新型コロナウイルスの蔓延にともない「新しい生活様式」が提言されてから、早くも2年*が経とうとしています。リモートワークや黙食など、人との対話を抑えた生活に慣れた今、孤独感や疎外感がじんわり積み重なっていることに気づく人も多いのでは。
※新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」が示されたのは2020年5月4日
心療内科医で秋葉原save クリニック(東京都千代田区)院長・鈴木裕介(Dr. ゆうすけ)さんに、コロナ時代の孤独との付き合い方をお聞きしました。
孤独を感じるのは、生き延びるぞという本能の表れ
——今回は、「孤独感」や「疎外感」をテーマにお話を伺っていきます。というのも、新しい生活様式に慣れようと最初は努力や工夫をしてみたけれど、だんだん孤独を実感する人も出てくる頃ではないかと。
鈴木裕介先生(以下:鈴木):社会的なつながりを持つことによってつらさを癒すタイプの人には、今の状況はキツイですよね。つながりや自分の社会的な役割によって「自分は今、充実してる!」と感じるタイプの方は、日本では特に多い傾向にあるみたいです。
——そうなんですね。
鈴木:自分の孤独感や疎外感と向き合うのってしんどいですよね。「自分は寂しがりやで、弱いんだ」って思って凹んでしまいがちなんですが、凹む前に知っておいてほしいのが、そもそも先天的に孤独を感じやすいタイプがいるということ。遺伝的な要因があるんですよ。これを知っておくだけで、僕はちょっと諦めがつきました。遺伝なら仕方ないじゃないか、って。
——遺伝というと……?
鈴木:孤独感というのは、生き延びるためにプログラムされたものなんですよ。人間は基本的にすごく脆弱な生き物なので、本能的に群れで生きることを生存のために選択しています。1人より群れでいるほうが生き延びやすいですからね。だからこそ、群れから疎外されることに恐れを抱くようになります。
——なるほど。孤独を感じるというのは、生き延びるぞっていう本能の表れなんですね。意外とポジティブというか。
鈴木:その一方で、群れから離れる人がいるのも、生き物の多様性として当然のことです。群れを飛び出して新しい餌場や狩場を見つけないことには、種が生存できませんから。群れで生き延びる個体もいれば群れから出て生き延びる個体もいる。先天的に個体差があるんです。その方が、種が保存されやすいから。
——基本的には1人のほうがラクだけど、集団から疎外されるのは困る……そういうジレンマを抱えて、どっちにもはっきり分類できない人もいますよね。
鈴木:相当いると思いますね。生活集団と仕事集団が同一だったころとは違いますし、生活は1人のほうがラクでも仕事集団の中で仲間外れになったら当然不利益がある。ジレンマを抱えて当然だと思います。
「情緒的なつながり」を意識する
——仕事集団の中で疎外されないためには、どうしたらいいでしょう。直接的なコミュニケーションが減った今、できることとは。
鈴木:「機能的なつながり」だけではなく「情緒的なつながり」も意識したいですね。職場は社会的な集団であり、目的集団でもあります。だからといって目的のための「機能的なつながり」さえあればいいかというと、そういうわけでもない。一見意味のない、不要不急なものに支えられているわけです。
——具体的には?
鈴木:たとえば、「雑談」「ムダ話」。Zoomは会議という目的特化のツールなのでコミュニケーションの「余白」が生まれにくい。だから、ミーティングの本題に入る前にあえて雑談の時間をとったり、ミーティングの中でまだ消化しきれてない部分や、もうちょっと話したいかなという部分を希望者だけ残って話す「感想戦」をしてみたり、主目的ではない副次的なコミュニケーションをとることが必要なんじゃないかと思います。
——上の立場の人や、その場を仕切る人が、そういう雑談を好まないタイプだったら……。
鈴木:「そういうタイプの人もいるよね」って理解して、受け止めるしかないですね。求めるコミュニケーションの量や質、相手との距離感というか、言うなれば「心の間合い」みたいなものは人それぞれですから。
「心の間合い」がお互い違うことを理解したうえで、面倒ながらも擦り合わせていくのが人間関係の真骨頂なんじゃないかと思っています。今みたいに「一斉リモート」とかでコミュニケーションのあり方が大きく変わるときには、元々あった間合いの違いが直面化しやすい。コロナによって不和になった関係性は多かったですよね。
——ちなみに、「情緒的なつながり」がなくなると、どんなデメリットがありますか?
