RICCI EVERYDAY 仲本千津さんインタビュー 第1回

30年以上専業主婦だった「母」に事業パートナーをお願いした理由

30年以上専業主婦だった「母」に事業パートナーをお願いした理由

ウガンダの都市部で暮らすシングルマザーを作り手として雇用し、カラフルなアフリカンプリントのバッグやトラベルアイテムを世に送り出すブランド「RICCI EVERYDAY(リッチーエブリデイ)」。代表の仲本千津(なかもと・ちづ)さんに、3回にわたってお話をうかがいます。

一橋大学大学院を修了後、大手銀行に入行。退職後は国際農業NGO(非政府組織)に参加してウガンダでバッグブランドを起業……という華々しい経歴を聞くと、スーパーウーマンすぎる! と思ってしまいます。しかし、仲本さんも、私たちと同じようなモヤモヤや悩みを少しずつ乗り越えて、自信を回復しながら自分の人生の舵取りをしてきたそう。

ウガンダと日本、女性がおかれている状況を俯瞰しつつ、自分らしく生きるためのヒントを探ります。

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専業主婦は「マルチタスカー」

——仲本さんのことを知って、まず驚いたのが「RICCI EVERYDAY(リッチーエブリデイ)」に、30年以上専業主婦だったお母さま(現在62歳)を共同経営者として巻き込んだということ。私たち母親世代の専業主婦はビジネスにおいて「戦力外」と思ってしまいがちですが、なぜビジネスパートナーに?

仲本千津さん(以下、仲本):理由は3つあります。当時、事業的にあまりお金がなかったので、家族が手伝ってくれるならお願いしたいというのがまず1つ。2つめの理由は、母のまわりにはいつも人が集まっていて、もしかしたら母には、コミュニケーション能力や、誰かと何かをつくりあげていくスキルがあるのではないかと内心思っていたんです。

——「誰かと何かをつくりあげていくスキル」というのは?

仲本:例えば私の家族は、私を含めてきょうだいが4人いるのですが、4人も子どもがいると親はPTAの役員をやるタイミングがかなりの確率で回ってくるんですよね。PTAは、先生や父兄の方々とコミュニケーションをとりながら、
子どもたちの健やかな成長に向けて動く協働プロジェクトで、母も中心的な役割を担っていた時期がありました。ほかにも、地域の活動のなかで、母は周囲の人たちと楽しそうにやっているなという印象があって。

——なるほど。3つめの理由はなんだったのでしょう?

仲本:専業主婦の方って、ものすごい「マルチタスカー」なんですよ! うちを例にとると、きょうだい4人のスケジュールがまずバラバラ。私が高校生の時に、末っ子が幼稚園生というときもありました。母は朝5時に起きて全員のスケジュールに合わせて段取りをつけて、お弁当作りや家事、すべてを完璧に毎日こなしていく。そのコミットメント、責任感がすごく強いし、マルチタスキングだし、このスキルは絶対事業に生かせる! と思って母にお願いしたんです。

普通に生きている人たちの本気

——お母さんの才能を娘さんが信じるというのは、すごくいいですね。どちらかというと、専業主婦のお母さんに対して「お母さんは世間知らずだし、何もできない」と思っている人のほうが多いんじゃないかと思います。

仲本:私も初めはそうでした。店頭に立って販売してもらえればそれでいいや、くらいに思っていたんです。でも母を巻き込んでいけば巻き込んでいくほど、どんどん能力を開花させていって! それは私にとってもうれしい驚きでした。“普通に生きている人”が本気を出せば、すごいことができるんだ、という驚きですね。

私もこの事業を始める前は普通の社会人でしたし、母も普通の専業主婦で、私がいま一緒に仕事をしているウガンダのシングルマザーたちも工場で働いていた一工員です。でも、ちゃんと個々が持つ能力にフォーカスして、それを120%伸ばすような環境や仕組みを整えれば、その人らしく働きながら成長することは可能なんだとこの事業を通じて実感しています。

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——ホームページにも「世界中の女性が自らのポテンシャルに気づき、意志と誇りをもって生きる世界を実現することを目指しています」と書かれていますね。ウガンダのシングルマザーを雇用し、事業を拡大していくなかで、彼女たちの変化みたいなものは感じますか?

仲本:それはすごく感じます。もともとインド資本の工場で働いていた人が多いのですが、インド資本の工場って待遇がすごく厳しいんですよ。低賃金にもかかわらずそれなりのクオリティを求められながら、長時間働かされるので、モチベーションが上がりづらい……。そういう環境に慣れてしまってか、最初は「指示されたらやる」という姿勢だったのですが、今は一人ひとりがプロフェッショナリズムと自信をもって仕事をしています。そのおかげで、バッグのクオリティが段違いに変わりましたし、生産性も上がっています。工房のマネジメントも、彼女たち自身で行なっています。

——安く使われて「お金をもらう以上はプロの仕事してよ」と言われるのが一番モチベーションが下がりますよね。なぜ、彼女たちはプロフェッショナリズムを持てるようになったのでしょうか?

仲本:自己肯定感が高まったんだと思います。私はことあるごとに彼女たちの仕事に感謝を示したり、「あなたたちはウガンダNo.1のクオリティの物を作っているのだから、それは自信に思って!」とか「これだけの数の日本のお客さまが、あなたたちの製品の到着を待っているんだよ」とか、彼女たちを勇気づける言葉を刷り込みのように投げかけたりしています。するとやっぱり意識が変わってくるんですよ。仕事にも誇りを持って取り組めるようになりますよね。家族にも会社にも必要とされているし……となると自己肯定感は高まってきますよね。

また、固定給の定期収入があることで長期的な人生プランが立てやすくなって、子どもたちを継続的に学校に行かせることができるようになりました。そのうえで、家を少しずつコンクリートで補強して頑丈にしたり、家具が増えたりとか目に見える変化があることで、「自分たちが家族を支えている」「自分はこの家族になくてはならない存在なのだ」という自信が生まれてきたのではないでしょうか。

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すべては自尊心の回復から

——ということは、もともと自己肯定感が低い方が多かったのですか?

仲本:彼女たちはもともとインド資本の厳しい環境下で働かされて、誰にも感謝されることなく低い賃金をもらいながら、とにもかくにもその日をどうにかしのいでいくみたいな生活をしていて。特にうちで働く人たちは都市部に暮らすシングルマザーが多いので、自分の土地も家も持っていません。

家賃、食費、教育費、医療費、交通費とすべてのコストが全部自分ひとりにのしかかってくる。夫がいれば多少は経済的負担を分け合えるところを、すべてひとりで抱え込まなければいけなかったんです。そのプレッシャーは大きいと思うんですよ。

そのような環境で、「自分はなんでこうなんだろう」「自分が教育を受けてないからまともな職につけなくて、子どもたちに負担をしいている」「全て自分のせいだ」というふうに自分を責める人がけっこういて……。子どもたちにパン一個を与えて、自分は何も食べられずに空腹に耐えるという状況にまで追い込まれる人もいるんです。

——日本の貧困システムとよく似ていますね。経済的に追い詰められることで自尊心がすり減っていき、仕事へのモチベーションが下がってさらなる貧困に……。だから、まずは自尊心の回復が必要だと。

仲本:そうです。自分はもう家族を支えられると自信を持った彼女たちが、「もう男なんかいらない!」「いるほうがめんどくさいよね」って明るく話す姿を見ていると、私も勇気付けられる思いがします。

■ブランドサイト「RICCI EVERYDAY(リッチーエブリデイ)

(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)

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