司馬クリニック・司馬理英子先生インタビュー 第2回

自己肯定感の低さがキャリアの妨げに…ADHD脳が仕事に与える影響と対策

自己肯定感の低さがキャリアの妨げに…ADHD脳が仕事に与える影響と対策

仕事はそれなりにやっているつもりなのに、いまいち達成感がない。成果を喜ぶよりも「できなかったこと」を考えてモヤモヤ悩んでしまう。そんな自己肯定感の低さも、実は“脳のクセ”と関係があります。

小さなミスが重なると、「私はダメ」という思いにとらわれてしまうADHD脳。「またミスをするのでは?」と仕事をするのが怖くなり、始められない・終わらないという悪循環に陥ってしまうこともあるといいます。仕事をスムーズに進めるためには、脳のクセとどう付き合えばよいのでしょうか?

ADHDの専門家・司馬クリニックの司馬理英子先生にお話を聞きました。

第1回:ズボラに悩む貴方へ「ADHD脳が原因かも」

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自己肯定感の低さは働くエネルギーを奪う

——前回のインタビューのなかで、司馬先生が「小さなミスのつみ重ねで信頼を失くすことで自己評価も低くなるのが、目に見える症状以上に残念なところ」とおっしゃっていたのが印象的でした。自己評価・自己肯定感の低さというのは、女性のキャリアにも影響が大きいですよね。自己肯定感が低いために、昇進のチャンスがあっても辞退してしまうということもありそうです。

司馬理英子先生(以下、司馬):ADHD脳の人は、「今この時の大変さに耐えることでいい結果に繋がる」というようなモチベーションキープがちょっと苦手なんです。上司から「発想はいいけど、君はいつも最後まで仕上がらない」と評価を受けたり、「やっぱり私ってダメ」「今日も失敗しちゃった」という自己否定が続いたりすると、働くエネルギーにも影響してきます。自分がなぜ損しているかに気づかない人もけっこういて、「私はなにもしていないのに」と、評価をしてくれない相手への不満を募らせてしまう場合もあります。

——ADHD脳というのは、学歴(学びの習熟度)に関係ないんですよね。

司馬:そうですね。難関大学を出ていても、プランを立てて実行するのが苦手な人も多いし、先を見通さないで「まあ大丈夫でしょ」と楽観的に考えてうまくいかない方もいます。

——学歴も高く、有名企業でバリバリ働いていて、一見すると「仕事ができる人」だけど、実は片付けられないとか締め切りを守れないことに悩んでいる人もいるかもしれませんね。

司馬:興味を持ったらアグレッシブに動ける衝動性とか、発想力が仕事に活かせているとか、ADHD脳のポジティブ面がうまく機能している場合は、そういうこともあり得ますね。だけど、「うっかりミス」が多くて重要な役割を任せてもらえなかったり、「あの人いい人だけど、ちょっとだらしないところがあってね」というレッテルを貼られてしまったりすることもあると思うので、実力通りの評価を得られないのは本当に苦しいと思いますよ。

ミスを防ぐ“仕掛け”で脳のクセを乗りこなす

——脳のクセを改善する方法はあるのでしょうか?

司馬:苦手を把握してミスを防ぐ“仕掛け”をつくることで、脳のクセを乗りこなすことができます。たとえば、ADHD脳でよくある「忘れもの」は、デスクの上や玄関のドアなど分かりやすい位置にメモを貼ることで対処できます。スケジュールを忘れがちなら、会話のなかに「○時からの会議、よろしくお願いします」など“リマインド言葉”を盛り込んだり、スケジュールごとにアラームを鳴らしたりするのも有効ですね。

——メモは付せんに書くなどアナログな方法の方がよいですか?

司馬:紙に書くのはとても大切。さらに、スマホのスケジュールアプリなど、デジタルツールを使うのもいいですよ。スマホは、集中の妨げになってしまうことも多いけど、うまく使えば脳のクセの味方になってくれますよ。

——たとえば移動するときに財布やスマホの存在をコロッと忘れて置き去りにしてしまう……という場合もあると思います。

司馬:「今のとらわれ人」とも呼ばれるADHD脳は、今やりたいことを優先してしまう傾向があります。移動するときにはもう次のことで頭がいっぱい。なので、移動する前に一度くるりと回って指差し確認することを徹底しましょう。私はこの方法を「見返り美人」と呼んでいます。

——持ち物を工夫するという方法も有効でしょうか?

司馬:そうですね。たとえば、目立つ色のモノを持つことも脳のクセを改善する仕掛けになると思います。もし忘れてきてしまっても、鞄のなかになければすぐに気がつきますよね。メイク道具や文房具は、家用と持ち歩き用に分けてしまうのがおすすめです。朝メイクをして、そのポーチをまた鞄へ戻す……という一手間が自分には難しいと割り切りましょう。

集中力をキープするための仕掛け

——なるほど。集中力のなさや後回しにするクセも、仕掛けをつくることでうまく対処できそうですね。

司馬:「この曲なんだっけ?」「隣の人のお弁当の匂いが気になるな」など、音や匂いなど五感が刺激されると集中が削がれてしまうタイプのADHD脳の人もいます。イヤホンをつけて仕事をする許可をもらったり、空いているミーティングルームを使わせてもらったりするなど、まずは集中できる環境をつくりましょう。大事な仕事を完璧にやろうとするあまり、手をつけるのが後回しになりがちな人は、「ざっくり5分だけ手をつけてみる」ことを実践してみて。少し手をつけるだけで、その仕事へのハードルはグッと下がるはずですよ。

次回はADHD脳が最も苦手とする「片付け」についてお話を聞きます。

(取材・文:東谷好依、写真:青木勇太)

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