ディスカヴァー・トゥエンティワンより『自由に働くための仕事のルール』と『自由に働くための出世のルール』を出版した事業開発コンサルタントの秋山ゆかりさん。2冊同時刊行を記念して5月末に版元であるディスカヴァー・トゥエンティワン(東京都千代田区)にて緊急出版セミナーが行われました。
同社社長の干場弓子さんをファシリテーターに迎え、秋山さん、週刊誌「AERA」を経てBusiness Insider Japanの統括編集長である浜田敬子さん、保育付シェアオフィス・マフィスを経営する「オクシイ」代表取締役の高田麻衣子さんが、「女性が一人の人間としての尊厳を保ちながら仕事をしていくにはどうすべきなのか」を徹底議論しました。
その座談会の一部を前後編にわけてご紹介します。前編は、「なぜ女性同士で足を引っ張りあおうとしてしまうのか?」という問題について。
<参加者>
干場弓子さん:株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 取締役社長
秋山ゆかりさん:事業開発コンサルタント
浜田敬子さん:Business Insider Japan 統括編集長
高田麻衣子さん:オクシイ株式会社 代表取締役
働く女性の小さな分断
干場弓子さん(以下、干場):秋山さんの初の著書『ミリオネーゼの仕事術〈入門〉』も弊社からでした。2004年のことです。この「ミリオネーゼシリーズ」は2003年に始まりました。当時は著者を探すのに苦労しました。ミリオネーゼの定義である「仕事も恋も結婚もオシャレに楽しんで、1000万円稼ぐ女性」がいなかったから。
1000万円というのはひとつの象徴なのですが、要するに自立して働いている人が当時はとても少なかったのです。だから、経済的、精神的に自立する女性を増やしていこうという目的でこのシリーズを刊行していました。15年経った今、ずいぶんと働く女性の状況は変わりました。けれども、まだまだいろんな課題が女性にも社会にも、もちろん男性の側にもたくさんありますよね。
秋山ゆかりさん(以下、秋山):そうですね。実は以前、Forbes JAPANで「私は家事のアウトソースをしない」ことについて書いた記事が大炎上しまして(苦笑)。そのとき、女性からの批判がめちゃくちゃ来ました。それを見て「なぜこれも一つの意見なのだと受け入れてもらえないのだろう、批判しあってしまうのだろう」と疑問に思いました。
そして同じ働く女性でも、子どもがいる/いない、バリバリ働く/ゆるく働くなど、いろんな面でカテゴライズされていて、さらにその中で分断が起こっているのではないかと感じたんです。
干場:それで、育ってきた環境も働いている職場も違う人たちに、ざっくばらんにディスカッションしてもらおう、と。みなさんの意見を混ぜることで、お互いのバイアスにも気づけるのではということで、会社員を経て独立した高田さん、メディア業界の浜田さんにお集まりいただきました。
秋山:ありがとうございます。私が会いたい人たちに声をかけました。
干場:女性の中にも分断がおきていて、それが批判しあうことにつながっているというのは不思議ですよね。ちなみに、さきほど控え室で話していたんですけど、そのときも意見がわかれましたね。私と浜田さんは家事のアウトソース推進派でした。
コストじゃなくて自分への投資
浜田敬子さん(以下、浜田):私はめちゃくちゃ外注しています。11歳の子どもがいるんですけど、生まれてすぐ月曜から金曜まで、フィリピン人のベビーシッターを雇っていました。夫も記者だったので、フルでベビーシッターを雇うか二世帯住宅にして両親に面倒を見てもらわないと、当時は仕事が続けられなかったんです。その後、ベビーシッター代が大変なことになり、両親に頼み込んで山口(県)の実家を売り払って上京してきてもらいました。
一同:えぇ!?
浜田:ただ、去年子どもが反抗期を迎えまして。「もうばぁばの家に行かない!」と。なので、今は夫と交代で帰ってご飯を作ってます。今まで両立しているなんて言っていたけど、ほとんど両親頼みだったんだなと気づかされる毎日ですね。
今は、お掃除を週1で任せているのと、ハウスキーパーの「タスカジ」も使い始めました。よく後輩に「外注はお金がかかる」と言われるんですけど、私にとっては時間の方が大事。これはコストじゃなくて自分への投資だって考えた方がいいよと言っています。
干場:投資?
