心療内科医 鈴木裕介さん インタビュー 第2回

「自己開示ヤクザ」にならないために、気をつけたいこと【秋葉原の心療内科医に聞く】

「自己開示ヤクザ」にならないために、気をつけたいこと【秋葉原の心療内科医に聞く】

「悩みがあるのになかなか人に頼れない」「相談が苦手」という人に送る、心療内科医で秋葉原save クリニック(東京都千代田区)院長・鈴木裕介(Dr. ゆうすけ)さんのインタビュー。

『感情』は2歳児のゴリラ並みに厄介なので、弱さを打ち明けるにはコツが必要です」と話す鈴木先生。

第2回目となる今回は、「感情をうまく取り扱い、他者に弱さを開示する」ための具体的な方法を教えてもらいました。

感情をジャッジしない

——前回、弱さの開示ができないのは、話す側も聞く側も慣れていないという前提があることを教えていただきました。今回は、弱さの開示に慣れるための具体的なステップについて教えてください。

鈴木裕介さん(以下、鈴木):まずは”ありのままの感情を認める”ことからですね。例えば「小さなことに悩んだり、傷ついたりしている自分なんてダメだ」と思っている人が、「ダメで弱い自分」を他者に開示するのはハードルが高い

不安は危険を回避するため、罪悪感は関係改善のため、というように、感情っていうのは基本的に役割があって生じているので、どんな感情も「ダメだ」とジャッジせずに、まずはそれが「生じているなあ」とそのまま認めてあげれば溜め込まずに早期に吐き出せるようになるでしょう。

「感情をコントロールできるのが大人だ」ってよく言われますけど、そもそもこれって大きな勘違いなんですよね。感情はビースト(獣)だってよく言っているんですけど、「2歳児のゴリラ」みたいな感じなんですよ。わりと厄介なやつなので(笑)。

——2歳児の……ゴリラ……?

鈴木:そうそう。類人猿だから全くコミュニケーションがとれないわけじゃない。でも、そもそもパワーが強いし、こっちの言うことなんてほとんど聞いてくれない。感情ってそれくらい扱いにくいものなんですよね。

——確かにネガティブな感情を抱いているときは、その感情に思いっきり振り回されちゃっている気がします。

鈴木:感情を無理やり抑え込もうとしても、あとあと爆発したりします。力じゃかなわないんですよ、猛獣ですから。ごちゃごちゃした部屋に置いてあるものを、とりあえず全部押入れのなかに無理やり詰め込んでおいたら、急に雪崩が起きることってありますよね。あれと同じです。感情も押さえ込めば抑え込むほど、あとから手痛いしっぺ返しをくらうんです。

だから僕は、ネガティブな感情を抑え込むんじゃなくて、「感じた感情と、その後の行動を分けられていたら、それで十分です」って患者さんに伝えています。

——具体的にどういうことでしょうか。

鈴木:例えば「怒ったから相手を殴ります」とか「傷ついたから手紙にカミソリ入れて送ります」とかは社会的にアウトな行為ですよね。でも、心のなかでいくらムカつこうが、「このやろう」と思おうが、それは個人の自由です。

ネガティブな感情が湧き上がってくること自体は認めてあげる。でも、その感情の勢いに流されて、反射的に自分があとで後悔するようなネガティブな行動に結び付けない。これができれば十分なんじゃないでしょうか。

YA200622_0093

自分を否定してきた他者の声が「自己攻撃状態」をつくる

——「自分はダメだ」「役に立たない」といった自己否定の気持ちが湧いてくるのを止めるには練習が必要かもしれません。というか、そもそも自分を否定するような感情ってなぜ生まれてしまうんでしょうか。

鈴木:そういうのを「自己攻撃状態」といいます。過去に自分を否定的に捉えてきた人たちの声を内在化させてしまって、自我の真ん中にインストールしてしまっている状態です。例えば、小さい頃から周囲の大人に否定され続けてきた人や、批判的なパートナーとずっと一緒にいるような人などによく見られます

——厳しい親とかパートナーの声や目線を自分の真ん中に……。

鈴木:自分で自分をずっと攻撃するのがツラいので、次第に「あの人は自分のことを役立たずだと思っているはずだ」というように、他者が自分を否定しているかのように思い込んでしまうことがあるんです。

例えば「上司から無能だと思われているに違いない」って悩んでいる人は、もしかすると上司ではなく自分が根本のほうで「自分は無能で必要とされていない存在だ」と深く思い込んでいる可能性があるということです。そうした自分の中の否定的な思い込みが、いろんな人の中で再現されてしまう。

——「自己攻撃状態」から抜け出すには、どうしたらいいんでしょうか?

