意志が弱い、押しが弱いっていうけど、弱さってなんだ?【小島慶子】

意志が弱い、押しが弱いっていうけど、弱さってなんだ?【小島慶子】

「「πな人生を生きていく。」」
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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第21回のテーマは「弱さと向き合う」です。成長意欲の高い女性ほど「弱さを克服するべき」と口にしがちですが、それってどういうこと? 小島さんに聞きました。

弱さを撲滅しなくたっていい

キャリアでも恋愛でも、一つ上のステージに行くには「弱さと向き合う」ことが大事だと言われます。私もこれには大筋では同意するんだけど、「弱さと向き合うこと=過酷な状況に適応すること」、っていう大きな誤解があるようなのが気がかりです。

まず大前提として、弱さは撲滅しなくていいものです。弱さは人が不完全であることの証ですから、一生抱えて生きていくものです。問題は「自分は弱くない」と思い込んでしまうことや、自分の弱さゆえに人を傷つけることを正当化してしまうこと。

そもそも何が弱さかって、自分ではよくわからないかもしれません。意志が弱いとか押しが弱いとか気が弱いとかいうわかりやすいことばかりじゃなくて、ちょっと見つけにくいものなんですよね、弱さって。偽装してますから。例えば優しさとか賢さとかに。

離婚したばかりの知人男性が、別れた理由を「俺が優しすぎたんだよね」って言っているのを聞いて、へえそうなのかあと思っていたんだけど、後で聞いたら彼は部下を蹴るわ風俗に行って妻に性病移すわの結構ひどい人で、離婚の原因も妻に愛想をつかされたかららしい。でも本人は本気で「俺が優しすぎたからだ」と思っている様子だったのです。弱さって、つまりこういうこと。

自分の性欲や暴力衝動を抑制できない言い訳を、どこでどうやってこじつけたのか「俺は優しすぎるから相手をつけあがらせてしまうんだ」てな薄ら寒い文言に仕立て上げて、本気で信じちゃってる。まさか自分が欲望のコントロールのできない弱い人間だとは思っていないんです。これはとても怖いことです。何の罪悪感もなく人を傷つけますから。

深夜番組のせいにしないで、自己分析を

あとは全部他人や環境が悪かったと言い逃れをする人。ぱっと聞いた感じでは客観的な分析なんだけど、全然掘り下げてない。

例えば前出の風俗男。風俗産業で働いている女性の中には、搾取されたり暴力を振るわれたりして、望んでいないにも関わらずそうせざるを得なくて従事している女性もいるというNPOの記事を読んだ感想は「そんなこと考えたことがなかった。多分俺が見ていたテレビの『11PM』の山本晋也監督のせいだと思う。俺たちの世代は、知らず知らずに山本監督に洗脳されてたんだな」でした。いやいやいや、山本晋也がそもそものあなたの女性差別的な発想にお墨付きをくれたってだけの話でしょ。

そうじゃなくて、あなたが女性の身体をモノみたいに扱うようになった個人的な理由を考えなよ。深夜番組のせいなんかにしないでじっくり自己分析しなよ。考えるのって胆力いるからね、強くなければできないんだよ。どうだ、やってみやがれ。と、私なんざ思うわけですが。

つまりですね、弱さと向き合うっていうことは、自分の邪さやずるさをフェアに研究するということなのです。このフェアにっていうのが難しいところで、自分にとって気持ちのいいストーリーに仕立て上げるのではなく、認めたくないんだけどでもやっぱりあれって差別だよねとか嘘だよねとか、虚栄だよねとか暴力だよねとか、見たくなかったものを自分の中に発見して、それがどういう経緯で生まれてきたのかを時間をかけて突き止めることが、誠実な態度なのだと思います。

しんどいですねえ、気が重いですねえ。

大事なのは、弱さと向き合うことの最終目的は自己否定ではないということです。こんな汚れちまった私なんか死ねばいい、と真面目な人ほど思いがちですが、目的は処罰ではないのです。それは何の解決にもなりません。

人間とは浅ましいものだなあとちょっと他人ごとのように自分を眺めつつ、でもまあせっかく生まれてきたんだから浅ましさに振り回されないように気をつけて、多少は世の中の役に立つことをしようかとか、できる範囲で人助けをしようとか、そんなことでいいのではないかと思います。

そして浅ましい人を見たら、ああわかるわかる、けど私はあなたのように浅ましさを行動には移さない側で生きるよ、とこちらの岸からあちらの岸を眺めているような気持ちでいればいいのではないでしょうか。

無駄なマッチョ思想に縛られないで

仕事でこれができるようになると、発想を切り替えやすくなります。あ、ここじゃないなと思ったら場所を変えるとか、転職でも異動でもいいんだけどとにかく環境を変えて違う挑戦をしてみようと思いやすくなるんです。

「今ここでしんどいと思って逃げたら負け」とかいう無駄なマッチョ思想に縛られがちな組織の空気の中では、しんどいと思っている自分を俯瞰できる方が柔軟に物事を判断できるのですね。私なんかはこの連続でした。

とにかく人と競争するのが嫌いで、競争のないところへないところへ、つまり他の人はさほどやりたがらないけど自分にとっては楽しいニッチなところばかりを選んできたらこうなりました。

ああ私は競争が嫌いなんだなあ、それは多分仕事をする上ではあまり有利ではないなあ、けどまあ無理してもしょうがないから、競争率は低いけれど、つまり花形ではないけれどやりがいのある場所で生きていくことにしよう、と自分の弱点を分析し、付き合ってきました。

「激しい競争が必要な仕事には向いていない」「勝ち負けよりも面白いかどうかを重視してしまう」という自分の特性を改善することは諦めて、その特性を用いて最大限の利益を引き出すためにはどんな環境に身をおくのがいいか、と考えてきたというわけです。これができるようになると、ほとんど他人と比較しなくなるので精神的にも楽になります。

てなわけでですね、今「弱さと向き合わなくちゃ!!!」と張り切っている人は、どうか根性論に流されないようお気をつけください。都合のいいストーリーを仕立てたくなる誘惑に負けないでください。残念な自分を脇に抱えて生きていくのは、うんざりするけど悪くないものです。そいつとボソボソ会話しながら行く道中は、案外孤独ではないのです。

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「πな人生を生きていく。」

オンナの人生って結局、割り切れないことばかり。スパッと決断したり解決したりできない自分はダメ人間かも……と落ち込んでいないで、「π(パイ)な人生」を生きる術を身につけよう。小島慶子さんがアラサー世代に贈るエッセイ。

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