なぜ、35歳で起業なの?
「35歳」と聞いて、男女関係なくまず思い浮かべるのが「転職の壁」。20代のうちは未経験分野への転職もそれなりにカンタンにできますが、30代も半ばになると未経験分野への転職はかなり難しくなります。ですから「35歳」とは、今あなたが歩いている「この道」を、今後も歩き続けるのか、別の道にするのか、決めなくてはいけない年齢なのです。
そして、女性の場合は「転職の壁」に「出産の壁」が加わります。幼なじみや大学の同級生、会社の同僚が次々にママになり、「私だって、40歳までには……」と焦りを感じ始める年齢がちょうど35歳前後。とはいえ、仕事と育児の両立をがんばる先輩ママたちを見ていると、「保活とか、時短勤務とか、私にはとても無理……」と怖気づいてしまう人も少なくありません。実際、子どもを育てながらの会社勤めは苦労の連続です。
そんな二つの壁が立ちはだかる「女の35歳」。容赦なく迫りくるカウントダウンに焦るだけなんて時間のムダ。そこで、選択肢の一つとして加えてほしいのが「起業」です。
女性の起業は30代後半が一番多い
ここに、ちょっと面白いデータがあります。
男性の起業のピークは定年退職を迎えた60〜64歳であるのに対して、女性は35〜39歳がピークになっているのです。
●図表1「男女別・年代別の起業家数」

中小企業白書2011年版参照、総務省「平成19年就業構造基本調査」より筆者作成
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H24/H24/html/k222200.html
このグラフを見ても、「自分らしく働きたい」「出産しても仕事を諦めたくない」という理想を叶える選択肢として、30代の女性が「起業」を捉えているように思えます。
実際、起業した女性にその理由を聞いたところ、
「性別に関係なく働くことができるから」
「趣味や特技を生かすことができるから」
「家事や子育て、介護をしながら柔軟な働き方ができるから」
といった回答が上位に並んでいます(「中小企業白書2014年」より)。
実は多い「なんちゃって起業」
私はFP(ファイナンシャルプランナー)として、一般社団法人「キャリア35」の理事として、起業を考える(またはすでに起業した)大勢の女性にアドバイスをしてきました。
そこで見てきた女性の起業にありがちなのが、
・ビジネスの観点に欠けている
・いつまでも赤字のまま
・「好きなこと」にこだわりすぎる
といった残念な傾向でした。
「子どもたちのために何かをしたい」「世の中をよくしたい」という思いばかりが先行して慈善事業のようになってしまったり、「好きなこと」にこだわるあまり出費が増えて一度も黒字になったことがなかったり。「起業した女性」と聞くと、キラキラとして素敵に見えますが、内実を知ると、上のようなケースは珍しくありません。
実際、女性の起業は、収益面で男性の起業により劣るというデータがあります。男性の場合、個人所得の平均が272.7万円であるのに対して、女性の個人所得の平均は93.1万円。実に3倍近い開きがあるのです。この数字は事業から得た個人所得なので単純比較できませんが、普通に考えて年間所得が100万円以下では、とても生活していけませんし、ビジネスとは言えないでしょう。
●図表2:男女別の起業家の個人所得
“素敵サロネーゼ”で終わらないために
開業しても持ち出しばかりで、生活費はダンナさんの稼ぎで回しているようでは、単なる「趣味」に過ぎず、「起業」とは呼べませんよね。そんな女性起業家を皮肉を込めて“素敵サロネーゼ”と呼ぶことがあります。
ともすると“素敵サロネーゼ”に陥りがちな30代女性の起業。
そうならずに、「好き」と「稼ぐ」を両立しながら、小さくてもきちんと黒字化できる起業をする。それが私の考える、30代女性の起業のゴールです。名づけて「ぼちぼち起業」。
「仕事だけじゃ、人生つまらない」社会人として10年以上経験を積んだ女性なら、誰もが実感していること。だから、多くの男性の起業家のようにプライベートを犠牲にしてまでバリバリはやりたくないし、「仕事以外の時間」だってきちんと確保したい。そんな夢を叶える、小さくてもぼちぼち稼げる起業のカタチを全10回の連載で紹介していきます。