浜田:土曜の朝の3時間が空くだけで心にゆとりができるし、子どもと過ごす時間も増えるし、イライラしないから夫婦ゲンカも減る。絶対使った方がいいよって私が力説するので、シルバー人材センターを利用し始めた後輩もいます。使ってみたらよかった、という声が多い。なので「しない派」の秋山さんの理由が聞きたい。
アウトソースを利用しない理由
秋山:私の場合は、夫婦で「自分たちでやる」と決めただけなんです。まず、決してアウトソース反対派ではないんですよ。必要になったらお願いしようとも思っています。アウトソースを使わない理由というのは大きく2つあります。それは子どもに自ら家事をさせることで生きていくためのスキルをつけさせたいということと、家事代行の仕事をしている人たちにその作業に対してお金を出すのではなく、彼らの今後の教育のために寄付したいということ。
私も出産直後に何度か家事代行を頼んだことがあるのですが、モヤモヤとした違和感があったんです。日本人だけでなく、外国人も意外と多くて、彼女たちと話をすると「自立するために今すぐにできる家事で仕事を始めたのにまとまった収入は得られない」と言うんです。だから、彼女たちが今後ちゃんと稼ぐことのできる仕事の機会を作ることが大事だ、と思うようになったんです。
加えて、2歳の子どもがいますが、家事自体を抜本的に再設計したことで、調理も含めて毎日30分以内に家事が済むようになりました。だから、外注の必要性があまりないという理由もあります。
高田麻衣子さん:私はシングルマザーなんですけど、いまは子どももお留守番できる年齢になったので週1回だけお掃除に来てもらっています。小さいころはアウトソースでベビーシッターに来てもらっていました。ただ、やっぱりしつけまではしてくれない。だんだんと子どもが言うことを聞かなくなってきてしまったので、お願いする範囲を考え直しました。料理や会話など心のコミュニケーションとなる部分は私が引き受けて、あまり絆を深めることには影響がなさそうだなと思う部分の家事は外注で頼むようにしました。
30代以上の女性は家事も仕事もプレッシャーを感じやすい?
干場:皆さんいろんな考え方でアウトソースを利用したりしていなかったりするわけですよね。そこで不思議になってくるのは、なぜ女性は自分と違う生き方をしている人たちを批判してしまうのか。女性の中に分断が生まれ、足を引っ張り合ってしまうのはなぜか、ということです。
浜田:私が自分の3、40代の後輩を見ていて思うのは、この世代は足の引っ張り合いというより、「罪悪感」を感じやすいなということです。みんな家事も仕事も100%やろうとしちゃうんですよ。母としても、妻としても、仕事人としてもちゃんとしなきゃ、と。家事を頼むのは決して手を抜くことではないと思います。むしろ全部を自分が背負って体調を崩す方がその後が大変だと思います。
「全然悪いことじゃないんだよ」と言っても、私たちの世代以上にアラフォーの彼女たちは家事も仕事もきちんと「やるべき」だとマジメに思い込んでいるんですよね。
干場:よく聞きますね。
浜田:例えば、キャラ弁も作るし運動会もはりきるし。「もう茶色(のお弁当)でいいじゃん!」って言うんですけど、まだ周りの目を気にしてしまう。特に夫の目、夫の両親の目を。
干場:そういう目なんですね。
浜田:実際に何か言われるというよりは、「言われるのではないか」と自分の中の価値観にがんじがらめになっている、という印象です。今の30代以上って、比較的母数の多かった専業主婦のお母さんたちに「女性はかくあるべき」みたいな教育を受けているから、男性も女性も無意識のジェンダー観が植えつけられてしまっているような気がするんですよね。そのような人たちが今社会の中で働き続けている。だからそこを変えるのが、男性も女性もすごく大変だと思います。
(構成:園田菜々、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)