女子旅の目的地としてすっかり定着したチェコの魅力をお届けしているシリーズ最終回。今回は、知る人ぞ知るモラヴィア地方。どこまでも広がる青空に、草原を吹き抜けていく心地よい風——日常を離れて思いきり癒されたい大人女子は必見です。
風景にワインに建築…魅力いっぱいのモラヴィア
チェコは大きく2つの地方──ボヘミアとモラヴィア──に分かれています(チェコの南東に第3の地方シレジアがあるが極めて小さい)。
首都プラハがあるボヘミアの名は、〈ボヘミア潤す川よ〜♪〉で始まる合唱曲『モルダウ』で知っている人もいるかも? 国土の西側を占めるボヘミアに対して、東側に広がるのがモラヴィアです。チェコを訪れる多くの人がボヘミアだけを見て帰ってしまうのは残念なこと。モラヴィアには「もう一つのチェコの魅力」があります。
森と山が主役のボヘミアに対して、モラヴィア地方は「沃野の地」として知られています。なだらかな起伏を繰り返しながら地平線まで続く丘陵地に麦の穂がうねります。その上には遮るもののない空が広がり、無数の雲がためらうことなく過ぎ去っていきます。
その場で風に吹かれていると、胸のすく思いとはまさにこのこと! 日頃の憂さも、不安も、気がかりも、ちっぽけなものに思えてきます。
国民一人当たりのビール摂取量が世界一のチェコは、疑いなく「ビールの国」ですが、実はワインもいいものをたくさん造っています。
その大半を産するのがモラヴィア南部。なかでもパラヴァの丘周辺はブドウ栽培の適地で、いくつものワイナリーが集まっています。チェコ・ワインがあまり知られていないのは、できあがったワインのほとんどをチェコ国内で消費してしまうから。
しかし、最近は国際的なコンテストで賞を獲得する銘柄も出てきています。見渡す限りブドウ畑が広がるパラヴァの丘の風景は、新たなチェコの顔と言えるかもしれません。
豊かな土地は古くから権力者を引きつけ、文化的な遺産を多く残しました。モラヴィアの中心都市ブルノはプラハに次ぐチェコ第2の都市ですが、ここではモダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエが1930年に建てたトゥーゲントハット邸を見ることができます。
当時の標準的な家屋の50倍もの資金を投じて建てられた屋敷は、電気スイッチのつまみに至る細部まで巨匠がデザインし、モロッコやジャワなど世界各地から貴重な建材を集めて完成させた傑作。「神は細部に宿る」「Less is more」などの名言で知られるミース・ファン・デル・ローエの世界に浸れる特別な場所です。
ブルノから南へ、車で30分ほどの距離にある、レドニツェとヴァルティツェには17世紀から20世紀にかけてこの一帯を支配していたリヒテンシュタイン公爵(リヒテンシュタイン公国の元首の家柄)の壮麗な居城と庭園が残ります。チューダーゴシック様式の前にたたずめば、そこはもう非日常を超えて、異次元の世界。
トゥーゲントハット邸もリヒテンシュタイン公爵のエステートもユネスコの世界遺産に登録されています*。
*リヒテンシュタイン公爵のエステートの登録名は「レドニツェとヴェルチツェの文化的景観」。
取材協力:チェコ政府観光局
写真:Taisuke Yoshida