お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎(やべ・たろう)さんが下宿する大家さんとの日々をつづったエッセイマンガ『大家さんと僕』と、2008年からニューヨークで暮らしている近藤聡乃(こんどう・あきの)さんがNY暮らしのあれこれを描いた『ニューヨークで考え中』のコラボイベント「ニューヨークでも新宿でも考え中、近藤さんと僕」が4月21日(土)、東京・神楽坂の「la kagu」で開催されました。
近藤さんのファンだったという矢部さんと、NYで『大家さんと僕』を読んですぐに長い感想メールを矢部さんの担当編集者に送ったという近藤さんのトークショーの模様をウートピ編集部が再構成・編集してお届けします。
海を渡った『大家さんと僕』
近藤聡乃さん(以下、近藤):矢部さんの担当編集の方から『大家さんと僕』を送っていただいたんですが、読んですぐにメールで「よかったです」と感想を送りました。
矢部太郎さん(以下、矢部):それを聞いてとても嬉しかったです。「海を渡ったんだ」って。
近藤:日本のマンガを読める喜びもあるんですが、矢部さんのマンガは本当に面白かった。中にはなんとか褒めなきゃいけないときもあるじゃないですか(笑)。でも、これは本当に面白くて長いメールを送りました。
矢部:僕はもともと近藤さんのファンだったんです。今日のイベントだって、自分が出ていなかったら「近藤さんのイベントがあるんだ!」ってファンとしてチケットを取って行ってたかもしれない。(渋谷で1、2月に開催された)原画展にも行ったんです。
近藤:ありがとうございます。
矢部:今日もこんなにたくさんの人に来ていただいて……。マネージャーに「カラテカのライブではここまで入らないですよね」って言われました(笑)。
近藤:これから矢部さんはすごくモテるんじゃないかなって思いました。婚活のマンガも描かれるって聞いたんですが……。
矢部:はい。でも、婚活したくないんです。だから婚活のマンガなんですが、婚活してないんです。
近藤:……そうなんですね。
「親孝行って自分の親にするのが一番難しい」
近藤:『大家さんと僕』で、大家さんがかつての結婚相手からサザエに例えられる場面があったと思うんですが、私が受けた印象だと、(大家さんが)心を閉ざしている印象を受けたんです。だから結婚生活はあまり幸せじゃなかったのかなって……。
矢部:ああー、全然気づかなかった。描いていたけれど。
近藤:私はそう思ったんです。と同時に、マンガを読むと大家さんってとても素敵じゃないですか。そういう方でもうまくいかないときはいかないんだなって思ったんです。そう思うと、気楽になるというか。そういうのありませんか? 「あんないい人でも嫌われることってあるんだな」みたいな。なんかホッとしました。
矢部:そうですね(笑)。
近藤:あと、矢部さんが大家さんと手をつないで風の中を歩くシーンがあると思うんですが……。矢部さんはご両親の手を引いて風の中を歩いたことはありますか?
矢部:ないです!
近藤:ないですよね、そうですよね。私も最近、義理の母が85歳で、引かないとどうなってしまうかハラハラするから手を引いて歩くんですが、「自分の親ですら手を引いたことないのに……」っていいことしているのに、罪悪感が湧いてくるんです。
矢部:ちょっとわかりますよ。親にしていないし、恥ずかしいし。プレゼントも大家さんにはできるけれど親にはできない。
近藤:親孝行って自分の親にするのが一番難しいのかもしれない。
矢部:親がこのマンガを読んで「うちでは全然こんなことしないのに」って言っていましたね。
近藤:私もこのマンガを読んだあとに母と電話して「カラテカの矢部さんが描いた本が面白いよ」って言ったら、買って読んだんです。そしたらやっぱり同じようなことを言っていましたね。「うちの子はこんなに親切にしてくれたこと、あったかしら……」って。
矢部:うわー、うちの親もそんな気持ちになっているのかな。うちの父は冗談でそういう話をしてくるんですね。でも、お母さんは一言も感想を言ってこなかったです。
近藤:えっ! 大丈夫ですか?
矢部:もうすぐ母の日なので何かします。
近藤:うちの母は「(ベントに)来たい!」って言っていたんですが、「ダメ」って言って。
矢部:親孝行しましょうよ!
近藤:親にトークを聞かれるのが恥ずかしくないですか? 私だけ親孝行をできないのかなと思って罪悪感を感じていたんですが、誰もできないならいいのかなって思ってきました。
矢部:できないからこそ尊いんじゃないですか?
近藤:そうですね。他人(ひと)の親に(親孝行を)すれば全員回ってくるから……。
矢部:じゃあ、やっていきましょう。
「大家さんのお年になるまでがんばりたい」
近藤:『ニューヨークで考え中』は、大家さんくらいのお年になるまでがんばりたいと思っているんです。80歳くらいまで続けたら結構大作ですよね。
矢部さんは大家さんとのお話をこれからも描くんですか?
矢部:本当は僕これ1冊しか出す気がなかったんです。だから、逆にこういうふうに描こうと思って描いた。エッセイマンガは生きている限り描こうという感じだけれど、1冊だけのつもりだった。この話を先輩にすると「大家さんのためにも早く描け」って言われる。だから描いてもいいかなって思っている。
近藤:大家さんはどう思っていらっしゃるんですか?
矢部:喜んでお友だちに配っています。
近藤:へえー、それはよかったですね!
イベントでは、矢部さんと近藤さんが互いの作品を読んで描き下ろしたマンガも初公開されました。
(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)