司馬クリニック・司馬理英子先生インタビュー 第1回

ズボラな自分に悩む貴女へ 毎日の「困った!」はADHD脳が原因かも

ズボラな自分に悩む貴女へ 毎日の「困った!」はADHD脳が原因かも

「そのアイデアいいね」と言われたのに、採用されたのは同期のあの子の企画。期待していた新規プロジェクトのリーダーには後輩が抜擢。頑張ってるねと言われることも多いけど、思い通りの評価が得られないと感じている。それって、日ごろの業務で「うっかり」が多いからではないでしょうか?

遅刻、凡ミス、後回しグセ……。よく考えてみると、フラフラとして頼りない自分の姿が見えてくるかもしれません。でも、落ち込むのはちょっと待って。うっかりしてしまうことが多いのは、ズボラだからではなく「脳のクセ」が原因かも。

発達障がい専門クリニック・司馬クリニックの院長であり、ADHD(注意欠如・多動性障がい)に関する多くの著書を持つ司馬理英子先生に、脳のクセについて伺いました。

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ケアレスミスを引き起こす3つの“クセ”

——司馬先生は、著書『仕事&生活の「困った!」がなくなる マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』(大和出版)のなかで、ADHD傾向の脳のクセを「ADHD脳」と呼んでいますね。実際には、どのような“クセ”がみられるのでしょうか。

司馬理英子先生(以下、司馬):まず、忘れっぽさが挙げられます。それから、集中を維持できないこと。楽しいことから先に手をつけるため締め切りを守れなかったり、片付けができなかったりするのもADHD脳のクセの一つですね。整理整頓が苦手で、いつも探し物をしている人が多いです。これらは不注意の症状です。

——一見、ささいなケアレスミスのようですが、積み重なると厄介ですね。

司馬:そうですね。常に手や髪をいじっていたり、貧乏ゆすりなど体の動きが多かったり落ち着きのなさ(多動性)も特徴です。口の多動といわれる、すごくおしゃべりな人もいますね。

あとは、衝動性。「ちょっと考えればそんなこと言わなくて済むのに」と周囲が思うような失言や、欲しいものを見つけると我慢がきかずに衝動買いをしてしまうこともよくあります。待つことや、じっくり物事に取り組むのが苦手です。

——う〜ん……。なんだか私自身も当てはまることが多いです。

司馬:まあ、誰しもいくつかは思い当たる点がありますよね。「そんなの誰にでもあることじゃない」と感じるかもしれませんが、ADHD脳が原因で生きづらさを感じている人の場合、ミスを起こす回数が想像以上に頻繁。小さな問題が積み重なって、せっかく得た仕事や信頼関係など深刻なものを失くすことも多いです。それによって自己評価も低くなってしまうというのが、目に見えて分かる症状以上に残念なところだと、私は思っています。

ダイエットが続かないのは脳のクセのせいかも

——司馬クリニックでは、子どもと女性を対象に診察を行っていますが、どのような悩みを相談されることが多いですか。

司馬:お子さんであれば、落ち着きがない、集中力がなくて授業中にしょっちゅう叱られるなどの理由でお母さんが心配して相談に来ることが多いですね。大人の女性の場合は、仕事がうまくいかない、人とのコミュニケーションがうまくとれない、という悩みが多いです。話を聞いていくと、部屋を片付けられない、何度ダイエットに挑戦しても成功しない、などプライベートの悩みも複数抱えていますね。

——えっ! ダイエットが成功しないのも脳のクセのせいなんですか?

司馬:脳のクセが原因の人もいますよ。ダイエット中だからケーキは我慢するとか、焼き肉をドカッと食べないとか、普通は決めたことを守りますよね。でもADHD脳の人は、一度決めたルールを守り続けるのが難しいの。「今日はお祝いだから」「明日の食事を軽めにして調整すればいい」など、ほどよく言い訳をして、目の前の楽しみを選んでしまうんです。最初は「やるぞ!」とテンション高く始めるんだけど、結局は3日坊主になってしまいます。

——耳が痛い……。

司馬:若いうちはいいけど、中年以降になると、節制できる人とできない人では健康状態が違ってきますよね。節制できないことで、体の不調にもつながったり、生活習慣病を引き起こしたりすることもあります。自分の「脳のクセ」を把握して、節制できる仕掛けをつくることが健康対策にもつながるんですよ。

脳のクセを乗りこなす工夫が、日常の「困った!」の解決につながる

——最近では「大人の発達障がい」が話題になることも多いですね。

司馬:10代の頃は学校生活だけで、家族のサポートもあるので、ADHD脳があまり表面化しないまま20代になり、働くようになったり結婚して子どもが生まれたりしてから、とっても大変になるというケースもありますね。

——それまで、「のんびり屋さん」「うっかり者」などと言われてきたけれども、実は脳のクセのせいだったということもあり得るんですね。自分がADHD脳かどうか知る方法はありますか?

司馬:ADHDに関する本を読んで、当てはまる点や共感ポイントを確認していけば、「私はこういう不注意タイプだな」というのがある程度分かると思いますね。その上で、脳のクセを乗りこなす工夫をすれば、仕事や生活がスムーズにまわることもあります。ADHD脳の人は、発想力が豊かだし、興味を持てばすぐに動けるという長所を持っている人もいます。日常の「困った!」を減らせば、その長所を発揮できる可能性も生まれますよ。

次回はADHD脳を乗りこなすためのさまざまな「コツ」についてお話を聞きます。

第2回:自己肯定感の低さがキャリアの妨げに…ADHD脳が仕事に与える影響と対策

(取材・文:東谷好依、写真:青木勇太)

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