家モチ女子は、お嫌いですか? 最終回

ローン抱えて会社を辞めたら“自由”になった 家モチ女子が手に入れたもの

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「「家モチ女子」は、お嫌いですか?」
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おひとり様の会社員が、40歳で都心に「7坪ハウス」を建ててみた。

「東京で家モチ女子になる」という無謀な企てを実現しようとして身に起きた出来事を、洗いざらい綴ってきたこの連載。

今回がいよいよ最終回です。すったもんだの末にようやくカタチになった夢のホーム。最後の最後まで胸の中でくすぶっていた疑念は、晴れたのでしょうか?

塚本邸の全貌

塚本邸の全貌

ホントに“開放感のある家”ができました

2012年8月24、25日、建築家主催のわが家のオープンハウス(お披露目)が行なわれた。建築事務所の方々が、新居とそこからほど近い私の仮住まいを何往復もしながら、小さな家具や小物を運び出し、新しい家のあちこちに配置してくれた(本当の引っ越しは9月中旬)。

最初、「早めに引っ越しても問題ない家具や小物はありますか?」と建築家に聞かれた時、ちょっと驚いた。私も結構な数のオープンハウスに足を運んだが、引っ越す前の開催のため、見学できるのはほぼ空っぽの家だ。今回は少しでも家の雰囲気が伝わるようにと、力仕事が加わるのも厭わずに建築家が趣向をこらしてくれた。

オープンハウス当日。1Fのエントランスから。

オープンハウス当日。1Fのエントランスから。

そして、“前からずっとここにありました”といわんばかりに違和感なくしっくりと並べられた家具や小物を見て思った。「本当に私の趣味嗜好を熟知し、その後の暮らしまでかなり明確にイメージしてくれたんだな」と。数日前までの不安はどこへやら、狭さの象徴でもあるかのように、わが家に入りきれない見学者が家の前に列をなしているのを見ても、ただただうれしい感情しか湧いてこなかった。

実はずっと抱えていた不安が消え去ったのは、わずか10日前の8月16日のことだった。竣工前の最後のミーティングの日、家に入った瞬間の感動は忘れられない。思わず口から飛び出たのは、「広い!」だった。もちろん、実際に広くなったわけではないのだが、壁が白く塗られただけでこんなに感じ方が違うとは! 錯覚ではあるけれど、視覚的効果の素晴らしさを実感した。建築家の「大丈夫」という自信に満ちた言葉はこういう意味だったのだ。

視覚的効果とは非常におもしろい。空間的な作用によって起こる錯覚なので椅子に座って生活していると効果絶大なのだが、床に座った途端に効果がなくなる。実寸を実感するのだ。でもそんなこともおもしろがれるくらい、最初から口うるさく建築家に言い続けてきた「開放感のある家」ができあがった。

2階のキッチンスペース

2階のキッチンスペース

2階のダイニングスペース

2階のダイニングスペース

「終の住処」じゃないから自由

住み始めてから丸5年が経過した。竣工から現在まで、さまざまなメディアで取り上げていただいたことは、連載の最初にも書いたとおりだ。

「なぜ、家を建てようと思ったんですか?」

「オンナおひとり様」というだけで、うんざりするほど聞かれた質問。それと同じくらいに多いのが「満足度は?」という質問だ。私はいつも「120%」と答える。もちろんその理由も問われるが、そこにはあまり重きを置いていないらしく、原稿に反映されたことはほぼない。でも私は、満足度の理由にこそ「オンナおひとり様」で家を建てた最大のメリットがあると思っている。

「誰の要望も聞くことなく、理想どおりの家が建てられた」

たぶん家族がいたら、我が家の間取りはずいぶんと違うものになっていたはずだ。当然、ショップスペースなどあり得ない。「小さくてもいい。自分の部屋がほしい」(夫)、「キッチンを家の中心にしてほしい」(妻)、「部屋数を減らして広いリビングにしたい」(夫)、「いや、リビングを狭くしてでもお客さん用の和室が必要」(妻)、「将来を考えて子ども部屋もつくらなきゃ」(夫婦)……。

意見が合わないのはもちろん、どうなるかわからない将来も考慮しての設計なんて、もったいない。だから、私は「今住みたい家」をつくった。バリアフリーとは真逆をいく家だ。それでもいいと思えたのは「家は一生モノ」という考えが薄いからかもしれない。終の住処と考えていなかったからこそ、立地条件にこだわった。身軽な「オンナおひとり様」だからこそできたことであり、結果の満足度につながったのだと思う。

3階のロフト部分

3階のロフト部分

オンナおひとりさまで家を建ててみた結論

「家を建てて変わったことはありますか?」

これもよく聞かれる質問だ。答えは「180度変わりました!」。家を建てたことで、私の人生は大きく方向転換することになる。多額のローンを抱えたにもかかわらず会社を辞め、フリーランスになったのがその最たるものだろう。

仕事自体はおもしろかったが、私自身の考えが会社の方針にそえなくなった頃から、仕事は生活費のためと割り切るようになった。モヤモヤした気持ちを抱えながらも新たな仕事=暮らしを見直すでもなく、考えることすら放棄していた私に、「家を建てる=建築家との出会い」は、「今こそ暮らし方を真剣に考える時期では?」と考えるきっかけを与えてくれたのだ。

建築家を見ていて何よりも強く感じたのは、本当に楽しそうに仕事をしていることだった。忙しそうだし、仕事内容は煩雑で大変そうだし、休みもあまりなさそうなのに、いつも楽しそうなのだ。それが何よりも新鮮だった。つらいのが仕事、楽しんでいるようではダメと教えられてきた私に、「仕事って楽しんでいいんだ」と教えてくれたのだ。

そうして家を建ててから1年半後、私はフリーランスになった。思い切って会社を辞めてみて感じたことは、とてつもない開放感とはじめて自分の足で人生を生きているという実感だった。大げさに聞こえるかもしれないが、サラリーマンとして会社に所属していた期間、私は会社に歩かされているような感じを拭うことができなかった。

土地を購入したことで地に足がつき、家を建てたことで自分の足で人生を歩いている実感が持てるようになった。

これが「オンナおひとり様」で一軒家を建てた現時点での結末である。

全12回にわたり、ご愛読ありがとうございました。

(塚本佳子)

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「家モチ女子」は、お嫌いですか?

「結婚して家庭を持つ自分をイメージできなくて……」30代まで散々自由気ままに生きてきたおひとり様が、アラフォーにして「都内に一軒家を建てる」と決意。無事に「7坪ハウス」が建つまでの悲喜こもごもを綴ります。

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