賃貸住宅の退去時に起こりやすい、原状回復トラブルや敷金返還トラブルの事例と解決策について、「安全で快適な暮らし」をモットーにメディアでも活動する不動産アドバイザーの穂積啓子さんに最新情報(2023年2月時点)をもとに連載で尋ねています。
第1回・第2回は部屋のクロスやフローリング、ハウスクリーニングなどの「原状回復」の費用は借主と貸主(家主)のどちらが負担するのかについて、第3回は退去時の部屋の徹底した確認法について、それぞれ、2020年の民法改正や、2004年から国土交通省(以下、国交省)が公表する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の情報をもとに伺いました。今回は、退去後に敷金が返還されない場合にはどうすればいいかについて聞きます。(リンク先は記事の下を参照)
原状回復の費用を請求されたが明細不明のケース
——これまでのお話しでは、賃貸住宅を退去するとき、敷金は借主が家賃の滞納や、故意に著しく破損していない場合は、全額が返還されるとのことでした。しかし現実には、「敷金の返還の明細に、『原状回復箇所3カ所 11万円』とだけ記された請求書を受け取った。どこの部分かまったく思い当たらない」(43歳・男性・自営)、「『住居内修理 24万円』と合計額のみ記されていた」(38歳・女性・公務員)と話す人や、ほかにも同様の経験をしたという人がいます。
穂積さん:家主に必ず、「その3カ所はどこのどの部分でどういう判断をしたのか。明細の提出」を求めてください。請求する側は、その根拠となる精算明細書を借主に明示する義務があります。
国交省のガイドライン(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html
)にはその点と、別表4(P.28)として「原状回復の精算明細等に関する様式(例)」を掲載したうえで、「精算明細書を作成し、双方合意することが望ましい」と明記しています。
東京都が発行する「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン 第4版(令和4年12月)」(
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-6-jyuutaku.pdf?2022=)にも同様の記載があります。
敷金が戻らない場合はすぐに家主に請求を
——明細が記されていないのにそのまま泣き寝入りした人もいます。さらに、「退去後、敷金が1カ月以上経っても返還されない」(38歳・女性・会社経営)と悩む人もいます。
穂積さん:すぐに家主に、「退去後、もう1カ月以上も経っています。敷金はいつ返還されるのですか」と連絡してください。民法では、家主は「確定期限があるときはその期限までに支払う」「期限が不確定の場合は、①家主が期限の到来を知ったとき、②期限の到来したのちに借主から請求を受けたときのうち、いずれか早いとき」に支払う必要がある、と定められています。
賃貸借契約書に期限が記載されている場合はもちろん、記載がなくても退去時に約束した返済日までに家主は支払う義務があるのです。
——それならば、家主の怠慢ではすまされないことですね。では、賃貸借契約書に敷金返還日の記述がなく、退去時に確認をしても返答がなかった、あるいは借主が確認をし忘れたという場合は返還はいつになりますか。
穂積さん:これも民法に、家主は「建物の明け渡しを受けたらできるだけ早くに敷金返還の額を確定させて、借主に変換すべきこと」とあります。とにかく借主は、「賃貸借契約書に敷金返還の期日について記載があるかどうか」を確認しましょう。そのためにも、敷金の返還があるまで、重要事項説明の書類や賃貸借契約書を捨てずに保管してください。
例として、契約書に「敷金は退去日から1カ月以内に返還する」と明記してある場合は、その期日の当日か遅くとも翌日に、すぐに家主に「契約書には敷金返還の期日を1カ月以内と記されている。今日の時点でいまだに返還がないが、いつされるのか」と、具体的に日付けを尋ねてください。
民法では、家主が期限が到来しても敷金を返還しない場合、期限の到来日から、また期限の定めがない場合は借主から請求を受けた時点で「履行遅滞(りこうちたい)」になります。訴訟になると、借主は損害賠償などを請求することができるということです。
敷金返還の請求は借主の権利
——それで、前回(第3回)でも紹介したように、「借主が問い合わせたら、すぐに返還してきた」というケースも多いのですね。
穂積さん:その例もとても多いです。家主や管理会社は、こうした法律やガイドラインの条項を知っているので、催促された場合にはすぐに支払うわけです。言い換えれば、「催促をされなければ返還しない」「あわよくば忘れてくれるかも」などと考える家主や管理会社がいるかもしれないということです。
家主への敷金返還に関する問い合わせや請求は、「借主の権利」です。もし自分でしにくい場合は、身内や上司などに頼んでみてください。
もうひとつ重要なことなのでくり返しますが、退去時には必ず、家主側に、「敷金の返還日はいつですか」と確認してください。明け渡し時の住宅の状況確認時に尋ねる場合は、立ち会い人が家主ではなく、管理会社や内装業者が来て即答しないこともあります。その際は「明日までに、いつになるかのご連絡をお願いします」と念押ししましょう。こうしたあらかじめの確認は、「知識があるな」と家主側に印象づけることにもなり、敷金返還を促す場合もあるでしょう。
——筆者も退去時に原状回復の費用を請求されて面倒で泣き寝入りしたことや、敷金がなかなか返還してもらえずに家主に電話した経験があります。ただし、そもそもこうした情報に無知でした。情報を知っておき、早めに家主に敷金返還日について確認しておくことが、トラブル回避のポイントとなりそうです。次回・第5回は、トラブル回避のために入居時にするべきことについて尋ねます。
(構成・取材・文 品川緑/ユンブル)