8年間の会社員生活で身につけたITスキルを活かして「店舗を持たない花屋」&Flower Romantica(アンド・フラワーロマンティカ)を立ち上げた正井京都(まさい・みやこ)さん。
品川区にある自宅を仕事場にして、そこから毎日季節の花を届けています。人、食卓、オフィス、ウェディング……花は何かにそっと寄り添うもの。いつでも脇役としてそばにいるラブリーな花を届けたい。
聞けば、その原点は「深夜、ひとりで帰る部屋にお花があったら……」という切実な想いにあったそうです。
第1回はこちら:「会社、辞めてもいいんだ」ITスキルで“店舗のない花屋”を開店するまで
ハードワークの中で見つけたもの
「深夜、ひとりで帰る部屋にお花があったら……」
そう思いながら、毎日ハードワークをこなしていた会社員時代。
前回ふれたように、正井さんが新卒で入社したIT企業は本当にハードな世界でした。2000年代はIT業界全体がイケイケな雰囲気で、毎日終電で帰るのが当たり前だったそう。
「最初はBtoBの営業をやっていたので、新人の頃は毎朝8時からロールプレイの練習。夜も10、11時から上司の飲み会に顔を出し、少し飲んでからまたオフィスで仕事をしてという日々でした」
小中高でバスケットボールをやっていたので、そういう体育会系のノリに違和感を覚えることはなかったという正井さん。上司も同僚も尊敬できる人ばかりの恵まれた環境でしたが、やはり仕事のプレッシャーは相当のものでした。
「IT系の広告は数字がすべてなんです。ノルマを達成するのは本当に大変でした。やっと取れた仕事も、数字で結果を出さなきゃというプレッシャーがすごくて」
また、業界全体がイケイケな雰囲気だったせいもあり、パワハラめいたことも許されていたそう。それも相まって、正井さんは徐々にすり減っていきました。
そして、入社3年目を目前に正井さんは体を壊してしまいます。
「食べられなくなって。無理に食べてもすぐに吐いてしまうんです。体重が10キロくらい落ちてスーツもブカブカに」
その変化は周囲も気づくほどで、「大丈夫?」と上司から心配されることもありました。
「深夜、ひとりで部屋に帰る人」に届けたい
「あの頃は目の前のことでいっぱいいっぱいでお花のことは頭にありませんでした。終電で帰るので、お花屋さんもとっくに閉店しているし」
たまの休日にふと「お花が欲しいな」と思って駅前の小さなお花屋さんでバラやグリーンを買って部屋に飾っていたんだそう。部屋にいる時間さえほとんど取れない生活でしたが、目の前に花があるだけで本当に癒される。
「店舗を持たない花屋」をやろうと考え始めた時から、ターゲットは決めていたという正井さん。
お花を届けたいのは、自分みたいな女の人。
都会で朝から夜まで忙しく働いていて、深夜ひとり疲れて部屋に帰るような女の人。お花が部屋にあったらと思いながらも、お花屋さんが開いている時間になんて、とても帰宅できないような女の人。
今の自分みたいな、そんな女性に季節の花を届けられたら。
「そんなふうに考えて、独立直後には、ひとり暮らしの女性の部屋に毎月季節の草花が届くような定期便を始めようとクラウドファンディングを募りました。そうしたら2ヵ月ほどで目標額が集まって」
ところが、実際に始めてみると、定期便にはいくつものハードルがありました。アレンジした状態で送るとかさばる、冷蔵で送ると送料がかかる、宅急便で送ると形が崩れてしまう……。
とびきりいいお花を、最高の状態で届けようとするとどうしても料金が上がり、自分が届けたいターゲットの手が出なくなってしまうと正井さんは気づきます。
「結局、宅急便は諦めて、今のところ私が車で配達できる品川区、渋谷区あたりに限定してやっています」
ビジネスとしてやっている以上、利益はきちんと出すけれど、どんどん拡大させるつもりはない。次のアイデアが浮かぶまで、今の小さな規模で無理せずマイペースに続けていきたい。決して効率的ではないけれど、「このままでいきたい」と正井さんは話していました。
ウートピ読者に贈りたい花
仕事も、恋愛も、趣味も、貪欲にがんばっているアラサーのウートピ読者。そんなウートピ読者のために、最後に正井さんにブーケを作ってもらいました。
疲れて帰ってきた時に、玄関やダイニングテーブルの上にポンとさりげなく飾られていたらいいな、と思えるブーケとは?
「黄色のミモザ、オレンジとパープルのスイトピー、橙色のラナンキュラスを組み合わせて明るく陽気な感じに」
「肩肘はらないカジュアルな花を提案するのが、&Flower Romanticaのスタイルなんです。あたかも“あんまりきれいだったから、さっき摘んできたよ”っていう雰囲気の花を届けたいんです」
「スパイラルになるように花を束ねていくのが、ブーケをつくるコツ。このままスッと花瓶に生けるだけで、360度どこから見ても可愛くなります」
「はい、できました」
手渡されたブーケは、他のお花屋さんで見かけるブーケと何かが違います。「私が主役よ!」と主張しない、どこかふんわりとした優しい雰囲気。「深夜、ひとりで帰る部屋にあったらいいな」正井さんのその想いが、確かに感じられる花束になっていました。
最終回となる第3回は、独立して感じたライフスタイルの変化について正井さんに聞いていきます。
(ウートピ編集部)