていないかってね。でもあるとき「そうか」と思ったことがあって。生理ちゃんがやって来るシーン(=月経がくる表現)はホラーっぽく、それこそ『ジョーズ』でサメが人間に近づいてくるような感じで効果音つけておどろおどろしくやっていたんですよ。でも、ずっとこれでいいのかって悩んでいたんです。

こんな扱いをするのはあまりに生理に失礼じゃないかと思ってモンモンとしていたら、女友だちに「別に爆弾を抱えているわけじゃねーし」と言われて。僕たちが腫れ物に触るように、おっかなびっくり生理を扱っていたのに彼女は違和感を覚えたんでしょうね。「もっとフツーなんだよ」と教えてくれたんです。

赤松:生理と一緒に生きて、寄り添っているような感じだったんですよね。

品田:そうそう。だから生理がどうこうっていうメッセージを打ち出すんじゃなく、生理がきた女の子にたまたま人生の岐路が重なって、彼女たちがそれをどう選択するかという、人間の成長が描ければいいんだって思えて、ようやく舵がきれた。

赤松:生理ちゃんがヒーローになるわけでもなく、ただ女性たちのそばにいる……そういうものだって思えてからこれでいいんだと少し自信を持てたような気がします。

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登場させるか迷った「性欲くん」

——女性の“生理ちゃん”に対し、男性には“性欲くん”がやって来ます。原作の小山さんは「男だって性欲をコントロールするのは大変なんだ」と仰っていましたが、そんな気持ちに共鳴されて性欲くんを登場させたのでしょうか。

品田赤松:いやいやいやいやいやいやいやいや!全然違います!

品田:それはもう、ほんと恐縮ですって感じですね。

赤松:性欲を生理と同じ土俵に上げたら申し訳ないです……草野球とメジャーリーグくらい違うと思いますよ。

品田:当然原作にはあったわけですけど、映画で性欲くんを出すかどうかはかなり迷ったんです。これを女性の皆さんに笑ってもらえるかどうかも不安でしたし。

赤松:バランスですよね。抜きどころとして笑ってもらえればと……。まあでもやっぱり現場では性欲くんのところが一番、僕たちも盛り上がっちゃうんですけどね。

品田:みんなの本領発揮だったよね。この間映画祭でオランダに行ってきたんですけど、ヨーロッパの人たちが一番笑ってたのは性欲くんのところでした。やっぱり世界共通でそこか、と(笑)。ただ生理をタブー視しているような雰囲気は日本よりは感じず、「日本のポップなサブカル映画」として見に来てくれているのが肌感覚でわかりました。

——それは興味深いですね。日本のお客さんから拒否反応があったことはありますか?

赤松:映画レビューサイトで、たぶん男性だと思うんですけど「誰がこんなモン見るか!」って怒りの投稿をしているのを一回見たことがあります。『生理ちゃん』ってタイトルだけでもう許せないって感じがしましたね。でもそれ以外、僕のところに否定的な意見はないですね。蓋を開けたら試写に来る男性も多かったですし。

品田:僕も「ほっこりした」って言ってもらえることが一番多いくらいで、批判的な言葉をもらったのはまだあまりないです。ただ難しいなあと思うのは、劇場に足を運んでくれる人はもうそこに抵抗がない、開かれてる人だと思うんですよ。たしかに「生理ちゃんかわいい!」って言える入口は作れたと思うんですけど、「かわいい」って言うだけならそこは安全圏というか、そこから先の議論なり批判なりがもっと出てきてくれたら初めて「この映画が広まってきた」って実感できるんじゃないかって思ってます。

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「僕は生理の伝道師ではない」(品田)

——“女性の味方!”“日本の『パッドマン』* ”みたいな感じで、ヒーロー視されることはありますか。

品田:僕は映画の監督をしただけで、生理用品を作ったわけでもないので「日本の『パッドマン』」なんておこがましいですよ(苦笑)。でも時々イベントとかでそのようにお声がけいただくこともあるんですけど……。正直、僕は生理の伝道師でもないし、これからもそのつもりはない。

ちょっと話はそれますけど、最近、映画に限らずドラマでも「女性に寄り添ったもの、作ってます」とか「ジェンダー問題にも目配せしてまっせ」みたいな、「これやっとけばいいんでしょ」みたいなドヤ顔の演出にちょっと敏感になっている自分がいて。僕も、妊活のドラマを撮ったりもしているし、今回もそういうのを反面教師にして、ドヤ感を出さないように気をつけました。

*『パッドマン』……ナプキンの普及が遅れるインドで、手作りできる安全な生理用品を開発した男性の実話を映画化した作品『パッドマン 5億人の女性を救った男』のこと。

——映画をこれから見る方にメッセージをお願いします。

赤松:脚本を書くにあたって生理のことをいろいろ勉強したことで、実家のトイレの上の棚にカーテンが掛かってたり、謎の小箱があったのを思い出して、はじめて点と点が線になったんです。「あれが、あれだったのか!」って。だから僕みたいな生理に無頓着な男性には映画を見て「そうだったんだ!」って気づいてほしいし、女性には静かに頷いてもらえたら嬉しいですね。

品田:そうですね。子どもにもおじいちゃんおばあちゃんにも見てほしいし、そんな光景を見て「生理ちゃんかわいい」と言っているのがおしゃれみたいな雰囲気になって、考えたり話したりする「入口」になれたらいいのかなと思います。

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■映画情報

映画『生理ちゃん』メインビジュアル

映画『生理ちゃん』メインビジュアル


『生理ちゃん』 
11月8日(金)より、全国公開中
配給:吉本興業(C)吉本興業 (C)小山健/KADOKAWA

(取材・文:小泉なつみ、撮影・編集:安次富陽子)

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