きっかけは“女子”への違和感 「キングジム」初のブランド誕生の裏側

きっかけは“女子”への違和感 「キングジム」初のブランド誕生の裏側

何気ない日常をもっと好きになる、そのきっかけとなる“ひととき”を作りたい。

そんな思いから、文具メーカー「キングジム」が創業90年で初となる文具ブランド「HITOTOKI(ヒトトキ)」を4月18日、発表しました。

キングジムといえば、ファイルやテプラといったオフィス用品で知られる老舗文具メーカー。近年はオシャレなラベルを作成できる「ガーリーテプラ」や大人かわいいデザインが揃ったマスキングテープシリーズ「KITTA」など「女子文具」を開発・販売し、文具好き女性を中心に人気を博しています。

そんなキングジムがなぜ、新たにブランドを立ち上げたのでしょうか。

ブランドを立ち上げた開発本部の井上彩子さん(31)と望月真希子さん(28)に話を聞きました。

“女子文具”に違和感 雑談から発展したプロジェクト

「HITOTOKI(ヒトトキ)」ブランドのロゴ

「HITOTOKI(ヒトトキ)」ブランドのロゴ

「HITOTOKI(ヒトトキ)」は、“日々を楽しむ文房具”をコンセプトに、暮らしのひとてまを楽しみたいと思う人に向けた文房具ブランド。ブランド名は「人(ヒト)」と「時(トキ)」、「日々」と「時」の意味が込められており、ロゴの六角形は日の光をイメージしています。

ブランドを作るきっかけは、井上さんと望月さんの雑談から生まれたと言います。

「弊社で発売している女性をターゲットにした文具や雑貨がここ数年でだいぶ増えましたが、社内外で『女子文具』とくくられていることに違和感があったんです。世間でも『◯◯女子』という言葉がありますが、わかりやすくて便利な反面、ずいぶん一方的な言葉だなと。作り手は◯◯女子というイメージで作っているわけではないし、『女子しか使わなくていい』と思っているわけでもない。

キングジムというテプラの会社が『女子文具』を作っているんだというギャップが面白くて世間でも取り上げられてきたとは思うんですが、実際に使ってくれる人たちが共感してくれるような部分から、もっと商品を的確に表す言葉があるのではないか。そのほうがもっとユーザーに響くのではないか、という思いがありました」(望月さん)

「『女子文具』と呼ばれることへの違和感」を共有していた2人は、2016年4月頃から本格的にブランドの構想を練り始めます。まずはターゲットの調査に乗り出しました。

井上さんと望月さんが想定したターゲットのイメージは、「休日はアートイベントや雑貨市、作家さんが主催するワークショップに参加するような人。アナログの手帳や日記を書くことが好きな一方で、ウェブ上のハンドメイドマーケットを利用しているような、アナログとデジタルをうまく使い分けている人」。

夏頃から、ターゲット層が足を運びそうな街、イベント、コーヒーショップや雑貨店に出向き、ターゲット層がどんな暮らしをしているのかを想像し、彼女(彼)らが暮らしの中で触れるであろう言葉や響きそうな言葉を探して集めていきました。

「特に文房具に限定しないでターゲット層が行きそうな所に行って言葉を集めました。やはり、体感しながらではないと他人事の言葉になってしまう。まずはターゲットの中に入っていきました」と望月さんは振り返ります。

企画を通すために必要なのは「具体的なイメージ」

「キングジム」開発本部の井上彩子さん

「キングジム」開発本部の井上彩子さん

集めた言葉を元にブランドコンセプトを固め、11月の開発会議で上層部にブランド構想を提案。開発会議で上層部の賛成を得られないと商品化できません。提案時にはブランドのコンセプトはもちろんのことビジュアルも固めて提案したといいます。

「上層部のおじさまたちはターゲットではないので『女子文具っていう言葉ってなんか違和感がない?』と言ってもニュアンスの違いを共感してもらうのは難しい。そういう人たちにどう提案するかを考えました。ロゴや冊子、パンフレットなど、HITOTOKIが展開したら売り場がどうなるかをビジュアルで見せようと。全部そろえて提案することで『こういうことやりたいのね』とわかってもらえたんだと思います」(望月さん)。

無事、開発会議で提案が通ってからはブランド立ち上げの実務をこなし、今回の発表にこぎつけました。

ブランド設立よりも大変だったこと

「キングジム」開発本部の望月真希子さん

「キングジム」開発本部の望月真希子さん

ここまで聞くと、トントン拍子にブランドを立ち上げたようにも見えますが……。

望月さんは「実はブランドを作ることはこれまでの女子文具の実績もあって、順調に進んだんです。むしろ遡って、女子文具が開発されるまでがもっと大変でした」と明かします。

そもそも「女子文具」とのちに呼ばれる女性がターゲットの製品が初めて発売されたのは2010年のこと。「“こはる”MP10」と名付けられたマスキングテーププリンターが最初でした。

「こはる」の開発にも関わっていた井上さんは「上層部が参加する開発会議に企画を出す前に本部内で検討するんですが、まずそこで企画が通らない。やっと通って開発会議に出したんですが、1回落とされました」と当時を振り返ります。

「役員は男性ばかりで、まず当時流行っていたマスキングテープが何なのかわからないんですね。なのでそこから説明して、どれだけ売れているかの数値的なデータも出して。発売したら大ヒットしたんですが、だからと言って女性向けの商品開発に追い風が吹くかと言ったらそうでもなかったですね」。

そのあとに発売した女性向けのテプラ「ガーリーテプラ」も企画段階で苦戦。それでも「ユーザーが求めている『かわいい』とはどんなものか」から「ユーザーに向けた『テプラ』がどれほど求められているか」などを根気強く説得して開発に結びつけました。

電子文具の他にも女性に向けた商品としてアナログ文具も開発。シール収納ファイル「オトナのシールコレクション」(15年)や「暮らしのキロク」(同)、「KITTA」(16年)やマスキングテープでシールを作る「マスリエ」(同)などを開発し、いずれも、大人になっても心がときめく可愛いもの好きの女性の心をつかみヒットを飛ばし「女子文具」と呼ばれるジャンルを作っていくことになりました。

目指すのは「ユーザーと一緒に作るブランド」

最後に井上さんと望月さんに今後の展望を聞きました。

「人生で一度できるかできなないかの仕事だと思っています。ブランドを作っただけで終わらないように、商品も増やして売り上げも上げられるように、後輩たちと協力しながら作っていきたいですね」(望月さん)。

「今までのキングジムはお客様の声を吸い上げる直接的な接点がなかったので、HITOTOKIが提案する暮らしに共感するファンや仲間を広げていきたいです。そしてファンの方たちの声を開発にも生かしていきたいです。イベントも積極的に開催していきたいと思います。ファンの方たちとのコミュニケーションを楽しみにしています」(井上さん)。

5月19日には「HITOTOKI」の商品第一号として「テーププリンター“こはる”MP20」が発売されます。何よりもユーザー目線を大事にしたブランド「HITOTOKI」が今後、どんなブランドに成長していくのか、目が離せません。

5月19日に発売される「テーププリンター“こはる”MP20」

5月19日に発売される「テーププリンター“こはる”MP20」

(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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