私は40歳の時、東京の豊島区に7坪の小さな小さな一軒家を建てました。20代、30代で会社員としてバリバリ働いて貯めたお金を注ぎ込み、35年ローン、約4000万円で「自分の城」を持ったんです。
「女アラフォーおひとり様で家を建てる」なんていうと、「結婚できなかったから……」と言われてしまいそうですが、私の場合、いつまでたっても結婚することや子どもを産み育てることを人生のプライオリティにできませんでした。
思う存分仕事をして、国内・海外問わずあちこち旅をして、好きなインテリアを買い揃えて。そんなふうにトコトン自分勝手に生きてきた私はアラフォーになった時、なんだか無性に“家”が欲しくなりました。
連載初回となる今回は、「家を建てよう」と決めて最初に感じた常識「家と結婚をめぐるしがらみ」について書いてみようと思います。
結婚する気があるなら、家を持つな
2012年9月、私は都会の喧噪からちょっと外れた下町風情の残る町で一国一城の主になった。40歳を5ヵ月ほど過ぎていた。
「結婚する気があるなら、家(マンション)なんて買わないほうがいいと思うよ」
遡ること10年前、義兄に言われた言葉。
30代に突入して間もなく、家を買う予定も、そもそもそんな発想すらなかった私の周辺で、にわかに「家持ち」が増えていた。身近なところでは姉夫婦が新築マンションを買い、インテリアの師匠といえる友人も素敵なコーポラティブハウスを購入。
ちょっと羨ましくなって「私もマンション買おうかな」と、なんとなくつぶやいてみたところ、「数千万円ものローンを抱えたオンナを嫁にもらってくれる人はいない」と、やんわりだけど、ずいぶんとストレートな言葉で釘を刺されたわけだ。
「家モチ男子」vs.「家モチ女子」
たしかに、姉夫婦も結婚を機にマンションを購入したし、友人も結婚していた。私の周囲のみならず、家を購入するのは結婚してからというのが、常識的な大人の行動なのだ。
それ以前に、どうしても「家が欲しい!」というほどの熱意が、当時の私にはなかったことが家購入に至らなかった最大の理由ではあるけれど、義兄の言葉にも思うところがあった。
「もし私が男性だったら、逆に喜んで嫁にくる女性がいるに違いないのに」
ひとりで家を買うことは、男性にはプラスになっても、女性にとってはマイナスでしかない、それが世間の一般的な考え。頭ではわかっていたけど、やっぱりそういうものなのかとちょっと実感する出来事だった。
「ひとりで生きていく準備」を始める年頃?
それから数年後、今度はまわりの影響など一切ない中で、突然のように舞い降りてきた「家を買おう!」という発想、いや衝動は、私の元来の性格、猪突猛進、思い立ったが吉日という無謀さに火をつけてしまった。
それを姉夫婦に話したが、もはや義兄からは以前と同じ言葉は出てこない。私は40代目前に迫っても、楽しいシングルライフを満喫していた。
昔とは違い晩婚化が進む現在、アラサーなんてまだまだ「いき遅れ」の範疇には入らない。でもアラフォーとなると話は別らしい。言葉にはしなくとも「結婚は諦めて、そろそろひとりで生きていく準備が必要かもね」という心の声が聞こえてきそうだ。
家を買うのは結婚してからなのね、と実感したはずだったけど、結局私には「女ひとりで家を持つことが結婚の障害になる」という一般常識などどうでもよかった。年齢も結婚の有無も関係なく、欲しい物は欲しいのだ。
相変わらず自分が結婚しているイメージはわかないし積極的に婚活をしようとも思わないけど、もし良縁にめぐまれて生活環境が変わるようなことがあれば、その時はその時。家をどうするかも含めて考えればいいだけのこと。
家を建てたら、人生180度変わった
そして、その時の気持ちに従い、「今自分が住みたい家」を都心に建てた結果、私の人生は180度変わった。買うなら当然のようにマンションだと思っていた自分の家が、土地付き一戸建てになり、そこにはショップスペースもついてきて、昔からの夢だった店主にまでなってしまった。
さらに、多額のローンを抱え込んだにもかかわらず安定収入が保証されているサラリーマン生活にピリオドを打つという、暴挙としか言いようのない方向転換もあった。
「人生、何が起こるかわからない」
自分自身で選んできた人生ではあるけれど、これが家を建てたことによって起こった数々の変化に対する実感であり、私が家を建てる決心をした理由でもある。
(塚本佳子)