「脱・頭痛持ち…タイプ別症状とセルフケア」と題し、脳神経外科専門医でいのうえクリニック(大阪府吹田市)の井上正純院長に連載でお話しを聞いています。前回は、「片方の目の奥がえぐられるように痛む」という特徴がある「群発頭痛」について尋ねました。今回・第10回は、その群発頭痛の治療法やセルフケアについて伺います。
これまで、日本の頭痛持ちは推計4,000万人、このうち片(へん)頭痛で悩む人は1,000万人にものぼること、頭痛の種類、緊張型頭痛や片頭痛の特徴、女性に多い理由、特効薬、予防薬、また、群発頭痛について紹介してきました。各記事のリンク先は文末などを参照してください。
群発期に酒を飲むと必ず頭痛が起こる
——前回、「群発頭痛は20~40歳代の男性に多い」「痛み具合が極めて強い」「頭の片方側だけに起こる」、また、発症のメカニズムはまだ解明はされていないものの、「目の奥にある頸(けい)動脈という太い血管が拡張し、周囲に炎症が生じて神経を刺激する」と推察されているということでした。なんとか予防したいものですが、自分でできる注意やケア法はありますか。
井上医師:脳の血管が拡張するような行動や環境を避けることです。群発頭痛は1~2か月間ほど毎日のように起こり、この期間を「群発期」と呼びます。群発期にはとくに、次のことに気を付けてください。
(1)酒を飲まない
群発期にアルコールを摂取すると、「必ず」頭痛が起こることがわかっています。そのため、群発期間中は飲酒を避けてください。群発期が終われば、飲酒をしても頭痛は起こりません。
(2)タバコを吸わない
喫煙が群発頭痛をまねくのかどうかはまだ明確になっていませんが、群発頭痛の患者さんには喫煙者が多いことから、特に群発期には禁煙が勧められます。
(3)熱い風呂、サウナ、強い運動は避ける
これらは血管を拡張します。群発期には避けてください。
(4)睡眠の充実をはかり、生活リズムを一定に
睡眠不足にならないようにして、就寝や起床時間は休日を含めて一定にしましょう。昼寝のしすぎにも気をつけましょう。そうすると頭痛が起こる時間帯も一定になってくるため、事前に予防策をとりやすくなります。
処方薬の自己注射が有効
——群発頭痛では、市販の鎮痛剤は効くのでしょうか。
井上医師:いいえ、群発頭痛の場合は残念ながら、市販の鎮痛剤では改善しません。医療機関で処方される薬が必要です。
——では、どのような薬が処方されるのでしょうか。
井上医師:片頭痛の特効薬として紹介した「トリプタン」が有効です。現在(2022年8月)、日本では5種類があり、まとめて「トリプタン系薬剤」といわれます(第6回参照)。トリプタンは、群発頭痛が起こるメカニズムのひとつの三叉(さんんさ)神経の興奮を抑え、血管を収縮して炎症を鎮めます。
片頭痛の場合はトリプタンの内服薬を飲むことが多いのですが、内服の場合は効果がみられるまでには30分~1時間ほどかかります。群発頭痛は痛みが強いため、即効性のある注射薬を用い、自分でふとももや上腕の外側の「皮下」に注射をしてもらいます。注射後は約10分で痛みが軽くなり、15分以内にはほぼ消失します。
——トリプタンは多くの人に効果が認められているのですか。
井上医師:トリプタン系薬剤のひとつ「スマトリプタン」(商品名:イミグラン)の皮下注射の投与で73.3%の人で症状が改善したという報告があります。また、皮下注射の場合は長期間使用しても有効性が減弱しないことが報告されています。
ただし、群発頭痛が起こったときに、1日2回まで、1時間以上の間隔をあけて使用するもので、予防効果はありません。

イミグランの皮下注射の「患者向医薬品ガイド」(医薬品医療機器総合機構・PMDA発行)より抜粋
——自分で注射は簡単にできるのでしょうか。
井上医師:群発期の1~2か月間のうちに、自己注射用キットを処方します。ペン型で難しいことはありませんが、必ず、医師が自己注射の方法を指導します。次の群発期が始まると早めに受診してください。また、次に紹介する酸素吸入の治療法もあります。
薬以外に、「酸素吸入」が有効
——薬以外に、群発頭痛の治療法はありますか。
井上医師:1分間に7~10リットルのペースで90%以上の医療用の酸素を吸入することで痛みが改善することがわかっています。口と鼻を覆うマスクを装着し、酸素を15分間吸入します。
現在のところ、なぜ酸素吸入が群発頭痛の軽減に有用なのかは明確ではありませんが、酸素を多量に吸うことで、拡張した脳血管が収縮する、三叉神経の炎症が鎮まる、副交感神経の興奮が抑えられるのではと考えられています。
——酸素吸入はすべての人の群発頭痛に有効なのですか。
井上医師:すべての人ではありませんが、78%で消失したという報告があります。群発頭痛が起こったときに受診して、専門医が酸素吸入を試みて症状が改善するかどうかを診断します。
この治療法は「在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)」といいます。慢性呼吸器不全の患者さんに多く用いられてきましたが、現在は群発頭痛の治療法としても公的医療保険適用となっています。
酸素には重篤な副作用がなくて1日に何度も使用できるので、トリプタンの自己注射がうまくできない人や副作用が強い人、また、虚血性心疾患や、脳や末梢の血管障害などで使用できない人にとっても有用です。
携帯用酸素ボンベもあり、これは使用可能時間は短いながらも職場や外出先で活用することができるでしょう。ただし、市販の携帯用スプレー缶の酸素吸入では濃度が不足していて効果がないので注意してください。
聞き手によるまとめ
群発頭痛の群発期には、飲酒をすると必ず頭痛が起こるので禁酒する、タバコやサウナなど、血管を拡張したり、神経を刺激したりする習慣は避ける、また、市販の鎮痛剤は効果がないので医療機関を受診してトリプタンの自己注射や在宅酸素療法の処方を受けようということです。ひとつずつ理解して激痛に対処したいものです。次回・第11回は、近ごろ問題になっている「薬剤の使用過多による頭痛」について紹介します。
(構成・取材・文:藤井 空/ユンブル)