辛酸なめ子さんインタビュー第1回

「選ばれるのを待たなくてもいい」小説を書き終えた辛酸なめ子さんが思うこと

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「選ばれるのを待たなくてもいい」小説を書き終えた辛酸なめ子さんが思うこと

ユニークな視点と発想力で、女性の心を刺激する漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが、小説『ヌルラン』(太田出版)を上梓しました。

主人公は、人気ファッションブロガーとして、華やかな生活を送っていたものの、インスタグラムに乗り遅れて仕事が減っている34歳のレミ。フォロワー10万人以上のファッションインフルエンサー・エレナに嫉妬し、闇落ちしそうになるレミを救うのは、自身の守護霊であるイルカの「ヌルラン」。レミはヌルランと会話をしながら、生き方を見直していく——というのが主なストーリー。

ヌルランのモチーフとなったのは、辛酸さんに憑いているイルカの守護霊なのだそうです。一風変わったこの作品が生まれるまでを聞きました。

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自分の思いをキャラクターに代弁させた作品

——辛酸さんといえば、ずっとコラムやエッセイでご活躍されている印象がありますが、今回は小説ですね。

辛酸なめ子さん(以下、辛酸):はい。きっかけは編集さんからの提案でしたが、小説にしようと決めたのは、心のどこかで、炎上を気にしていた部分があるかもしれません。最近は自分の過激な意見を書くと、すぐ燃えますよね。小説として書けば、キャラクターが代弁してくれると思ったんです。

——なぜ守護霊をテーマにしたのでしょうか。

辛酸:以前、ブログで「わたしにはイルカの守護霊(ヌルラン)がついている」と書いたところ、周囲から「あのイルカの霊どうなったの?」とよく聞かれるようになって。編集さんからも「ヌルランが出てくるミステリー小説を書いてみませんか」とお声がけいただいたので。

——守護霊と言われるとピンとこなかったのですが、セーラームーン世代からすると、黒猫の「ルナ」みたいな付き人的存在なのかな? と思います。

辛酸:近いものはあると思います。主人公の横で、キャラクターがずっと話しかけている感じですね。実際には、スピリチュアル現場などの取材をしながら書き上げました。イルカのスピリットと会話をする“ドルフィニストさん”も実在するんですよ。

——フィクションとノンフィクションがクロスしているんですね。インスタグラマーをとりまく環境や、感情がとてもリアルだったので、どこまでが現実の話なのか、わからなくなりそうでした。

辛酸:大枠のストーリー部分はフィクションですが、お店やサービス名などは実在するものにしました。セリフも、実際に自分が参加したイベントで耳にした会話を使うこともあります。例えば、ファッション系ブランドのパーティーに行くと、おしゃれピープルはだいたい退屈そうな顔をしているんです。その中で、慣れていないのか「こんなところに来られて嬉しい」ってはしゃいでいる人もいて……差を感じるところが興味深いんですよね。

うまくいってない人を主人公にしたい

——ブロガー・レミを主人公にしたのはなにか理由があるんでしょうか。「インスタには乗り遅れてしまった34歳のファッションブロガー」という設定がまたリアルで……。

辛酸:うまくいっていない人を主人公にしたいなと思っていて。今は、SNSインフルエンサーがもてはやされる時代ですよね。彼女たちのようになれず、もんもんとしている人もいます。わたしも仕事していると干されることもあるし……。

——え!? 辛酸さんが干される?? 

辛酸:あります、あります。

——アップダウンはもちろんあると思うのですが、下降線にいる時、自分だけが置いてきぼりで、まわりがキラキラして見える気持ちになることってありますよね。

辛酸:(SNSなどの)タイムラインで競い合っているような感覚になるんですよね。もちろん、みんなも楽しい部分だけをアップしているに過ぎないんですけれども。そんな時に、地味な投稿をしたら、TLを汚してしまうんじゃないかと考えて、ますます億劫になったり……。

——あります。一方で、上昇しているように見えるインスタグラマー・エレナも実はSNSに疲れています。以前から「SNS疲れ」は世間でも話題になっていますよね。

辛酸:疲れるのは、エゴが大きくなっちゃうからだと思うんですよね。投稿を繰り返せば、センスは磨かれるんですけど、そのうちにもっと注目を浴びたいとか、賞賛されたいとか、エゴに振り回されてしまう人が多いのだと感じます。わたしも焦りを抱える主人公と似た気持ちを知っています。仕事で「忘れられないようにしなきゃ」「誰かに選ばれないと」と思っていたんです。

もっと自分で選んでもいいんじゃないか

——ずっと書き続けている辛酸さんでも、そんな風に不安だったんですね。

辛酸:「この人、もう時代に遅れてるな」と思われたら、仕事は減っていきますからね。会社員のように、安定を持っている人が羨ましいこともありますよ。例えば、Google社を訪問した際には、そこで働いてみたいと思ったことがあります。みんな幸せそうに見えたので。

——小説を書き上げて、何か心境の変化や新しく気づいたことはありましたか?

辛酸:守護霊と一緒に主人公が成長していく物語になっているのですが、レミが自分の未来を選ぶシーンを書いた時には、「仕事でも選ばれるのを待っていたけれど、全て自分が選んで良いんじゃないか」と、私も思えました。仕事だけでなく、人生も、こうやって日本に生まれてきた境遇なども、全て、生まれる前から自分で選んできているのではないかと実感したんです。時には試練があるけれど、それも自分が魂的に成長するため、自分で選択してきたことなのかもしれません。

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11月27日(火)公開予定の、2回目は、辛酸さん自身の友達観について伺います。
(取材・文:小沢あや、撮影:大澤妹、撮影協力:HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)

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