長澤まさみさんが、ヤマアラシのロック少女アッシュ役で声優を務めるアニメーション映画『SING/シング:ネクストステージ』(ガース・ジェニングス監督)が3月18日(金)から公開されます。何度つまずいても夢を追い続ける者にエールを送るこの作品で、パワフルな歌声も披露している長澤さん。人と人との距離に変化が生まれ、暗いニュースが飛び交う世の中で、長澤さんが思う「人と関わることの良さ」や「チャレンジし続けることの意味」とは? 前後編にわたってお話を伺いました。
何度も見返したくなる作品を作りたい
——『SING/シング:ネクストステージ』では、劇場支配人のバスター・ムーン(声:内村光良さん)はじめ、仲間たちがさらに大きな舞台を夢見てエンターテインメントの聖地でのショー開催を目指しますね。作品全体から「勇気を出せば道は開ける」というメッセージを受け取りました。
30代半ば〜40代くらいの女性から、新しい夢の実現やキャリアチェンジなど、まさに人生の「ネクストステージ」を考え始めたという声をよく聞きます。ちょっと大きな話になりますが、長澤さんがこれから叶(かな)えたい夢は何ですか?
長澤まさみさん(以下、長澤):夢はやっぱり、面白い作品を作るということでしょうか。映画でもドラマでも、何度も見返したくなる作品を、作ることが目標です。もちろん自分の作品は見ますけど、私にとっては、そういう作品って、まだないんです。
——それは出演するというだけではなく、企画段階から関わってみたいということですか?
長澤:例えば本を読んで、「こういう作品をやりたい」ということも言っていければ一番いいですよね。今は俳優たちも映画を撮ったりしているし、新たなチャレンジをしている人は多いのではないでしょうか。みんな、何でもやるようになった気がします。
——若い俳優さんたちが一生懸命クリエイティブなことに取り組んでいる姿が見えるようになって、おこがましい言い方ですけど、頼もしさを感じます。いろいろなツールを通して広く一般人の目に届くようになったからかもしれないですが。
長澤:新しいことにチャレンジするためには、まず、その道を作らなければいけないので、(変化は)徐々に起こってきたものだと思うんです。今、そういうふうに若い人たちが発信しているように見えているけど、その状況になる手前までをやってきた人がいる。その前の人たちの働きが今の状況につながっているわけで。
いろんなアプリを作っているのも、若い人たちじゃなくて私たち世代だったりするし、中堅どころくらいの人たちが活躍している。前の世代の人たちが頑張った成果が、若い人の発信で見えているのだと思います。だから俳優たちが全体的に、そういう時代の変化に適応しているということではないでしょうか。だから、オリジナリティということで言うと、昔の人たちのほうがすごいと思うんです。
挑戦を続けるのは、チャンスが待っているから
——長澤さんは年齢的にベテランと若手の間にいて、両方見えているという感じなのでしょうか。
長澤:時代は回ると言うけれど、本当にそうだなって思います。流行りを見てもそうですよね。古い曲が流行っていたり、アナログカメラが流行っていたり。流行に目が行きがちだけど、時代がずっとグルグル回っていくんだなと思えば、私は成熟した人たちが、もっと新しいことにチャレンジすることのほうが、結構重要な気がしているんです。これからまだまだ失敗も経験しなくちゃいけないし、いつまでも人は「生まれたて」なのではないかなと思います。私にはあんまり、年齢で物事を区切るっていう考えがないので。
ハンバーガーを食べているおじいさんやおばあさん、偉いなっていつも思うんですよね。昔はなかったものを「おいしい」と受け入れられる幅の広さというのは、若者の向上心と一緒だと思う。
『SING/シング』もそう。もともと落ちぶれた劇場を再建させるお話なのですが、主人公のバスターとか、結構お兄さんなはずなんですよ。だけどチャレンジしていけるのは、いつでもチャンスが待っているから。若くて初々しいものがキレイかと言ったら、そうじゃないと私は思う。それを表わしているのが、今回のクレイ(声:稲葉浩志さん)ですよね。挑戦して人生を楽しんでいる人のほうが、若々しくてキラキラして見えます。何かに縛られて、生きるルールを決めてしまったのは自分たちだと思うので。
自分の足りないところに向き合うのを恐れない
——先ほどの「面白い作品を作る」という夢を実現するために、長澤さんが日頃していることはありますか?
長澤:地味なことですよ。お芝居のことや、お芝居を良くすることを考える。自分に足りないところと向き合うことが大事だと思っています。
自分が一番よく分かっているはずなのに、ある程度、年齢やキャリアを重ねていくと、自分の弱点を見逃しちゃうんです。面倒くさいから。現状維持をしたくなる気持ちも分かるけど、ちゃんと自分に向き合うことを恐れないようにやっていきたいです。
一度きりの人生だし、「失敗」はないと思っていますから。失敗ではなく経験だから、それで人生がダメになるわけじゃない。生きられるまで生きなきゃというか、体が生きられる状態だったら、途中で「いち抜けた」ってできないわけですから。
——そうですね。ご飯食べて、頑張るしかないですよね。
長澤:落ち込んでいるヒマないですよ。忙しいですよ、人生は(笑)。そういうことを教えてくれたのも先輩俳優たちだったりします。いろいろな人たちを見てきましたが、つべこべ言わずに頑張っている人たちが、私にはカッコよく見えるんです。
映画『SING/シング:ネクストステージ』は3月18日(金)全国公開。
(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘)