人生100年時代と言われる現代ですが、長生きをしても「健康」でなければ自分の満足のいく人生を送れないかもしれません。健康を維持しながら長生きができれば、より自分らしい人生プランを考えることができるのではないでしょうか。
健康に生きるためにいま注目されていることのひとつが「睡眠」です。睡眠時間の長さだけではなく、「睡眠の質」について気にしている人も増えています。スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで睡眠の状態をチェックしたり、運動やストレッチ、サプリメントや飲料などで睡眠の質を向上させたりしている人もいます。
「健康長寿」を目指し、最先端の研究を学ぶYoutube番組「生命科学アカデミー」では、今回、ゲストに筑波大学の柳沢正史先生をお迎えしました。同プログラムのHIROCO学長が聞き手となり、「睡眠」の奥深さについて迫ります。

柳沢先生(左)とHIROCO学長(右)
メンタル・メタボ・認知症・がん!睡眠不足は万病のもと
──「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を総称して「睡眠」。それが少ないと、具体的にはどんな病気であったり、身体の状態になったりしてしまうのでしょうか。
柳沢:いわゆる慢性的な睡眠不足の状態だと、私がよく言っているのが「メンタル、メタボ、認知症、がん」のリスクがあるということです。
──メンタル、メタボ、認知症、がん! これは……。
柳沢:大体全部なんですよ。だから、睡眠不足は万病のもとだし、睡眠の障害はすべてのコモンな(ありふれた)病気のもとになるということです。コモンな病気が悪くなると、逆に睡眠の状態が悪くなるとも知られているので、いわゆる相互リスクの関係にあるわけです。
──これまで健康長寿の秘訣についていろんな先生からお話をうかがっておりますが、「睡眠が非常に大事」だとみなさんがおっしゃっていたのが、ここに繋がってきているんですね。
柳沢:そうですね。例えば、うつ病のリスクなどもどんどん上がりますし、下手をすると過労死と言われるようなことも起こります。あれも、かなりメンタルの影響が大きいと思うので。それからメタボです。ダイエットの最大の敵は寝不足なんですよ。
──ええ!? そうなんですか。
柳沢:これは非常に強固なエビデンスがあります。いわゆる介入試験というのですが、ちょっと太り気味かつ寝不足気味の人を集めて、2週間だけ毎日2時間多く眠ってもらいます。そうすると、現実にはひとり平均1時間半くらい多く眠ります。その間に、なんと平均摂取カロリーが1日あたり300キロカロリー減ります。
逆に、健康な人の睡眠を、2週間に渡って1日4時間に制限して寝不足の状態にする。そうすると、1日の摂取カロリーが300キロカロリーくらい増えます。実際、そのたった2週間の間に、平均0.5キログラム程太って、お腹の中の内臓脂肪が10パーセント増えました。
──これはまずいですね。
柳沢:まずいんです。
日本の働き世代の約8割が寝不足
──先生が推奨されている睡眠時間の長さとしては、どれぐらいが一番良いのでしょうか。
柳沢:最適な睡眠時間は、人によって違います。個人差があるので。平均7時間くらいと言われていますが、短い人は6時間くらいで済む人もいるし、逆に8時間くらい眠らないとダメな人も結構います。だから、自分にとっての必要十分な睡眠時間を決めなければいけなくて、それは自分自身で実験して決めるしかありません。
どうやるかというと、土日休日も含め、ここが大事で、つまり土日休日も平日と同じ時刻に寝て同じ時刻に起きる。例えば、0時から7時まで眠る。それで、「昼間に眠くなくて、自覚的にも十分寝ている気がする」となれば、その人は7時間睡眠でいいと言えます。
人によっては、「何となくそれでも足りない」と感じる人もいて、その場合は毎日30分くらい延ばしてみる。それでどう感じるかです。それから、7時間眠る必要のない人は、それだけ寝ろと言われても眠れない。
日本の働き世代の方々も、7~8割は寝不足です。彼らに対して私がよく言うのは、「土日も同じ時刻に起きてください。前の日も同じ時刻に寝てください」ということ。そこから始めて、5日間とか1週間とかでいいので、騙されたと思って毎日30分ずつ長く眠ってください、と。それで、人によっては「今まで霧の中、モヤの中で生活していたのが、晴れました」っていう人もいるぐらいです。それだけ無自覚な睡眠負債が溜まった状態っていうことですよね。
──そうなんですね。
柳沢:そうやって、自分にとって十分な睡眠時間を決めていくしかないです。睡眠は貯金ができません。
普段寝ている時間より30分長く寝てみる
──貯金というのは、「寝溜め」みたいなことですね。
柳沢:そうですね。借金はできます。それが睡眠負債です。借金をしてそれを返すことはできるけれど、貯金はできないんですよ。
どういうことかというと、十分に眠れていると、それ以上眠ろうとしても眠れないんです。起きてしまう。私は、自分で紺屋(こうや)の白袴にならないように(笑)、自分の場合は0時から7時をコアの睡眠タイムと決めて、できるだけそれを守るようにしています。もちろん守れない日もありますが……。そうすると、土日でも朝7時くらいになると本当に自然に起きます。ほとんど自然に起きるので、「自分はそれで大丈夫なんだろうな」という風に思えています。
普段の睡眠時間を、30分ずつ長くしてみてください。延ばすほうから絶対にやってみてください。
──睡眠時間を延ばすほうからです、みなさん! 今回は、「睡眠」そのものが非常に重要だということが、レム睡眠、ノンレム睡眠の研究からもわかってきたというお話を聞けました。まず今日からできることを少しずつやっていけたらいいなと思います。
◆まとめ
・メンタル、メタボ、認知症、がん・・・睡眠問題は万病のもと
・ダイエットの最大の敵は睡眠不足!
睡眠時間を1日2時間増やすだけで、平均摂取カロリーが300kcal減る
・2週間にわたり1日2時間睡眠時間を減らすだけで内臓脂肪が10%増える
・睡眠は貯金できない(「寝だめ」は不可能)
〈自分に最適な睡眠時間を探す実験方法〉
・土日&平日も含め同じ時刻に寝て同じ時刻に起きる
・そのうえで5日間、睡眠時間を1日あたり30分延ばす
減らすのではなく延ばすのがポイント!
→昼間眠気がなく、十分に眠れている自覚があれば、それが自身にとって最適な睡眠時間
(第5回へ続く)
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