「最初の選抜はルッキズムから始まる」ゲイの出会いの場
スー:それで東京に出てきて「SAMSON」編集部に入って。自由研究は得意じゃなかったけど、文章を書くのは大丈夫だったんですか?
サムソン: 言われてやるのはできる子なんです。
スー:当時は雑誌も売れてましたしね。
サムソン:特にゲイ雑誌なんて当時5誌ありました。今は0。
スー:webが主戦場ですものね。
サムソン:「さぶ」でしょう。「G-men」でしょう。この2誌が野郎系。「薔薇族」と「Badi」が若者とかジャニ系で、「SAMSON」がおじさん・デブ系。まあ、その間もグラデーションですけど。ノンケと比べたら趣味の範囲が広いでしょ。ノンケの人は大変だと思いますよ。今だったら浜辺美波に「好きです」って言われたら9割の男が「オッケー」って言いそうだけど、ホモってそういうのがないんですよね。どんなにモテても3、4割くらいかな。
スー:それぞれに自分の好みのジャンルがあるってことですね。
サムソン:その中でのヒエラルキーはありますけどね。
スー:一概には言えないけど、ルッキズムがきつい印象があります。
サムソン:ノンケの世界だと職場や学校やサークル内とかで性愛目的ではない出会いをして、特に意識しなくても好きになっていく時間の流れってあるじゃないですか。ゲイってそういうのがないんですよ。一般の社会で会うと、たいてい叶わぬ恋になってしまうから、ゲイバーやハッテン場での出会いが多くなる。そうすると最初の選抜はルッキズムから始まるわけです。
スー:だから容姿の選別が厳しいんですね。
サムソン:それこそマッチングアプリはゲイの世界では15年くらい前からありました。アプリに「ブリーディング」という「強烈なラブコール」みたいなのがあって、それによってレベル40とか、モテ度が数値化されるんです。
スー:性的関係になることを望むレーティングってことですか?
サムソン:そう。「ブリーディング」は「やりたい」ってことね。ブリーディングがくるとレベルが上がっていく。
スー:それ異性愛者間でやっちゃうと大問題になりそうだけど……。
サムソン:セックスがカジュアルでやりたいもん同士だから成り立っている。
スー:レズビアンにはハッテン場がないと言うじゃないですか。
サムソン:そうね。ノンケの女子にとっても、単純な性風俗がないよね。たまに女性用のソープランドみたいなものができて話題になりますけど。
スー:でしたよね。ところが今、時代が変わって異性愛者の女性向けの風俗産業が盛り上がっているらしいんですよ。非店舗系で。
サムソン:あら、アンダーグラウンド?
スー:本番行為のない女性向けのデリバリーヘルスですね。すでにチェーン化もされていると聞きました。メンズ・セラピストで検索するとたくさん出てくる。性的に奔放という印象でもない女性がそれ専用のツイッターアカウントを作ってて、セラピストとやり取りしてます。あくまで疑似恋愛ってテイみたいだけど。セラピスト側もスーツっぽい感じとかいろいろで細分化されてて。昔はセラピスト側のなり手がいなかったらしいんですけど、コロナの影響で稼げなくなった男性たちが副業としてやっていると聞きました。利用者の女性がツイッターにいっぱいいるのを見た時は、「文明開化来た!」と思いました。女がついに自分の性欲を認め始めた、と。
サムソン:時代は変わってきてるわね。
スー:女性だって性欲がないわけじゃないので、搾取構造さえなければ、女性が自分の性欲を禁忌とせずにいられるという点ではいい時代になったと思います。
赤羽の家を買うまで
スー:話を戻しますけど、ゲイ雑誌「SAMSON」で編集をやって、そこからはどういう流れで家を建てることになったんですか。
サムソン:「SAMSON」の編集部をクビになった時、わたくし1500万円ほど貯金があったんですよね。お金使わない子なんですよ。家賃以外で月5万あれば暮らしていけるので。1500万円あれば、旅行したりするじゃないですか。そしたら、あらふしぎなことに5年経ったら貯金がなくなりました。なぜなのかしらね。
スー:ふしぎですね。
サムソン:そしたら知り合いの知り合いくらいから肉体労働のバイトがあるからやってみないって誘われて。
スー:それまで肉体労働経験はゼロですか?
サムソン:ゼロですよ。
スー:すごいなー。その時何歳ですか?
サムソン:40くらいにはなってた。35で会社辞めて、5年間遊んでいたから。
スー:40から肉体労働ですか。やってみてどうでした?
サムソン:できましたよ。言われたことはできるから。サラリーマンやってたら、本当にちゃんとやってたと思います。
スー:ほんとそうだ。
サムソン:それでやっぱりお金を使わないから7、8年働いてたら800万円くらいまで貯まって、そのお金で赤羽の家を買い、そこに能町さんがやってきたというわけです。