2009年に劇団・月刊「根本宗子」を旗揚げし、独自の世界観で演劇ファンを魅了する根本宗子さん。このたび、“映像化不可能”と言われた舞台『もっと超越した所へ。』が映画化され、10月14日(金)に公開予定です。
4組のカップルが織りなす、選択のドラマの行く末は? タイトルが表す“超越”とは一体何なのか——。
根本さんへのインタビュー前編では、演劇作品が初めて映画化されたことへの思いや、演劇と映画における表現の違い、なぜいま「映画」なのかについてうかがいました。
演劇のオモシロを映像でどう見せるか
——ご自身の演劇作品が映画化されるのは今回が初めてですよね。プロジェクトについて聞いたときはどのように感じましたか?
根本宗子さん(以下、根本):驚きました。これまで、演劇作品をつくるときは「演劇でやるからおもしろいこと」を突き詰めてきました。今作もそのつもりで脚本を書いたので、映画化しないかと声をかけていただけるとは思っていなくて。でも、打ち合わせを進めていくうちに、これはおもしろくなるかもしれないと確信を持てました。
——“映像化不可能”と言われていた作品で、演劇とは勝手が違う部分も多かったのでは?
根本:そこが不安だったのですが、元の脚本のセリフをほぼそのまま引き継ぐことができました。演劇作品の映画化としては珍しいくらい、原作を大事に扱っていただけた感覚があります。
小説や演劇作品を映画化するときって、「もう少し大衆性を持たせたい」など、制作側の思惑がいろいろ出てくると思うんですよ。このセリフをこう変えてくださいとか、キャラクターをもうちょっと立たせてくださいとか。でも、今回は「根本宗子作品の映画化」に重きを置いてくださっていて。演劇のオモシロを、いかに映像で成り立たせるかに熱を注いでもらえた感じでした。
——なるほど。映画だからこそできたことはありましたか?
根本:演劇では部屋が上下に4つ並んでいるセットだったので、家の中だけで物語を進める必要がありました。一方、映画では、家の外のシーンも盛り込めたので、それぞれの関係の深まりや、感情の起伏がより伝わりやすくなったのではないかと思います。
それから、女性4人の生活の違いなどは、映画だからこその表現ができました。例えば、お米を食べるシーンでは、レトルトのご飯を食べる人もいれば、雑穀米を混ぜて土鍋で炊く人もいる。あそこまでの細かいディテールは、演劇でもやってはいたんですが、一番後ろの客席までは届かなかった部分なので嬉しかったです。
舞台上だと、お米に何か入れる動作をしながら、「十穀米は体にいい」みたいなセリフを言わなきゃ観客に伝わらないじゃないですか。でも、映画なら、それを言わなくても俳優の表情と手元に寄るだけでいろいろなことが表現できるんです。
——演劇は、どうしても口数が多くなりますよね。
根本:そうですね。舞台の真ん中に立って静かに涙を流しても、2列目くらいまでは泣いているとわかるけれど、最後列の人は、ただ立っているのか泣いているのかわからない。そういった感情をどう見せるか、一番前と一番後ろの席にどうやって同じように伝えるか、を俳優と考えていくのが演劇のおもしろさだと思うんです。
一方で、誰もが最前席に座っているかのように、同じタイミングで出来事を分かち合えるのが、映画の良さだと思っています。
演劇の外から観客を引きこみたい
——根本さんは、2020年に上演した『もっとも大いなる愛へ』の後、約1年間、演劇活動を休止していましたよね。いち観客として演劇界を眺めてみて、いかがでしたか?
根本:いまの演劇界は、プロデュース公演のように、役者がその都度集まって解散して……といった形式が増えています。でも、自分が演劇を始めた頃は、種々雑多な劇団が活動していて。小劇場ブームみたいなのものがギリギリ残っていた時期に演劇を始めたので、自分は劇団に対する憧れが強いんですよね。
——劇団公演の良さって何でしょう?
根本:劇団の個性に惹かれて、お客さんが集まるところかな。例えば、宮藤官九郎さんが脚本を書いた作品は、「クドカンの表現」を目当てに観に行く人が多いですよね。私はそうやって「この人が作っているものだから」って、信頼して何かを観に行く行為が好きなんです。
いまのままだと、大衆を惹き付ける個性ある劇作家が、演劇界から出てこなくなってしまうんじゃないかと危惧しています。そういうことを踏まえて、30代になってからは、今後、演劇界でどのポジションに入るか考え続けていますね。
——演劇を盛り上げるためには、演劇以外にはみ出していく必要がある?
根本:そうですね。私は戯曲を書いて演出するのが一番好きなんですけど、それだとお客さんの母数が限られます。だから、メディアに出たり、ラジオ番組のパーソナリティをしたりして、根本宗子という存在をまず知ってもらおうと思っていたんですね。昔はもっと頑固だったんですが、きっかけなんて多い方がいいよねって思えるようになりました。
そういう期間を経て、いまようやく、作品単位で大きなガジェットに乗せて、演劇に興味がない人たちの目にも留まるようなやり方にシフトし始めました。好きな演劇に長く携わっていくためにも、必要な活動だと思っています。
——『もっと超越した所へ。』の映画化は、その第一歩ということですね。
根本:はい。今作に出演いただいた趣里さんと伊藤万里華さんとは、過去に演劇を一緒にやっていて。前田敦子さんも、黒川芽以さんも、演劇や映画、ドラマと、領域を決めずに活動されていますよね。そうやって、演劇と映像の垣根をフレキシブルに越えていく俳優の力を借りてひとつの作品をつくることは、演劇界にとってもすごく意味のあることだと感じます。
(取材・文:東谷好依、撮影:西田優太、編集:安次富陽子)
■作品情報
映画『もっと超越した所へ。』
10月14日(金)より TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『もっと超越した所へ。』製作委員会