やっぱり今年も巷を騒がせる「不倫」……。これまでさまざまな不倫トラブルを担当してきたアディーレ法律事務所の篠田恵里香(しのだ・えりか)先生によると「揉めると、ほとんどの男性は家庭を選びます」とのこと。
ついつい相手の言うことを信用して関係を続けるうちに奥さんに訴えられて慰謝料請求、彼は急に知らないフリなんてこともあるんです。そんなことにならないよう、不倫にまつわる慰謝料についてしっかり学んでおきましょう。
<今回のポイント>
【1】彼が「妻と別れる」と約束していた場合でも、不倫は違法?
【2】不倫の慰謝料、負担するのは誰?
【登場人物】
ヨシノ(32)
保険会社で営業をしている32歳。勝気でサバサバした姉さんタイプだが、恋人には意外と乙女で尽くしちゃう。実は取引先の担当社員(妻子アリ)と半年以上不倫関係に。
それでも不倫がやめられない……
“大切な人に、大切にしてもらいたい。私が望んでいるのは、それだけ。彼は「妻とは別れる」って言ってくれてるから、私は待ってればいいの。それでも、もっと、って望んでしまう。「家に居場所がない」って、言ってる彼。彼の気持ち、痛いほどわかる……。二人でも、愛がなければ、孤独、なのよね”
「うわ〜〜〜〜相変わらずね! 句読点多すぎない?」
「ひっ」
「こーんな朝っぱらから、いい大人が中学生みたいな日記書いてるなんて……ひどいわね〜〜〜」
「エリカちゃん……!!!」
「あなたまだあの男と別れてなかったの? っていうか、あいつさっきまでここにいたわね……?」
「うっ……」
「あぶな〜い、バッティングするところだったじゃない!」
「勝手に来て勝手なこと言わないでくれる!?」
「あなたさ、本当にその男、奥さんと別れると思ってる?」
「え……?」
男の「妻と別れる」は信用するべからず!
「奥さんのインスタ、見たことある?」
「……」
「当然あるわよね? 敵は気になるもんね。で、どうだった?」
「……」
「彼と仲良く暮らしてたでしょ、普通に。私、妖精だからわかるんだけど、彼女もうすぐ妊娠するわよ」
「えっ!?」
「つまりそういうこと。彼は奥さんと別れたいなんて思ってないの。これが現実」
「でも妻とは別れるって言ってくれた! 夫婦関係が終わってたら恋愛するのだって自由でしょ」
「確かに相手の婚姻関係が破綻していた場合、不倫状態でも違法とはされないわ。けれど、裁判所の“婚姻関係が破綻してたかどうか”という判断はかなり厳格よ」
「……どういうこと?」
「長期間別居状態とか、夫婦間の交流がまったくないとかじゃない限り、関係が破綻していたとは認められないわ。ねえ、ヨシノちゃん。彼がそういう状況に見える?」
「心の上では破綻してる……」
「少なくとも裁判所は認めないわ。それはつまり、あなたが奥さんに訴えられた場合、奥さんの“婚姻生活の平穏を維持する権利”を侵害したってことで損害賠償責任を負うってことなのよ」
「うう……でも彼がそう言ってくれたから……」
「いい加減目を覚ましてほしいわね。もちろん相手の言動で夫婦関係が破綻してたって思い込んでた場合、不法行為とされないケースもあるわ。でも、これもヨシノちゃんには本当に破綻してるかどうか調査を尽くす義務があるのよ」
「義務……」
「そうよ。彼の話だけじゃ当然認められない。そもそもこうやってSNSを見るだけで、彼と奥さんの生活は別に破綻してないってわかるんだから、あなたの主張は当然無効よ!」
「そ、そんな……」
不倫の慰謝料、負担するのは誰?
「全然わかってないみたいだからもう一度言うけど、もし不倫がバレて奥さんが損害賠償を請求してきた場合、あなたが慰謝料を払わなきゃいけないのよ」
「彼がきっと守ってくれる」
「はあ〜〜〜。あのね、不倫はヨシノちゃんと彼の二人が奥さんに対して精神的苦痛を与えた共同不法行為なのね。だから確かに慰謝料はあなたも彼も支払う責任があるわ」
「私たち、愛し合ってるの!」
「きれいごと言ってるけど、この場合被害者は奥さんよ! ねえ、ここからが本題だけど、奥さんはあなたと彼の両方に慰謝料を請求することもできるし、片方のみに全額請求することもできるの」
「えっ!?」
「つまり仮に慰謝料が300万円だった場合、奥さんはヨシノちゃんに200万請求して、彼に100万請求することもできるし、ヨシノちゃんに300万円全額請求して、彼には請求しないってこともできるの」
「ええっ!?」
「そういう状況なら、彼は奥さんを選ぶでしょうね」
「そ、そんな……」
「まあ、責任は“どちらがどれだけ悪かったか”によるから、あなたが全額慰謝料を払った場合、彼に対して負担分を請求することができるわ。求償権ってやつね」
「私が彼を訴えるってこと……?」
「そうなるわね。そうなったら泥沼よ〜。そして、不倫のトラブルは泥沼になることがほとんどね」
「……」
「朝からイヤな話をしたわね。ヨシノちゃんもこれから会社でしょ? まだ早いしもう一眠りしたら?」
「そんなこと言われたって、そんな話された後じゃ寝れないじゃない!」
「あっそ。ともかく私は行くわ。本当、いい加減にしないと不倫なんて損することばっかりよ」
「うるさい!」
そばにあったクッションを投げつけると、エリカちゃんの姿は跡形もなく消え去っていた。はあ……。痛いところを突かれてしまった。彼の「家に居場所がない」とか「妻と別れる」って言葉を、心の奥底ではずっと疑っていたのだった。慰謝料をめぐって泥沼になんてなったら、誰も私を守ってくれないんだ……。
<今回のポイント>
【1】 彼が「妻と別れる」と約束していた場合でも、不倫は違法?
確かに相手の婚姻関係が破綻していた場合は、不倫状態でも違法とはされないわ。けれど、裁判所の“婚姻関係が破綻してたかどうか”という判断はかなり厳格よ! 彼の口約束程度ではまず認められないわ。
【2】不倫の慰謝料、負担するのは誰?
ヨシノちゃんの場合、不倫をした彼とヨシノちゃん二人に奥さんへ慰謝料を支払う責任が発生するわ。ただし、請求額は奥さんの采配次第。ヨシノちゃんが全額で、彼は0円、なんてこともあるのよ!
エリカちゃん(永遠の30歳)
「六法全書」の妖精。本名はオピストコエリカウディア・スカルジュンスキィ。辛口で正論をバシバシ言うが、困っている人は放っておけない姉さんキャラ。神様から派遣され、困っている女性のリーガルマインドを鍛え直している。