仕事でタスクを忘れてしまったり、後回しにしてしまったりする“脳のクセ”は、私生活にも影響を及ぼします。
たとえば、小さい頃から片付けが苦手で友だちを家に誘えなかったり、汚部屋のせいで恋のチャンスを逃してしまったりという苦い経験はありませんか? ズボラなだけとも思える、片付けができない「困った!」の陰に、実は“脳のクセ”が潜んでいることがあります。
ADHDの専門家・司馬クリニックの司馬理英子先生にお話を聞きました。
第1回:ズボラな自分に悩む貴女へ ADHD脳が原因かも
第2回:自己肯定感の低さがキャリアの妨げに…
「片付けられないクセ」は悪循環を招く
——第1回目のインタビューで、ADHD脳のクセの一つに「片付けられないこと」があるとお話しいただきました。散らかった部屋に住んでいることが、仕事にも影響することはあるのでしょうか。
司馬理英子先生(以下、司馬):部屋が散らかっていることによって集中力を奪われますし、生活が不摂生になりますよね。探し物ばかりでうんざりしますし、それによって出社が遅れる可能性もあります。
——悪循環を招いてしまうのですね。部屋が散らかってしまう人は、どのようにすれば片付けられるようになりますか。
司馬:要らない物をちょっとずつ捨てるのが理想かもしれませんが、片付けられない人はコツコツやることが一番難しいんです。まずは、自分に片付ける能力があるかないかを自問すること。そして、もし「片付けられない」という結論が出たら、ほかの人の力を借りることを決心してほしいかな。
——たとえばハウスクリーニングにお願いするとか?
司馬:経済的に可能であればそういう手もありますし、信頼できる友だちに来てもらうのもいいと思います。一度きれいな状態にして、そこから整理整頓を考える方が断然ラクですよね。
部屋を写真に撮ることで要らないモノが見えてくる
——「こんな散らかった部屋を誰かに見られるのは恥ずかしい」と考えて、人に頼めない人もいるかもしれません。その場合に、1人でもできる方法はありますか?
司馬:「自分の部屋を誰かに見られるのは嫌」と患者さんに言われた場合、私は部屋の写真を撮ってきてもらうことにしています。写真を見ることで自分の部屋を客観視でき、「この紙袋をいつも踏んづけちゃってジャマなんだよね」「空のペットボトルが散乱しているなぁ……」など、初めて分かることもありますから。一緒に写真を見ながら「この包装紙は要らないから捨てましょう」などとアドバイスをして、次の診察日にもう一度写真を撮ってきてもらいます。
——写真に撮るだけなら簡単ですし、いい方法ですね!
司馬:たまに、プリントアウトするのが面倒くさいと言われちゃうこともあるんだけど(笑)。そういう人は、iPadなど大きい画面のデジタルツールで管理するのもいいかもしれません。ポイントは、部屋が片付いている状態の快感と価値を知ってもらうこと。
——いったんきれいになったら次はどうすればいいですか?
司馬:次に実践したいのは、「使ったら所定の場所に戻す」を徹底すること。ADHD脳の人が片付けられないのは、ルールがない状態なんです。最近いらした患者さんは「文房具の置き場所を決めてみたら、部屋がきれいになりました」と言っていました。それまで、服も本も文房具も、すべてランダムに収納していたそうです。まずは「衣類はこのあたり」「本はこのあたり」というふうにざっくりとした置き場所を決め、ラベルを作ってモノの住所を決めていくといいですよ。
洋服は6パターンに。モノを減らして散らかる原因をブロック
——片付けられない人って、ズボラなのかなと思いがちなんですが、実はこだわりが強かったり完璧主義だったりする人もいるようですね。
司馬:そういうタイプの人もいますね。「完璧に片付けたいから、片付け方の本を読むところから始めないといけない」「こういう順番でやらないといけない」みたいな融通のきかなさも“脳のクセ”の特徴です。
——持ちものを減らすのも、部屋をきれいに保つための一つの手段でしょうか?
司馬:自分で管理できるだけの量を持つということも大事だと思います。たとえば洋服は、上下の組み合わせをあらかじめ決めて、6パターンまでしか持たない。センスのいい友だちの手を借りることができれば、もう着ない服を思い切って手放せるかもしれません。
——1人で抱え込みすぎないのが大事なんですね。
司馬:やっぱり、誰かが一緒にやってくれるだけでも面白いじゃないですか。「ランチおごるからちょっと手伝って」と頼めば、「行く行く!」って来てくれる人もいるはずですよ。
【今日から実践!部屋が片付く3つのステップ】
【1】部屋を写真に撮って客観視する
【2】モノの住所を決めてラベルを貼る
【3】洋服は6パターンに絞る
次回は、「言うことがコロコロ変わる上司」や「締め切りを守れない部下」など、まわりの人がADHD傾向にある場合のサポート方法についてお話を聞きます。
(取材・文:東谷好依、写真:青木勇太)