スーパーに並ぶちょっと高級そうな食品や輸入雑貨店に並ぶオシャレなパッケージの海外食材……。興味はあるけれど、「どうやって食べればいいかわからない」「最後まで使い切れるか心配」とひそかに思っている人は少なくないのでは? 食文化研究家のスギアカツキさんに、誰でも気軽に楽しめる取り入れ方をご紹介いただきます。
皆さん、日々の食事を自由に楽しめていますか? 日本にいると新鮮な魚や四季の旬野菜はもちろんのこと、海外の輸入食品やトレンドフードまで、実に多種多様な食品に出会うことができます。海外のお土産でオシャレなパッケージの食品をいただくことも。う~ん、しみじみ幸せ……。しかしながら、魅力的な食べ物が世にあふれているために、どうやって食べたらいいのか? がわからずに手を出せないでいる食材も多いのではないでしょうか。
食文化研究家である私は、この恵まれながらも複雑な環境において、誰でも気軽に楽しめるようなお手伝いができないかと考えました。そして今回からはじめさせていただく連載で、そんな疑問・悩みを楽しく解消すべく、気になる美食アイテムやヘルシーフードを楽しくご紹介させていただくことを思いつきました。連載名は、「美食は一日にして成る。」です! 難しそう、高級そうと思いがちな食材を気負いなく使えるようになることで、皆さまの日常をちょっぴり豊かにしていただけたら本望です。
第1回の気になる食材は、「発酵バター」。海外の高級食材としてリッチな焼き菓子に使われるイメージが強いかもしれませんが、最近では多くのスーパーでも購入ができ、普段の料理にこそ大活躍する“魔法のアイテム”なのです。さてさて早速はじめていきましょう。

発酵バターのクロワッサンに憧れている人は少なくないはずです。
発酵バターは、バターの魅力を効果的に生かせる理想食材

日本でよく見かける発酵バターの海外ブランドは、「エシレ」と「セル・ドゥ・メール」
まずは発酵バターの基本知識をほんの少しだけ押さえておきましょう。いわゆる日本で広く出回っているバター(甘性バターもしくは無発酵バターと言われる)は、生乳から濃縮した生クリームの脂肪分を固めて作られています。一方、発酵バターは生クリームを乳酸菌の力で“発酵させる”ことが大きな違い。具体的にはこの発酵という工程により、クリームに含まれる糖質が乳酸となって酸味が、たんぱく質がアミノ酸に分解されることでうま味が、糖質やクエン酸から独特の香り成分が作られ、結果として無発酵バターにはない“奥深いうま味、香り、風味”が生まれるのです。
ちなみに発酵バターはヨーロッパにおいては主流であり、例えばガレットで有名なフランス・ブルターニュ地方ではオリーブオイルを使うことがないほど身近な食材として深く愛されています。そして最近の日本では海外ブランドの発酵バターをはじめとして国内メーカーの商品も広く出回るようになっていますから、「使わなければもったいない!」と言っても過言ではないほど恵まれた環境が整っているのです。
覚えておくべきは、風味に“深み”が欲しいときに使うと効果的であるということ。賞味期限がやや短いという点さえ注意すれば、扱う上で特別な注意点はありません。つまりいつもの甘性バターと同じように使えばOKで、緊張ご無用。ひとたび発酵バターの魅力に目覚めると、その個性を味わうことも楽しくなります。ブランドによって海塩や海藻が入ったもの、牧草や花の香りを感じるものもありますから、お気に入りを探し始めると日常生活がいつの間にか香り高くなっていくことでしょう。たかがバター、されどバターです。

普段の料理に使うと、うま味や風味がグッと深まります。
話を活用法に戻しましょう。まだ発酵バター未体験の方にぜひお試しいただきたいのが、「お米料理」です。お米を主食として大切にしてきた日本において、炊飯時に芳(かぐわ)しい香りをまとわせることこそが発酵バターとの距離感を無理なく縮め、新たな感動を呼び起こしてくれると確信しています。
ここでは私が日頃から実践している二つの発酵バターライスの作り方をご紹介したいと思います。
カレーの満足度を上げる「プレミアムターメリックライス」

行きつけのインド料理店主からレシピを聞いて少々アレンジを加えたターメリックライス
まず一つ目は、カレーに合わせる「黄色いごはん」のターメリックライスです。私には長年行きつけのインド料理屋さんがあるのですが、そこで食べるターメリックライスがあまりにおいしくてレシピを聞き、使うバターを発酵バターにしてみたら大ホームラン。それ以来このレシピに落ち着きました。
作り方は超カンタン。うるち米2合+もち米2合を合わせてとぎ、水は少なめ(すし用)に入れてターメリックパウダー小さじ1/2と発酵バター大さじ1を加えて炊飯するだけ。香り高くモチモチとした食感のカレー専用ごはんが炊き上がります。
手作りのおいしさを再確認!「華やかえびピラフ」

家族全員が絶賛した「手作りえびピラフ」
冷凍食品でおなじみの「ピラフ」も、家庭で作ってみると手作りの偉大さに気がつくでしょう。ここに発酵バターをちょっぴり忍ばせれば感動ひとしおです。
作り方は、うるち米(白米)3合につき水540ml、コンソメキューブ2個、トウモロコシ1本分(そいで加える)、生えび10尾(塩と白ワインで下味をつけるとさらに美味)、マッシュルーム水煮1袋を加え、最後に発酵バターを大さじ1乗せて炊飯器の通常コースで炊くだけ。炊き上がる際に部屋に漂うおいしそうな“いいにおい”も至福で、完成後のかき混ぜる際にゆでたブロッコリーを加えると彩りよく仕上がります。冷凍保存もできますから、一人暮らしだとしても多めに作ることをオススメします。
このほか、しょうゆと発酵バターを塗った「焼きおにぎり」や隠し味に発酵バターを加えて炒め上げた「チャーハン」も絶品です。いつものお米料理を格上げすべく、まずは“大さじ1”を目安に使ってみてくださいね!
本日の美食・成り言葉
大さじ1の発酵バターで、お米料理を格上げしましょう。