鈴木:「機能的なつながり」ばかりだと、人間関係が乾いていくんですよね。とくにオンラインだと、コミュニケーションで必要なノンバーバルな情報が取りづらくなります。表情や雰囲気から察し合うことができないから、様子がつかみにくい。実際、コミュニケーションの満足度とか繋がり感に影響する前頭前野の活性化は、対面では起こるのにオンラインでは起こりにくいことがわかっています。やっぱりちょっと物足りないんですね。
それに、オンラインだと「あの人元気なのかな、しんどいのかな」というような情報もキャッチしにくくなります。「ちょっとした質問」とかもしにくいし、自分がしんどいときも、しんどそうな態度をとる以上にちゃんとヘルプを出さなくちゃいけない。これ、けっこう難しいですよね。
ヘルプを出す力はレアスキル
——自分でも「しんどい」って気づけてない人もいませんか? 体の症状とかが出てきて初めて「あ、私しんどかったんだ」って気づくような。
鈴木:そういう人、すごく増えてます。
——ちなみに、体が出す「しんどい」サインの症状ってどういうものがありますか。
鈴木:なんでも出ますよ。頭痛、胃痛、吐き気、耳鳴り、手の痺れ、腰痛、腹痛、便秘下痢……。慢性的なストレス状態になると、交感神経が優位になります。ストレス環境に対処するために、身体がアドレナリンとかのホルモンを出して頑張って血圧とか血糖値を上げるんですね。血圧を上げるというのは血管がギュッと締まっている状態ですから、それが続けば各臓器に血流が回らなくなり、どこの血流が阻害されるかによってありとあらゆる症状が出ます。胃の血流が悪くなったら胃痛になりますし、免疫器官の血流が悪くなったら風邪とか引きやすくなります。
——なんとなく原因がわからない不調が続くときは、体の「しんどい」サインだととらえて、ちゃんと自分に向き合ったほうがいいですね。
鈴木:そういうことですね。ストレスという概念を世界中に広めたラザルスという人は、日々の面倒ごとのことを「デイリーハッスル」と言っているのですが、天災やテロのようなストレスやライフイベントのストレスより、この「デイリーハッスル」のほうが人間の体調により多くの影響を及ぼしているのではないかと提唱しています。体の不調が出たときには、毎日の小さなストレスの積み重ねにちゃんと向き合いましょう。
——先ほどもおっしゃっていましたが、しんどいときに人にヘルプを出すのって難しいですよね。
鈴木:そうなんです。ヘルプを出す力って、すごく習得困難なレアスキルだと思ったほうがいいと思っています。公衆衛生医師の吉田穂波先生の言葉を借りると「受援力」と言ったりしますけど、これはそもそも高等技術なんです。段階的に身につけていくべきもので、まずその第一歩は重要性に気づくこと。重要性を理解してから、小さなヘルプを出して徐々に慣れていく必要があります。
助けを求めないタイプの人の多くは、他人に助けを求めてよかったと思えた経験に乏しい人なんです。どうしても相手運はありますからね。真摯に助けてくれる人だけじゃなくて、これを機とばかりに過剰に介入してきて支配してくる人、SOSを突っぱねる人……いろいろいます。信じちゃいけないタイプの人もたくさんいます。残念ながら。
「助けを求めてよかった」と思わせてくれるような人にあたる打率はだいたい3割くらいでしょうか。その3割を引くまでヘルプを出し続けるのはとても根気が必要ですが、助けてくれる人がいると感じられることは、そのまま世界や他者に対しての信頼感に直結します。まずは小さなお願いからはじめて、他者を頼ってよかったと思える成功体験を積んでほしいですね。
(聞き手:安次富陽子、構成:須田奈津妃)