通勤の電車内、デスクワークなどで同じ姿勢が続くとき、猫背だと見た目の印象が悪くなるだけではなく、前かがみが続くことで頭痛や目の疲れ、胃腸の消化不良、また歩きかたや骨盤のゆがみなど、体の不調をまねくとも言われています。
そこで、デスクや通勤電車でもできる猫背改善のためのツボ押しやストレッチの方法を、鍼灸師で太子橋鍼灸整骨院(大阪府守口市)の丸尾啓輔院長に聞いてみました。
猫背は自律神経の働きに影響する
猫背が体の不調の原因になるとは、どのような理由によるのでしょうか。丸尾さんはこう説明します。
「あごを前に出す、背中を丸めるといった猫背の姿勢は、首の周りの筋肉を硬くして血流不良をまねき、片頭痛や肩こり、腰痛、内臓への負担にもつながります。自分は猫背だなと気づいたときは、早めにケアを試みましょう。次に、全部で2~3分でできる猫背改善のためのツボ押しとストレッチを紹介します」
(1)ツボ・帯脈(たいみゃく) ……腰周りの血流を促し、腰痛を改善する
「帯」は腰の周りをぐるりと回る帯のこと、「脈」は体内での「気」の循環を表します。このツボは、腹筋の一部を刺激し、腰からお腹の血流を促すと同時に、背中や腰の痛みを改善し、背筋をまっすぐに伸ばしやすくします。
<位置>
体の側面の肋骨の一番下の骨からまっすぐ下がり、おへその位置の水平線と交じわる場所、左右にあります。
<刺激法>
両手のおや指の腹で、ゆっくりと痛みを感じない程度に軽く、左右を同時に押します。ひと押し10~20秒ほどを3~5回、繰り返しましょう。
(2)ツボ・肩中兪(けんちゅうゆ) ‥‥‥肩や首のコリをほぐす
「肩」は肩、「中」は中間を、「兪」はツボを意味します。けんこう骨から首にかけての筋肉をほぐし、腕の痛みやしびれなどにも働きかけます。
<位置>
頸椎の一番下の骨(下を向いたときに突起している背骨)の下のくぼみから、ひとさし指、なか指、くすり指をそろえた幅の分だけ外側に向かったところ、左右にあります。
<ツボの刺激法>
左手のひとさし指となか指の腹で右の肩中兪を少し強めに押します。また、右手で右のツボを押してもかまいません。さらに、いろいろな方向に押してみて、自分が心地よいと思う刺激法を探してください。左右の手を替えて両方の肩を交互にひと押し10~20秒ほどを3~5回、繰り返しましょう。
(3)ツボ・中府(ちゅうふ)‥‥‥胸の筋肉をほぐし、背筋を伸ばしやすくする
「中」は横隔膜からおへその間の腹部を、「府」は漢方医学で言うエネルギーの元である「気」が集まる場を意味します。腹部から上に向かう気が集まるのが中府です。胸の筋肉の緊張を和らげてほぐし、胸を張った姿勢をとりやすくし、血流やリンパの流れを促します。
<位置>
鎖骨の下を外側に向かってなぞり、突き当たる部分からなか指の幅分ほど下のくぼみ。左右にあります。
<ツボの刺激法>
左手のなか指で右のツボを、また、左手で右の二の腕をつかむようにしておや指の腹で押します。左右の手を替えて両方のツボを交互に、ひと押し10~20秒ほどを3~5回、繰り返しましょう。行います。
背筋を伸ばした姿勢でいる時間を増やす
ここまで、ツボ押し3つで肩、首、胸の筋肉をほぐす方法を教えてもらいましたが、丸尾さんはこれらにストレッチをプラスすることを提案します。
「ツボ押しで血流を促して筋肉のコリをほぐしても、すぐにスマホの操作で猫背に戻ったという経験はあるでしょう。デスクワークの途中にストレッチをこまめに行って、背筋を伸ばした姿勢を意識し続けましょう」
(4)けんこう骨ほぐしストレッチ
胸を張って背筋を伸ばします。そこから軽くひじを曲げて上げ、左右のけんこう骨を背骨に向かってギュッと寄せ、10~20秒キープ。1時間に1回くらいを意識してこまめに行います。鼻から息を軽く吸いながら行うと、自然と胸を張ってけんこう骨を寄せることができます。呼吸を深めると、体の緊張をほぐして肩こりを和らげ、背筋を伸ばしやすくなります。
(5)首の前屈・後屈ストレッチ
胸を張って背筋を伸ばし、両手を後頭部に当てて首を軽くゆっくりと前に傾け、10~20秒キープします。次に、手のひらを合わせた両手をあごの下に置き、指先であごを軽くゆっくり押し上げるようにして首を後ろに倒します。
前屈も後屈も、力を強く入れ過ぎないようにしてください。(4)のけんこう骨ほぐしストレッチと同時に1時間に1回くらいを目安に行いましょう。その後、首の位置を確認して、首が前に傾いていないか、猫背になっていないかなどを確認しましょう。
最後に丸尾さんは、自分の姿勢を意識するタイミングついて、次のようにアドバイスします。
「今回のツボ押しとストレッチは、座っていても立ちながらでもできます。イスから立ち上がるときに、ギュッとけんこう骨を寄せて胸を張り、姿勢を正してから歩き出すようにしましょう。また、イスに座るときは首を前・後屈し、ツボを押すなど、動作の最初に姿勢を意識する習慣をつけましょう。1日の中で背筋を伸ばした姿勢でいる時間を増やすことが猫背改善のポイントです」
筆者は猫背がひどく、すぐに胸をすくめて背中を丸める姿勢になりがちでした。胸を張り背筋を伸ばしても、その状態を10分以上保てなかったのです。しかし、このツボ押しとストレッチをこまめに1週間続けたところ、ピンと背中を伸ばした状態を30分ほど続けても苦しくはなくなりました。これなら、猫背改善の動きを継続することができそうです。
(取材・文:小山田遥/ユンブル、イラスト:つぼゆり)