2009年に劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げし、独自の世界観で演劇ファンを魅了する根本宗子さん。この度、“映像化不可能”と言われた舞台『もっと超越した所へ。』が映画化され、10月14日(金)に公開がスタートしました。
インタビュー前編で「30代になってから、今後、演劇界でどのポジションに入るか考え続けている」と語ってくれた根本さん。後編では、年齢を重ねてますます募る演劇に対する情熱や、女性作家であるからこその悩みについてうかがいました。
劇作家として30代をどう生きていくか?
——2023年1月に新作舞台『宝飾時計』の上演が控えていますね。映画に、演劇に……とめまぐるしい日々かと思いますが、最近はどのようなことを考えていますか?
根本宗子さん(以下、根本):劇作家として30代をどう生きていくか、みたいなことをすごく考えています。私が演劇を始めた頃に夢中で観ていた劇作家の方々が、いま40代、50代になって、各地劇場の芸術監督などに就任されているんですね。芸術監督ってもっと硬派な仕事だと思っていたので、そういう方々が就任するなんて思っていなかったんですよ。
それを目の当たりにして、じゃあ自分は40代になったとき、劇作家としてどうなっていたいのかなって考えたんです。ストレートプレイ(舞台演劇)で、名前だけで観客を呼べる劇団や劇作家は少ない。まして、エンタテインメントの分野では、その担い手はほんの一握りです。もっと力をつけて、演劇の可能性を探りたい。
——ご自身が演劇を長く続けていくためにも、下の世代へ演劇の楽しさを伝えるためにも、30代で何をするかがカギになるということでしょうか。
根本:そうですね。「エンタテインメントの中で演劇が一番おもしろい! 自分もやりたい!」って思ってもらえないと、新しい担い手も出てこないと思うので。私自身も演劇を観て、演劇にのめりこんでいったので、まずは興味を持ってくれる人を増やしたいんですよ。
入口は小説でも映画でも何でもいいんです。「この作品をつくった人、本業は演劇なんだ」。それで、試しに観に行ってみて、演劇のおもしろさにハマる人が出てきてくれたらうれしいですよね。
演劇人生だけを考えてずっと走れるわけじゃない
——ウートピの読者の中には「ロールモデルいない問題」に悩む人も多いですが、根本さんはいかがでしょうか? 劇作家で有名な方を思い浮かべると、男性のお名前ばかり浮かんできます。
根本:おっしゃる通りですね。同じような活動をしていて、こういうふうになりたいと思える女性作家の方は少ないです。
20代の頃は、ロールモデルがいないほうが、自由でやりやすいと思っていたんですよ。でも、30代になってからは、ロールモデルがいないゆえに悩むことが増えました。
——例えばどんなことで?
根本:うーん……例えば、もし子どもを持つことを望んだら、どのタイミングで産めばいいんだろう、とか。演劇って、決まるのがとにかく早いんですね。劇場を押さえないといけないし、キャストも押さえないといけないから、2、3年先までスケジュールが埋まってしまうんです。
そんな中で、ライフワークバランスやライフプランをどう考えていけばいいのか。誰かに相談したいと思っても、相談相手がいないからどうしよう、って立ち止まってしまうことが度々あります。
——好きなことに集中して情熱を燃やし続けるのは素敵なことですが、ふとしたときに人生全体を見渡すと不安になりますよね。
根本:20代のときは、演劇人生だけを考えて走れたのでよかったんですけど、80代までそれでいくのはキツいな、と思います。生活を捨てて、演劇だけの人生になると、書くものが浮世離れしたものになるだろうという危機感もありますね。なのでこういうことを考えられるようになった自分の今の思考も嫌いじゃないし、不安ばかりでは全然ないです。人間活動に興味が出たので、作家としてもしっかりそこを捉えていきたい。
周りでも30代になり、結婚や出産を考えて仕事をセーブし始める同年代の女優さんも増えてきました。この業界は、一度休むと復帰しにくいのが現状ですが、そういったところが変わっていくといいなと思います。
人が何かを選択する瞬間にドラマを感じる
——一度決めたことを貫く、ブレない生き方は格好いいですが、今作を観て、流れに任せて選択をしてもいいのではないかと感じました。脚本を書くときに、そういった点は意識しましたか?
根本:映画では、それなりに幸せな日々を送っていた4組のカップルに起きた別れの危機を軸に、「この相手を選ぶべきかどうか」にフォーカスしていますが、恋愛でも、仕事でも、人が何かを選択する瞬間って、すごくドラマチックだと思うんです。自分がした選択を後悔するときもあれば、これを選んで良かったと思うときもあって、絶えず揺れている。人生は、その繰り返しでしかないといっても過言ではないですよね。
——そうですね。幸せであれば「あのときこっちを選択したおかげで」って思うし、うまくいっていなければ「あの選択のせいで」って思うし。
根本:そうそう! 占いやおまじないと同じですよね。お守りを買った後に転んでも「買ったから転んだだけで済んだ」って思う人と、「お守りを買ったのに効果がなかった」って思う人がいるわけじゃないですか。
映画のフライヤーに「自分だけのハッピーエンド」という言葉が書かれていますが、ハッピーエンドに正解はない。その人の捉え方次第なんだと思います。
——そのような選択の分かれ道を、「超越」という言葉で表しているのが、今作のおもしろいところだなと思います。前と違う選択をしてみたらどうなるか、生きるヒントをくれる作品でもありますよね。
根本:実は、完成した映画を観て、私自身も背中を押される部分がありました。4人の女性は、相手を信じるべきか、信じちゃいけないのかよくわからないまま突っ走りますよね。年齢を重ねると臆病になるけど、「今日より明日のほうが絶対に良くなるはずだ」と信じて行動し続ける勢いも、時には必要なのかもしれません。
——ありがとうございます。最後になりますが、この映画をどんな方に観ていただきたいですか?
根本:仕事や恋愛や人との関係で、すごく悲しいことがあったのに、一緒にごはんを食べる相手が見つからない日ってあるじゃないですか。友だちに連絡したけど、誰も空いていないとか。そういう、1人でどうしようもないときに、映画館に行ってこの映画と一緒に過ごしてほしいなと思います。
(取材・文:東谷好依、撮影:西田優太、編集:安次富陽子)
■作品情報
映画『もっと超越した所へ。』
10月14日(金)より TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『もっと超越した所へ。』製作委員会