女の子を前に名言を連発したり「素の俺を見てほしい」と迫ったりしてしまう痛々しくもどこか滑稽な“おじさん”という存在。
そんなおじさんのエピーソードを軽妙に、鋭く綴った鈴木涼美さんのエッセイ『おじさんメモリアル』(扶桑社)が9月に発売されました。
「◯◯女子」のようにこれまでは何かと女性が取り上げられたり、話題の中心になったりすることが多かったけれど、これからは「おじさん」が主役……?
鈴木さんに「女子とおじさん」をテーマに3回にわたって話を聞きます。
【1回目は…】「上司も夜は縛られているかも」おじさんも“いろいろな顔”がある
おじさんって思ったほど怖くない
——前回は、「おじさんにもいろいろな顔があるんだよ」っていうお話でした。私も含めて会社勤めの女性は大抵は昼のおじさんの顔しか知らない。
鈴木:そうなんですよね。だからおじさんの情けない姿や夜の顔を暴露するというよりも、「いろいろな面があるよね」ってことを伝えたかった。
そうすると、有害だと思っているものも無害だったとか、脅威だと思っていたけれど、そんなに怖くなかったってことを発見できるんです。
——えっ、どういうことですか?
鈴木:私たちの上の世代、今の40代から上の世代の女性って長らくおじさんという男性社会と戦ってきて、そのおかげで今の時代があると思うんですが、ずっと戦っていると「敵」が強く見えるんですよね。怖いし、力強く、強く見える。
権力としての男性を見ている、といえばいいのかな。私たちが自由になろうとする前に立ちはだかる壁のように見えていたと思います。
——男性社会の象徴みたいな……。
鈴木:そうですよね(笑)。ただ、私たちの世代はもう少しフラットな視点で見ることができると良いのかなと思っていて。
フェミニズム的な文脈だと「権力の象徴」のような語られ方をして「怖い、倒さないと!」って思っちゃうんですが、地べたに張り付いておじさんというものを観察してみると、別れ話*ばかりしてきたり、倒置法のメール*ばかり送ってきたり、っていう情けないおじさんの姿が見える。そんな人を倒すべき大きな権威って見るのはちょっと違和感がある。
*参考記事:別れるサギおじさん、倒置法おじさんって何?
——そうですね。私も昼の真面目なおじさんしか知らないですが、ほとんどが熱心に仕事を教えてくれたなあ。時々ズレたことを言ってきてイラっとしたこともあったけれど。
鈴木:そうなんですよね。変だけれど一生懸命私のことを考えてくれたり、わからないなりに慰めようとしてくれたり喜ばせようとしてくれたりね。
で、それが見当違いで面白かったりするんです。滑稽ながらそこまで怖い存在ではないってことを書きたかったんです。
——中にはセクハラやパワハラおじさんもいるから、しかるべきお仕置きをしないといけないけれど……。
鈴木:もちろんそうです。ただ、「(女性には)かわいいって言ってあげないと」とか、女性に好かれたいという気持ちが空回ってしまっているおじさんも実は多いんですよね。そういうおじさんを肯定しようとも許してあげようとも思わないんですが、いがみあってても仕方ないなって思って。せめて、怒るよりは嗤(わら)うほうがいいかなぁと。
——確かに。
おじさんは女子を喜ばせたいだけ
鈴木:「女子で食べて」ってシュークリームを大量に差し入れしちゃったりするおじさんとか……。そんなに食べれないよ、って思うんですけれど。できるおじさんだったら「レッドブル」なんだけどなーって思うんですけれど!(笑)
——ただ女子を喜ばせたいだけ。
鈴木:そう。それを「シュークリームを差し入れするのはやめてください」って会社に訴えたら敵対関係になっちゃう。怖がってお茶も差し入れてくれなくなっちゃう。
そして、どんどん「女は怒らせると面倒臭い」というおじさんと、「やっぱりおじさんは何もわかっていない」という女子との溝が深まる。
——悲劇ですね。
鈴木:おじさんって女の人ほど世界を見てないから、思い込みも激しい。「女子はイチゴが好き」って思い込んでいるおじさんに「本当は干し芋が好きなんだよ」って言ってもなかなか伝わらない。そんな凝り固まっている思い込みを少しずつ崩していったほうがいいのかなと思います。遠くから叫ぶんじゃなくて、身近なところから。
——そっかー。私たちも「おじさんはこう」って決めつけてた部分はあるかもですね。
鈴木:そうですね。情けないものと思い込み過ぎるのもよくないし、強いものって思い過ぎるのもよくない。
「怒る」ってエネルギーがいるし疲れる。だから、“シュークリーム裁判”とか起こさないで面白がる。せめて飲み会のネタにするくらいで。「私らにデブになれって言ってるの?」って(笑)。
——お互いに歩み寄るのが大事ってことですね。
女の武器は意外に使えない
——そういえば「おじさんとの付き合い方」と言えばなんですが、いわゆる「女の武器」って有効なんですか?
鈴木:女の武器って意外と使えないですよ(笑)。記者時代に毎日ミニスカで出社してたけれど、別にそれで特別ネタが取れるわけではなかったです。新聞協会賞とか取ってないし(笑)。大して使えないですね!
——そうなんだ。鈴木さんに言われると説得力ありますね(笑)。
鈴木:でもまあ自分が心地よくいるために使うってのはありますね。
——というのは?
鈴木:可愛がられてたほうがサボったりはしやすい、ってのはありますね。出世はしないけれど。
——やっぱり出世はしないのか。おじさん真面目だな。
鈴木:最近のおじさんたちは真面目だし、贔屓(ひいき)しちゃいけないって思っているから、「肩揉んでくれたからあの子を課長にしちゃえー! えいっ」ってのはさすがにないですよ。
——あはは。
鈴木:まあシュークリームをもらえるくらいですね。賞金はもらえないけど。やっぱり実力がなければダメだし。
水商売だったら「女の武器」はそのまま金になると思うんですが、だから仕事によりますよね。「何に対して金が払われているか?」というのは仕事によって違うので、その違いなんじゃないですか?
——なるほど。
鈴木:でも、他社の記者で仲良くなった人がテープ起こしをくれるってのはあったかな。家で寝ていても会見の原稿が送れるっていうのは便利でしたね。
——それ、いいですね!!(笑)
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)