育休・産休に福利厚生、会社の中の制度をどれだけ活用していますか? 活用どころか、自分の会社にどのような制度があるかも知らない人もいるかもしれません。そして実際に、いざ申請しようと思っても制度が“負の遺産”と化してしまって「逆に働きにくい!」という現状も多々あるようです。
本来であれば、社会のあり方が変われば制度も変えていくのが理想的な姿。後払い決済サービスを手がける「ネットプロテクションズ」では、社員全員が発案者となって現在進行形の制度づくりを進めています。
同社で人事総務のゼネラル・マネージャーを務める、秋山瞬(あきやま・しゅん)さんに、「本当の働きやすさってなんだろう」をテーマに、2017年に誕生した産休・育休制度「ココット」と、2018年度下半期に本格的にスタートさせる人事評価制度「Natura(ナチュラ)」について話を伺いました。
制度を「絵に描いた餅」にさせない
——御社では産休・育休第1号の社員が出てきたことから、「ココット」の制度づくりを始めたそうですね。
秋山瞬さん(以下、秋山):はい。2000年の設立以来、実は当社には育休・産休制度はなかったんです。というのも、当社の平均年齢が28歳と比較的若く、まだ制度を必要とする社員がいなかったからです。
そんな中で制度だけがあっても「絵に描いた餅」になってしまう可能性がある。それならばケースが発生したタイミングで、本当に必要とされる制度をつくろうというのが弊社の方針でした。
——そして2017年に、実際のケースが発生したということですね。
秋山:はい。一人の女性社員の妊娠発覚を受け、さっそく産休・育休制度「ココット」の作成に着手しました。他社で導入されている制度をひたすら集め、まずはいいとこ取りをさせていただきました。中でも一番軸となったのは、本人の「働きたい想い」を尊重できる制度にしようという考え方です。
該当社員にお祝い金を出したり休暇を手厚くしたりすることではなく、働き続けたいという気持ちにできるだけ寄り添うことを第一に考えました。
——具体的には、どんな制度なのでしょうか?
秋山:「妊娠発覚後」「出産」「産休育休中」「復職後」「いつでも」と、5つのタームに区切り、それぞれに発生しやすい問題とそれに紐付いた施策をつくりました。現段階で、制度は20項目あります。
たとえば妊娠発覚後、つわりを始め体調不良が起こりやすいという問題に対しては、勤務時間の変更や遅刻早退許可の施策を取り入れました。また産休育休中にはどうしても情報に乗り遅れてしまったり、疎外感を感じたりしやすいですよね。そこで、休職中でも定期的な情報提供や面接の機会を設け、社内ネットワークにアクセスできる環境を敷きました。
産休を受け入れる側もステークホルダー
——確かに、働きたいのに休職せざるをえない社員にとって手厚い制度だと感じます。
秋山:気持ちよく出産・育児を迎え、気持ちよく復帰してもらうことはもちろん大事なのですが、ココットでは、受け入れる側の部署のメンバーもステークホルダーの対象に入れていくことが重要だと考えました。
同じチームのメンバーに妊娠発覚した場合、業務負荷がかかる同僚がついついネガティブな感情を抱いてしまうことがありますよね。これに対しては、サポーター社員の雇用許可を設け、短期の派遣・業務委託社員を雇用できるような制度を設けるなど、ケアを厚くしています。
——確かに、広い視野で考えれば、ステークホルダーは出産する本人だけではありませんよね……。
秋山:さらに言えば、父親となる男性社員にも制度を活用する権利は当然ある。認可保育園に落選するケースを想定して、認可外保育園費用補助を付けました。また子どもが病気にかかるケースに対して、病児を受け入れてくれる保育園との提携も行っています。
会社は箱じゃない、社員全員が変えていけるもの
——聞けば聞くほどきめ細かい制度ですね。産休をとられていた社員の方が最近復職されたそうですが、感触はいかがでしたか?
秋山:復職後、時短勤務で勤務されていますが、本人にとってもメンバーにとっても、復帰はスムーズにいったようです。初めての出産でどうなるか不安な面もあったようですが、ココットのサポートを利用して自身の状況をメンバーと共有できた点がよかったという声を聞きました。
ただ、現状ではまだ1ケースしか経験していません。今後の利用具合を見たうえで、実際に使われるものとそうでないもの、改良が必要なものを見極めていく必要はあると思います。
——この制度なら働きやすそうですね。もし合わなくても制度を変えようと言いやすい環境であることも大事だなと思いました。
秋山:ありがとうございます。ココットの作成に関しては、リアルな声をできるだけたくさん拾うことに重点を置きました。作成に携わったのは、有志で集まった男女4人のメンバーですが、全社員に向けてもアンケートを行い、実際どんなケースが起こりうるかを広くヒアリングしています。
会社って、単純に社員を守ってくれる箱ではないと思うんです。それは制度もしかり。会社は社員全員が当事者となって変えていかなきゃいけないし、制度はそもそも社員のためにあるもの。使いたい仕組みを自分たちでつくろうという意識が、生きた制度を生み出す原動力になるのではないでしょうか。
(取材・文:波多野友子、写真:大澤妹)