午後になると、眠くなって集中力が途切れ、仕事に身が入らないことがあります。そこで、「カフェインナップ」と呼ばれる昼寝の方法を推しょうする企業が増えてきています。
ベストセラーの『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)の著者で、大阪市立大学医学部大学院特任教授の梶本修身(かじもと・おさみ)医師に、詳しいお話を聞いてみました。
昼寝前にカフェイン入りドリンクを飲むと目覚めやすい
——「カフェインナップ」とは、どのような方法なのでしょうか。
梶本医師:「ナップ」は、仮眠やうたた寝を意味します。まず、「15分~30分の昼寝は時間あたりの睡眠の効用が最大化する」という研究報告があり、「パワーナップ」と呼ばれて疲労回復に有用であることがわかっています。厚生労働省が推しょうしていることもあり、パワーナップを導入する学校も増えてきました。
次に、「カフェインナップ」とは、パワーナップの前に、コーヒーや紅茶、緑茶、ココア、ウーロン茶などのカフェインが含まれるドリンクを飲む方法を言います。
——「カフェインをとると寝つきが悪くなる」とよく聞きます。なぜ仮眠の前に飲むのでしょうか。
梶本医師:カフェインには、脳の神経を覚醒(かくせい)させる働きがあります。これが、コーヒーや緑茶を飲みすぎると寝つきにくくなる理由です。
ただし、カフェインを飲むとすぐに目が覚めるというわけではありません。覚醒作用を発揮するまでには20~30分の時間がかかります。この特性を利用するのが、「カフェインナップ」です。
昼寝をする直前にコーヒーや緑茶を飲むと、20~30分経って起きたときに覚醒作用が働き、目が覚めやすくなります。すると脳がリフレッシュされて、午後からの作業効率がアップするだろうという方法です。
昼寝は15~30分まで
——昼寝の時間は15~30分がよいという理由を教えてください。
梶本医師:睡眠には、体は休んで脳は働いている浅い眠りの「レム睡眠」と、脳も体も休んでいる深い眠りの「ノンレム睡眠」があります。眠りについてから30分ほど経過すると深いステージのノンレム睡眠に入るため、脳が眠りから抜け出しにくくなります。また、先ほど話したカフェインの覚醒作用にかかる時間や、現実のランチタイムを考えても、15分~30分が適しているでしょう。
——休日に、1時間以上の昼寝をすることがありますが、寝すぎでしょうか。
梶本医師:過労状態や睡眠不足の場合を除き、日中に頭をリフレッシュさせるためには、寝すぎと言えます。深い眠りに入ると、無理をしないと起きられない、目覚めに頭がぼーっとして体がだるいといった経験は誰しもあるでしょう。また、90分以上の昼寝をすると、夜の睡眠に支障が出やすいこともわかっています。
ランチタイムの昼食後を利用して昼寝を
——仕事中に、カフェインナップをうまく活用するポイントはありますか。
梶本医師:昼の休憩を1時間とすると、昼食後にちょうど30分ほど時間があるでしょう。ですから昼食後にコーヒーを飲み、会社の会議室など空いている部屋や近くの公園などひとりで過ごせる場所に出向き、リラックスした心持ちで目を閉じましょう。
たとえ眠れなくても、どこかで座って目を閉じるだけで疲労は和らぎます。カフェインの覚醒作用が出るころに目覚めてランチタイムが終了し、午後の仕事が始まるという流れです。
座って目を閉じるだけでも疲れは軽くなる
——目を閉じるだけであればすぐに始められそうですが、どうしてそれが疲労の改善になるのでしょうか。
梶本医師:脳には、五感を通して常にさまざまな情報が入力されています。その大部分を占めるのが、目から入ってくる視覚情報です。つまり、目を閉じると、脳に入ってくる情報のほとんどを遮断することになります。暗算や熟考するときに目を閉じるのは、処理しなければならない情報を減らして集中できるからです。そうすると、脳で情報処理能力にかかる負担が減って、脳疲労を改善することができるのです。
それに、ヒトは立っているだけで緊張して自律神経に負荷がかかっています。座ってくつろぐ、また座って机にうつぶせになるだけで、その負荷を軽くすることができます。
座って目を閉じることをくり返していると、やがてすっと昼寝ができるようになるでしょう。毎日の習慣にしてみるとよいでしょう。
——これまでは目覚めてからコーヒーを飲んでいましたが、これからは「昼寝の前」に飲むようにします。ありがとうございました。
カフェインは眠気を妨げるというイメージがあり、まさか睡眠に利用できるとは思っていませんでした。また、目を閉じるだけで休息になるということも、疲労回復にあたってありがたい情報です。さっそくカフェインナップを実践すると、いままでうとうとしていた午後一番の時間でも自然に頭が冴えて仕事がはかどり、モチベーションもアップしました。ぜひ、参考になさってください。
(取材・文 藤原 椋、藤井 空/ユンブル)