『夫の扶養からぬけだしたい』ゆむいさんインタビュー前編

「僕と同等に稼いでみなよ!」と夫が言ったらどうする? 『ふよぬけ』作者に聞く

「僕と同等に稼いでみなよ!」と夫が言ったらどうする? 『ふよぬけ』作者に聞く

“旦那叩き”をしたいわけじゃない

『夫の扶養からぬけだしたい』(ゆむい/KADOKAWA)

『夫の扶養からぬけだしたい』(ゆむい/KADOKAWA)

——『ふよぬけ』では、夫・つとむの厳しい言動がとても生々しくて、正論の部分もあるからこそ、本当に心をえぐります。どんなふうにエピソードをつくっていったんでしょうか。

ゆむい:つとむの言動は、実際のうちの夫の考え方からもかなりエッセンスを取っているんです。たとえば、ももこがパートで4万円を稼いでも保育料で4万円引かれたり、つとむに(稼いだ総額に対して)「たった40万円の収入で『共働き』って堂々と言えるの?」と言われたりするシーン。

私自身にも似たようなことがあって、そのとき不満を書き留めていたことがネタになりました。「僕はやりたくない仕事でも、大人として稼ぐために我慢している。だから、君が好きな仕事を選ぶのはわがままだ」というつとむの意識も、夫に通じる部分があると思います。

——そういう旦那さんの言動をネタに、SNSのアカウントでグチって憂さ晴らしする……みたいなこともできたはずですよね。なのに、ゆむいさんはどうして作品として世に出そうと思われたんでしょう。

ゆむい:Twitterでちょこちょこ不満を漏らしていたとき、共感してくれた人が結構いたんです。それはそれですこし気がラクになったけれど、ただのグチを発信して“旦那叩き”をしたいわけじゃなかったんですよね。社会的にも扶養制度が変わりつつあるこのタイミングに、みんなでこのテーマについて考えてみたかったんだと思います。

——旦那さんや読者の方からの反応はいかがでしたか。

ゆむい:夫からは「一方的に悪者として書いた作品を出すなんて、やり方がずるい」という否定はありました(笑)。Twitterやレビューでは、全然違う感想が届いたのが面白かったですね。「いまどきこんな夫はいないでしょ」とか「うちのことかと思うくらい同じ」とか、ボリューム的にもそんなに差はなくて。「これは“男尊女卑”に見せかけた“女尊男卑”だ」なんて感想もいただきました。

悪いのは「旦那」でも「男性」でもなくて…

——作品のなかで、つとむは職場でパワハラを受け、家族を養わなければいけない重圧との狭間で苦しんでいます。「そういう“圧”を受けることのない女性はそもそも得している」「責任がないから仕事を楽しめるんだ」といった考え方からすると、女尊男卑の物語に見えるのでしょうか……。

ゆむい:そうかもしれません。おそらく、つとむに感情移入できる方々は、多かれ少なかれいまの社会に不満をため込んでいるんじゃないでしょうか。家族のために仕事が選べなかったり、男性社会のマッチョな価値観に翻弄されていたり……。だからこの作品ではせめて、登場人物たちの“背景”を描きたかったんです。

——登場人物の“背景”?

ゆむい:はい。ももこやつとむ、ももこの両親など、登場人物は各々いろんな背景や思いを抱えて生きています。みんな事情は違うけれど、それぞれに「家族や社会とうまく付き合っていこう、うまく回していこう」とも思っている。ももこの感情だけ追っていれば、つとむのモラハラ漫画に見えるかもしれないけれど、実情はそうではないんです。「旦那が悪い」「男性が悪い」じゃなくて、いま私たちが生きている背景が悪い。正解がないからこそ、漫画にしてみんなで考えたかったんです。

——たしかにつとむの言動は辛辣ですが、一方ですごく家族のことを考えているし、単純な悪者ではないですもんね。

ゆむい:Web連載時にはついももこに偏りすぎてしまったので、単行本ではつとむが会社でどんなふうに働いているか、どんなつらい思いをしているか、という描写を足したんですよね。

『夫の扶養からぬけだしたい』(ゆむい/KADOKAWA)

『夫の扶養からぬけだしたい』(ゆむい/KADOKAWA)

——たしかに、方向や価値観は違えど、夫婦ともに頑張っているのにな……と感じられました。自立を目指して行動するももこも、強い女性ですよね。

ゆむい:モデルだったはずの私自身はこんなに強くないんですが(笑)、あまり落ち込まないところや、自分が動かないと現状は変わらないと思っているところは似ているかもしれません。くよくよしているだけの不幸な被害者を主人公にしたくなかったんです。

後編:「夫が稼いだお金」に罪悪感があった私が、扶養から抜けて思ったこと
(取材・文:菅原さくら、編集:安次富陽子)

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