慢性的に下痢や便秘が続く、下痢と便秘をくり返すことはありませんか。頻度が高い、長く続くときは「過敏性腸症候群(IBS)」という病気かもしれません。「急におなかがゴロゴロ言い出してトイレに駆け込まないとならない。とてもつらい」「便秘が続いてイライラもおさまらない」などの声も聞きます。そこでこの病気について、消化器病専門医・指導医、消化器内視鏡専門医・指導医でむらのクリニック(大阪市中央区)の村野実之(みつゆき)院長に連載で詳しいお話しを聞いています。
第1回は症状のチェックリストや特徴について、第2回は原因について教えてもらいました(リンク先は文末参照)。今回は過敏性腸症候群の診察や検査法について尋ねます。
病院に行くタイミングは?
——過敏性腸症候群かもと思った場合(第1回参照)、医療機関を受診する目安はいつごろでしょうか。「便秘や下痢で、病院で診てもらう必要があるのかわからない」と迷う人は多いようです。
村野医師:過敏性腸症候群かもと思わなくても、便秘や下痢がつらくて仕事や生活に支障をきたす場合はもちろんのこと、しんどい、苦しいと思った時点で早めに受診しましょう。迷ったときは、第1回で紹介したチェックリストを利用して症状を見つめてみてください。1つでも思いあたることがあれば受診のタイミングです。
ただし、下痢に加えておなかの痛みも続く、発熱する、便秘と下痢をくり返す、尿が出にくい、体重が減ってきたという場合、また、便に血が混じる、出血した場合はすぐに受診してください。
出血がある場合、「痔では」と思う人も多いですが、痔と大腸がんを併発している例もあります。また、排便後も残便感が続く場合は直腸がんの可能性もあります。
いずれの場合も、消化器内科、胃腸科、内科を受診しましょう。
過敏性腸症候群では問診が重要
——病院では、どのように診察するのでしょうか。
村野医師:まずは症状を尋ねる問診を行います。そのうえで、危険な病気のサインがない場合、質問票に記入をしてもらって総合的に診断します。過敏性腸症候群の診断では問診が重要になります。
発熱や血便、体重減少などが見られる場合は、大腸がんや炎症性腸疾患などの病気がないかを調べるために、大腸内視鏡検査や腹部のCT検査、超音波検査などを行います。また、そうした危険なサインがない場合でも、血液検査、尿検査、便検査を行って、甲状腺機能や糖尿病、細菌や寄生虫による病気がないかを調べます。
これらはすべて実施するわけではありません。症状に応じて、このサインはあの病気かもしれないという可能性がある場合に行っていきます。
治療法は? 薬は?
——過敏性腸症候群と診断された場合、どのように治療をするのでしょうか。
村野医師:食生活や生活習慣の指導を行います。そのうえで、患者さんの症状によっては次のような薬を処方します。
<下痢型>
・イリボー(一般名:ラモセトロン塩酸塩)…神経伝達物質のセロトニン(通称・幸せホルモン。第2回参照)の分泌を抑え、下痢や腹痛を改善します。主に男性の過敏性腸症候群に処方されます。
・半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)…下痢や軟便、吐き気、とくにストレスが原因の場合に有用な漢方薬です。
<便秘型>
・酸化マグネシウム…非刺激性で副作用が少なく、乳幼児から高齢者まで広く使われている便秘薬です。
・リンゼス(一般名:リナクロチド)・アミティーザ(一般名:ルビプロストン)…腸内に水分を分泌して、便の移動を促します。また、大腸の感覚過敏(第2回参照)を改善しておなかの痛みや違和感を緩和します。
・グーフィス(一般名:エロビキシバット水和物)…胆汁酸の再吸収を抑制し、大腸に流入する胆汁酸の量を増加させて水分および電解質を分泌します。また、消化管運動も促します。
・モビコール(一般名:マクロゴール4000, ポリエチレングリコール4000)…腸の水分量を増加し、便の軟化や便容積の増大を引き起こしてぜん動運動を促します。
・大建中湯(だいけんちゅうとう)…腹痛、おなかの張りを緩和する漢方薬です。冷え性の人に向きます。
<下痢と便秘の混合型>
・コロネル(一般名:ポリカルボフィルカルシウム)…大腸内で水分を吸収して内容物をゼリー状にし、移動を促します。便が適度に水分を含むことになり、下痢にも便秘にも有用です。症状によっては、下痢型や便秘型の人にも処方します。
・桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)…腸の過剰なぜん動運動や緊張を抑える漢方薬です。腹痛、おなかが張る場合、下痢、便秘のどちらにも有用ですが、どちらかと問われると下痢型にやや多く用います。
・このほか、下痢に対しては下痢止めの薬、おなかが痛む場合は抗コリン薬、便秘に対しては下剤も補助的、頓服的に処方することがあります。
ただし、急な下痢や腹痛の場合で、過敏性腸症候群ではなくて食あたりや食中毒の細菌が原因と思われる場合などは、腸の中に悪い細菌がとどまったり、増えたりしないように、下痢止め薬は使いません。また、急な下痢の症状でもくり返していない場合は、数日間の安静や食事の指導で治ることがあります。
脱水状態によって、おう吐で口から水分をとれない場合には、点滴による水分補給などを行います。
——大腸の内視鏡検査は肛門から内視鏡を挿入して腸管の内部を見る検査ですね。避けたいと思う人は多いのではないでしょうか。
村野医師:はい、とくに女性はその傾向にあります。ただ、検査時間は20~30分で鎮静剤(点滴)を使用した場合、眠っている間に終了するので、「え、もう終わったの?」と言う患者さんは多いです。面倒だ、恥ずかしいという気持ちはとてもわかりますが、検査を受けるメリットは多大です。
検査を受けていただくために、医療機関もさまざまな工夫をしています。女性医師が検査をする医療機関も増えてきました。検査が必要な場合はぜひ受けてください。
聞き手によるまとめ
過敏性腸症候群の受診のタイミングは、自分が苦しい、つらいと思えばいつでも、ただし血便や発熱など下痢や便秘以外の症状があればすぐに、ということです。病院では、問診、検査、診断、治療と進み、過敏性腸症候群と診断された場合は生活習慣を見直す、症状によって下痢型、便秘型、混合型のタイプ別の薬を処方するということです。次回・第4回は、食生活の見直しのひとつ、「FDOMAP(フォドマップ)」について尋ねます。
★お知らせ
村野医師が理事を務める「大阪府内科医会」が主催のオンライン健康セミナー・第23回市民公開講座「美と健康はおなかから~腸活のススメ~」が、2021年12月12日(日)13:00~、15:00~の2回、開催されます。村野医師による講演「悩んでいませんか? おなかの症状で」もあり、無料で視聴できます(事前登録が必要です)。申し込み先:https://www.osaka-naika.jp
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)