7月クールの連続ドラマで平均視聴率トップを走る水曜ドラマ「家売るオンナ」(日本テレビ系)。北川景子さん演じる不動産会社の営業チーフ・三軒屋万智(さんげんや・まち)は、新宿営業所に着任するなり部下をしかり飛ばし、それを注意されても「パワハラが人を育てることもあります」などと言って自分の信条を譲らない、管理職泣かせ。部下たちに「GO!」とハッパをかけるときには、ゴウと風が吹くなど、なかなかキャラの立ったヒロインです。
有言実行型のキャリアウーマン・万智
この万智、美人だが笑顔は見せず、「私に売れない家はありません」と豪語する有言実行型のキャリアウーマン。どこかで見たことのあるキャラクターだと思ったら、米倉涼子さんが主演する「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)に似ています(名前も似ている!)。
天才的な手術の腕をもつ未知子が「私、失敗しないので」と豪語する代わりに、不動産のプロである万智は「私に売れない家はない」と断言。どちらのヒロインも服装がやたらとファッショナブルで、職場の同僚たちの言葉など意に介さないマイペースぶりも共通しています。北川さんも米倉さんも雑誌モデル出身ですが、そういった顔立ちの整ったパーフェクト美女がハマるタイプの役柄なのでしょう。
ただ、孤高の外科医である未知子に比べて、万智は家を売るという職業上、顧客のプライベートに関わらざるをえない。引きこもりの息子がいる家庭、片付けられない女とミニマリストの男、愛人のためのマンションを探す社長など、人それぞれの立場と家庭の事情を鑑みながら、一歩踏み込んだアドバイスをしていきます。「引きこもりの息子さんが、ご両親の死後も引きこもって生きていけるように、一軒家を売ってマンションを2室購入してください。そのうち一室で家賃収入を得られます」などと、驚きの解決策を提示し、強い説得力によってどんどん契約を取っていきます。
万智は、家を売り自分の営業成績を上げるためならば手段を選ばないように見えて、実は顧客には誠意を持ってアドバイスをしています。そこが人気の秘密ではないでしょうか。第6話までを見て、万智の仕事のスタイルを分析してみました。
万智の仕事スタイルを分析
【2】顧客の欠点、弱点を責めない
【3】独身女性の味方になる
【4】男性、女性を関係なく指導
【1】顧客の抱える問題や事情を受け止め、その解決策を提示するのは、前述のとおり。
【2】仕事が忙しくて子どもにかまえない医師(第1話)、引きこもりの成人男性(第2話)、片付けられない女(第3話)といった、世間では批判されがちな人物に対しても、決して「生き方を変えろ」などとは言わない。欠点はそのまま認めて、それに合った住まいを探してくれます。実は弱者に優しい人なのか、それとも「欠点は直らない」と考える徹底したリアリストなのか?
【3】第5話で、独身女性がマンションを買うと決めた時に、万智はこう言います。
「結婚と家を買うことは関係ありません。男女ともに結婚しない人が増えているにもかかわらず、独身者を結婚というゴールに向かう途中の中途半端な人間と決めつけるのはおかしいです。ご自分のために自力で家を買うことは素晴らしいし、かっこいいです」
営業トークと言えばそれまでですが、会社内でこの話題が出た時も、結婚願望のある女性を「まとも」と言った先輩に「独身女性が家を買うことへの偏見は改める方が、まっとうです」と進言するので、本心なのでしょう。ちなみに万智自身も独身です。
【4】部下には厳しい万智。販売成績がゼロでやる気もない白洲美加(イモトアヤコ)を「GO!GO!」としごき、それでも結果が出ないと課長に「白洲は辞めさせればいいと思います」と冷淡に進言。よくいる同性に厳しいタイプの上司かと思いきや、やはり営業成績の良くない庭野(工藤阿須加)にも「だから、おまえに家は売れないんだ」と手厳しい。男でも女でも仕事ができない部下には等しく容赦がないのは、実力主義でわかりやすいです。
家を買う独身女性は「かっこいい」
こうして分析してみると、万智は金持ちにも貧乏人にも、男にも女にもフラットに接する偏りのない人。どんな相手でも差別しないリベラルな考えの持ち主と言えます。しかも、究極のフェミニスト。自分自身は「いつか信頼できるパートナーと家庭を築きたいと思っています」と言って婚活教室に参加するものの、家を買う独身女性を「かっこいい」と肯定します。
そんな万智がかもし出す爽快感が、ドラマの大きな魅力になっています。第6話までに、一時期ホームレスをしていたという万智の過去が語られたり、常に全否定されている庭野が万智に恋心を抱いたりと、後半への引きも多い。ベテラン脚本家の大石静さんが、最終回でこのヒロインにどんな結末を迎えさせるのか、楽しみにしながら見続けたいと思います。
(小田慶子)