『スマホを置いて旅したら』インタビュー前編

「“小さな窓”では見えない景色がある」ふかわりょうがスマホを置いた3泊4日の旅で取り戻したもの

「“小さな窓”では見えない景色がある」ふかわりょうがスマホを置いた3泊4日の旅で取り戻したもの
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タレントのふかわりょうさんが、4月15日(土)に、最新刊『スマホを置いて旅したら』(大和書房)を上梓しました。

「スマホを持たずに旅したら、どんな景色が見えるだろう?」

そんなピュアな好奇心から、スマホを「留守番」させて、3泊4日、岐阜県美濃地方へ旅に出たふかわさん。台風に見舞われ、目的地にたどり着けるか危うい中スタートした旅で、ふかわさんが出会ったものとは? 前後編でお届けします。

あの解放感をもう一度

——スマホを置いて3泊4日旅をすることが、1冊の本になることに驚きました。それくらい私たちの生活で切り離しがたいツールになっているのだな、と。この旅を決めたとき、どんなことを考えましたか?

ふかわりょうさん(以下、ふかわ):以前、5回にわたるアイスランド旅行をまとめた『風とマシュマロの国』(幻戯書房)という本を出版しました。その本でも触れているのですが、初めてアイスランドを訪れたとき、携帯電話のアンテナが立たず圏外になってしまったんです。

最初は不安になりましたが、しばらくすると不安が薄れ、むしろ体がフワーっと浮かぶような解放感があって。いまだに忘れられないあの感覚が、今回の旅のひとつのきっかけになったと思います。

アイスランドを初めて訪れたのは2007年。あれから手にするものが携帯電話からスマホに変わり、さまざまな機能が増える中で、画面と向き合う時間は長くなっていきました。

——いまや、電車やバスに乗ると、ほとんどの人がスマホの画面を見ています。飛行機の中でもオフラインで動画を観たり……。

ふかわ:車窓から景色を眺める人はほとんどいなくなり、代わりにスマホの画面という「小さな窓」を見る人が増えていますよね。それぞれ仕事やコミュニケーションに忙しいんだろうなと思う一方で、誰もがスマホに集中している光景に違和感もあって……。

スマホで埋められていた隙間から、どんな景色が見えるだろう? そんな好奇心がつのり、スマホを置いて旅に出ることにしたんです。

——確かに、スマホを手にしてからは、どこでも仕事ができるし、いつでも連絡が取れるようになりました。便利な一方で、常に何かに追われている感じもします。

ふかわ:以前、家の近くで、電線の上を歩くハクビシンに何度か遭遇したことがありました。スマホの画面に気をとられていたら気がつかないものってたくさんあるんだろうなって。

とはいえ大前提として、僕はスマホを悪者にはしたくないんです。スマホは文明の賜物であり、便利なツールだと思っています。ただ、僕はそれをうまく取り扱えないタイプなんでしょうね。

スマホを置くとローファイな世界が見えてくる

——スマホを置いて旅に出ることで「取り戻したいものがあった」と書かれていました。取り戻すことはできましたか?

ふかわ:この旅で取り戻したかったもののひとつに「ぼーっとする時間」がありました。本来ぼーっとすべき時間にスマホを見ていると、いろいろな情報を浴びてしまいます。そうすると、心も脳も休まりません。まぁ、これはあくまで僕の感覚なので、みんなに当てはまることではないかもしれませんが。

旅の最中、電車やバスを待つ間など、ひたすらぼーっとしていました。そうすることで、心も平穏を取り戻せたのではないかと思います。

——本作の帯にも使用されている「誰かの目線や価値観を通過したものではなく、自分の感覚で実感したい」という一文に共感しました。これは私自身の悩みですが、自分で選んだと思っていても、誰かに選ばされている感覚があるんですよね。

ふかわ:自分がどう思うかよりも、周りがどう思うかに比重を置いて選択することが増えましたよね。それによって、生きている実感とか、そういった類いのものを奪われてしまっている気がします。

僕はレコードの「ジャケ買い」が好きでよくやっていたんですが、いまはいろいろな意味でジャケ買いしにくい世の中になってしまったように感じます。例えば、お店を選ぶときはグルメサイトを見てから決めることが多いですが、昔は店構えとか暖簾や看板とか、そういうもので判断していましたよね。

——そうですね。いつの間にか事前に検索することが当たり前になっていますね。

ふかわ:スマホって、多分、ものすごいスピードで走っている乗り物なんですよ。僕らはこの乗り物の小さい窓を眺めて、毎日、ハイスピードで情報を得ている。

本の帯に「明日の彩りが変わる、ローファイ紀行」と書きましたけど、スマホを置くことで、ノイズやざらつきの交じったローファイな世界が見えてくると思っていて。同じ世界でも、肌ざわりが全然違うというか、世の中の感触が変わると思うんです。

偶然の中にある人生の潤い

——本作には、人やモノとの偶然の出会いがたくさん記録されていますよね。そのあたりも、とてもおもしろかったです。

ふかわ:心に電流が走るような美濃和紙や、夜にとける「3匹のおじさん」など、さまざまな人やモノに出会えました。

美濃市駅でバスを待っているとき、目の前に青い実をぶら下げた木があったんです。「これは何の木かな」って見つめた先に、建物があって、何だかお店っぽく見えたんですね。それで、ぐるっと正面に回ってみたら、小さなカフェで。

——そういう出会い方って、いまは貴重かもしれません。

ふかわ:なんてことない出来事ですが、スマホを持っていたら、多分「駅前の喫茶店」って検索して、お店を探していたと思うんですよ。

だけど、柿の木(青い実をつけた木は柿の木でした)の枝葉の隙間から見つけたカフェのコーヒーは、検索でたどり着いたそれとは違う味わいになる。いろいろな出会い方があっていいと思いますが、僕はただ、そういう出会い方のほうが好きなんです。

インタビュー後編は4月29日(土)公開予定です。
(取材・文:東谷好依、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)

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