ライフネット生命保険・片田薫さんインタビュー後編

産休・育休は“女性だけのための制度”じゃない。誰もが働きやすい会社をつくるヒント

産休・育休は“女性だけのための制度”じゃない。誰もが働きやすい会社をつくるヒント

開業前からライフネット生命保険株式会社で働き、現在は執行役員を務める片田薫(かただ・かおる)さん。彼女が産休・育休制度を作ってから10年。

まずは最低限の仕組みを整え、実際に育休から復職した彼女には、なにが見えたのか? 仕事と生活を両立するために必要な“本当に役立つ制度や風土”について考えていきます。

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ルールは適宜カスタマイズする

——産休・育休制度を整えたのち、ご自身が第一号として育休を取得した片田さん。だけどすぐに保育園を確保でき、産後3ヶ月で復職されました。「なるべく早く仕事に戻りたい!」という、片田さんの思いが叶ったわけですが、仕事と育児の両立は大変だったのではないでしょうか。

片田薫さん(以下、片田):そうですね……単純に子育てがつらいというより、開業したばかりで周りがとても忙しいなか、自分だけ早く帰らなければならないのが心苦しかったです。子どもがいる以上、どうしても勤務時間に制限はかかる。最初の1年弱は時短にして、娘が小学生になったいまでも、基本的に残業はしていません。キャリアへの焦りを持つタイプではなかったけれど、みんなに申し訳ない気持ちが強かったですね。

——そんな片田さんを、周りはどのように見ていらっしゃったんでしょう。

片田:みんなは「子育てってそういうものだよね」という温かいムードで、いつも助けてくれました。だから私も勤務中は集中して、いつもサポートしてもらっているぶんをお返ししていくしかない。でも、自分のなかではやっぱり苦しいんですよね……。

——そりゃそうですよね……。多くのワーママが抱える葛藤だと思います。ご自身がつくった制度は、実情にフィットしていましたか? 実際に使ってみたら、課題も見えてきそうです。

片田:私はすぐに復職したからか、とくに制度で不便はありませんでした。本当に課題が見えてきたのは、いろんな方が制度を活用するようになってからです。

——たとえば、どういうケースですか?

片田:子どもをしばらく家で育てるか、時短で復帰するか、悩んでいる社員がいたんです。その選択には、それぞれの場合の経済条件も気になってきますよね。彼女のケースを計算してみたら、復職して時短で働くよりも、育休を取って育児休業給付金をもらうほうが、収入が多かった。これでは働くモチベーションが下がってしまうし、時短でも頑張ってくれている社員にだって申し訳ないですよね。

だから、せめて給付金と同じくらいの収入になるように、時短で復職した場合の給与を調整する制度を導入しました。

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子育て中の本人だけでなく、周りも含めてケアを

——社員の事情や希望に合わせて、産休・育休制度の枠を越え、働き方をカスタマイズするというわけですね。でも、人に合わせてルールを考えていくのは、とても手間がかかるように思います。

片田:出産・育児とひとくちに言っても、本人がなにをつらいと感じているかは人それぞれなんですよね。私は、働く時間を充分にとれないことがつらかったけれど、別の社員はしばらく子育てに専念したいかもしれない。勤務時間より、任せられる仕事の内容や収入について悩んでいるかもしれない。妊娠中の体調だって、私がたまたま元気だっただけで、つわりが苦しい人も早産になる人もいます。

だからこそ、コミュニケーションのコストがかかっても、それぞれに事情をヒアリングしないといけないんです。本人だけでなく、その社員が所属しているチームに対してもそう。休みがちなメンバーがいることに、なにか負担を感じているか? 子育て中の社員が申し訳なく感じていることを、周りは本当に迷惑だととらえているのか……? などなど。2016年から管理職になって、よりいっそう、いろんな気持ちを聞いてからベストな対策を考えたいと思うようになりました。

——でも、子どものいない社員が万が一「あの人が子ども絡みで休んだせいで仕事が増えた」と思っていたとしても、それを上司には言いづらいはず。そこをうまくケアするのは、かなり難しそうです。

片田:そうですね~……当社には月1回「1on1(ワンオンワン)」で行う「来風面談」という仕組みがあって、全員がなかば強制的に上司と2人きりで話す機会がつくられています。わざわざ時間を取って話していると勘ぐられてしまうけれど、毎月のことだから、周りも気にしない。そして毎回「自分の気持ちを天気にたとえる」という質問があるんです。

——天気?

片田:はい。「くもり」とか「晴れ」とか。そういうあいまいな質問だと、意外に嘘がつけない。「どちらかというと、くもりかなぁ」なんて答えには「それはどうしてですか?」などとつっこみます。そうすると例えばですが「実は、プライベートで不安なことがあって、なかなか仕事に集中できなくて」みたいに、普段は言いづらいこともぽろっと話してくれたりするんです(笑)。

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産休・育休にとらわれず、誰もが使える便利な制度を増やす

——2018年の開業10周年セミナーでは「83%の社員が産休・育休を取得して、復職している」という発表がありましたね。

片田:いまはもうすこし増えて、産休・育休を取得した社員のうち、90%が復職しています。パートナーの遠方への転勤で復職できなかった人がいるけれど、希望して戻れなかった社員は一人もいません。ここ5年ほどは男性の育休取得も増えていて、2018年度だと男性のほうが多いくらいですね。

——本当に子育てしやすい空気ができあがっている……! 最後に、近ごろの社会の変化も踏まえつつ、これからの産休・育休にまつわる課題や改善点はありますか?

片田:いままで育児の制度は“女性のための制度”だと思われがちでした。介護の制度も、もしかしたらそうとらえている方もいらっしゃるかもしれません。でも、本当は違います。男性だって子育てや介護をすることはあるし、選択肢が増えればもっと緩急をつけて働いていけるはず。だから、特定の人に向けた制度をつくるというより、みんなが使える制度を増やしたいと考えているんです。

たとえば休暇制度であっても、ボランティアや社内の部活動に使えるもの、家族や自分の体調不良、不妊治療などに使えるもの、同性パートナー同士にも適用可能な慶弔休暇など、さまざまな種類をつくって、アップデートしていっています。幅広い制度を整えることは、性別を問わず“誰もが働きやすい会社をつくること”につながっていくと思うんです。

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(取材・文:菅原さくら、撮影:大澤妹、編集:安次富陽子)

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