“いい波”が来たときにパーンと乗れない居心地の悪さ【ジェーン・スー×pha】

“いい波”が来たときにパーンと乗れない居心地の悪さ【ジェーン・スー×pha】

サロンはやりたくない

スー:サロンとかはどうですか?

pha:全くやりたくないですね。

スー:お誘い来ません?

pha:来たような気もするけど、絶対にやりたくない。そんなに人と交流したくないし。

スー:サロンともくもく会の違いは何ですか?

pha:もくもく会は、あれはみんな勝手に作業をしているだけなので、交流はしない。みんな各自のことをやっているだけですね。サロンはやっぱりみんな僕とのコミュニケーションを求めて来るんだろうから、相手をしないといけない。それが嫌ですね。

スー:「もくもくサロンをやりませんか?」って言われたらどうします?

pha:うーん、それだったらいいのかもしれないのかな? 僕が何もしなくてよくて、僕が行っても行かなくてもいいんだったら……。

スー:そうなると、サロンとしては成立しなくなるのかな。phaさんと私は嫌いなものは似ているんだろうな。

pha:自分の信者とかいたら嫌じゃないですか。

スー:そうですね。ただ、私も誰かの存在に勝手に励まされたことがある者として、相手を目の前にしたら感情が高まるだろうし、ちょっと信者っぽくなっちゃうかも。

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スー:phaさん信者います?

pha:いるのかな。本が好きですとか、本を読んで救われましたとかいう人はときどきいますけどね。

信者と教祖とかファンとアイドルって共犯関係というか、単独じゃ成立しないですよね。信者が憧れの思いを持っても、教祖が「私に憧れていいよ」という態度で受け止めないと、その関係は成立しない。僕はそもそもそういう憧れの視線で見られることが居心地悪くて拒否してしまっているのかもしれない。

だけど、本を出したりしている時点で、そういう憧れの構造に足を突っ込んで商売をしているのだから、全く拒否してしまうのもおかしくて、ある程度は引き受けてそういう役をやるべきなのか、ということはたまに思ったりします。

僕は本を読んでいいなと思っても、書いた人に会いたいとはあまり思わないんですよね。本と人は別というか。

スー:こういう仕事をしてると会っちゃうこともあるじゃないですか。

pha:ありますね。でも、作品と本人は別かなと思ってます。作品を読んで、この著者すごい、天才、神、とか思っても、会うと普通の人間だったりしますしね。

スー:そうそう、意外と普通。勝手に神格化するこっちが悪いんだけど。そうか、完全に別物って考えればいいのか。私に対してもそう思ってくれるといいな。

pha:作家もアーティストもみんなわりと普通の人間なんだけど、その本を書いたときだけとか、その曲を作ったときだけ、神とか天才になってるのかもしれないですね。天才というのは瞬間的なものにすぎなくて、24時間ずっと天才でいるわけではないという。

本とか書いてても別に中身は普通の人間だし、えらそうなことを言っててもダメなところがいっぱいあるし、というのを分かってほしいけど、なかなか本だけ読んでる人には伝わりにくいかもしれないですね。本を書いてる人に会うことがあると分かるけど、読んでるだけだとうまく想像しにくそう。

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うまくいっても居心地が悪そうな人のほうが信用できる

スー:こういう仕事をしていると、ちょっとした願いが比較的簡単に叶(かな)うこともあるじゃないですか。人より先に映画が見られたり、ただの休暇旅行が原稿になったり。これでいいのかと、ちょっと幽体離脱することがある。

pha:なんか嘘(うそ)みたいな感じがしますね。自分が今なんで食べていけてるのかいつも不思議になります。こんな状況はいつまでも続かない、いつかダメになる、もっと先のことを考えたほうがいいのかな、と思いながら生活してます。

スー:私も思ってる。こんなこと続くわけないじゃんって思ってる。

こういう時に、新しい波にパーンと乗れる人がいるじゃないですか。そういう人をぼーっと見送りながら、どうしてあそこで私はパーンと行けないのかって考えたりするわけです。ずっと居心地の悪さみたいなものを感じながらやってるから。

pha:ずっと「成功したい」って野心を持ってて、成功したときに「やっと俺の時代が来たぜ!」みたいな感じでノリノリになっていける人いますね。でもそういう人って危うい気がします。なんでそんな危うい足場に乗れるんだろう、全体重を預けちゃ危ないよ、って思っちゃう。そういう人のほうが勢いがあってビッグウェーブを作れるのかもしれないですけどね。

スー:そうか。いつまでも服の形と体が合わないような違和感、持っててもいいんですかね。

pha:だと思いますよ。違和感を持たずに波に乗っていける人は、それが崩れたときに大ダメージを負いそう。僕はうまくいってても居心地が悪そうな人のほうが信用できるし、バランスが良くて安定していると思います。

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※次回は4月2日(木)公開です。

(写真:宇高尚弘)

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