鈴木:難しいのですが、すぐに自己否定的になってしまう人は、まずは「自己攻撃状態」に陥っている可能性に気づくことが大切だと思います。

先程も言ったように、内なる声は自分の声ではなく、過去にあなたを否定してきた人たちの声なんですよね。自分という存在のコントロールルームに、「敵国の司令官」が潜り込んでいて、そいつが自分にダメージを与える指示をしているようなものです。敵の司令官の声が、あたかも自分固有の感情のように装って、自分に対して否定的なメッセージを発令し続けている。

この構造に気づければ、「私がダメなんだ」ではなく「その他者の声を自分から追い出そう」と考えやすくなります。

YA200622_0053

弱さの開示を迫る「自己開示ヤクザ」にならない

——感情をそのまま認められたら、その次のステップは他者への自己開示ですか?

鈴木:そうですね。ここで大前提として伝えておきたいことがあって。それは、人とどのくらい秘密を共有したいかという程度は、個人差があるということです。深刻な秘密や、弱さを開示せずに他者と一定の距離感を保ちたい人がいることを忘れてはいけません。

その人の特性や意志を無視して弱さの開示を迫るのは、とっても暴力的でもあって。僕も一時期弱さの開示を迫る「自己開示ヤクザ」みたいになってしまって、後悔した経験があります。

——私が弱さを開示してるんだから、あなたも弱さを開示してよ、みたいな?

鈴木:そうそう。だから最近は「ヌーディストビーチ」的なアプローチをおすすめしています。「こっちは勝手に開示して気持ちよく真っ裸になっているだけですけど、あなたもよかったらどうですか?」「そんな厚着で暑くないですか?」みたいな(笑)。

——なるほど(笑)。

鈴木:自己開示にはリスクを伴いますが、うまくいくとずっと防衛に気を張っていなくてよくなります。攻撃されない場所では無防備になれた方が、ラクだと思うんです。でも、もちろんコートを着込んで生きる自由は一人ひとりにあるわけで。それが悪いとも思いません。だから、相手が望んでいなかったり、危険を感じているのに無理に自己開示を迫らないように気をつけたほうがいいですね。

弱さを打ち明けるときに意識したい「誠実さ」

——他に気をつけたほうがいいことってありますか?

鈴木:そうですね。あくまで「フェアな関係」でいることでしょうか。「私はツラいので、ああしてください。こうしてください」って一方的に要求を押し付ける。でも、相手からの要求は一切聞かないっていうのはフェアな関係じゃないですよね。

——そうですね。

鈴木:フェアネスがない弱さの開示は「私は苦しいから、あなたがケアしなさい」という相手を操作するような関係性につながってしまう。自分に対する憐みや被害者性にとらわれている状態のことを「自己れんびん」といいます。著書『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本 』では、自己れんびん状態になっている人が、弱さを用いて他者を操ろうとする態度に陥りやすいことについて触れています。読者さんから「読むのが一番つらかった」と言われる箇所でもあります(笑)。

——弱さを盾に、相手にケアを一方的に迫るということですね。

鈴木:ええ。弱さを人質にして相手を操作しようとしないこと。自分の言い分だけでなく、相手の話もしっかり聞いて、なるべく対等でいようとすること。自分の荷物は自分で持つという態度が前提の上で、どうしてもしんどいときは、その旨を伝えて、しっかり支えてもらう。大人の「弱さの開示」にはそうした誠実さも大切なんじゃないでしょうか。

「自己れんびん」に陥ってしまっているな、と感じたら「今、自分は本当に変わりたいと思っているのか」を問い直すといいでしょう。大事なのは「これから自分がどうしたいか」を自分自身で繰り返し判断していくことです。

2-2YA200622_0062

第3回は8月26日(水)公開予定です。
(構成:岡本実希、撮影:青木勇太、聞き手、編集:安次富陽子)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「自己開示ヤクザ」にならないために、気をつけたいこと【秋葉原の心療内科医に聞く】

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング