この汗、ほてり、だるさは熱中症? 更年期障害?【臨床内科専門医に聞く】

この汗、ほてり、だるさは熱中症? 更年期障害?【臨床内科専門医に聞く】

真夏日、猛暑日、熱帯夜が続き、ニュースや天気予報のたびに「熱中症」への注意が呼びかけられています。日ごろは冷え症なのに汗が急に吹き出す、顔がほてって異様に不快感を覚えるなどの症状がある女性の場合、「これ、熱中症なのか、更年期の症状なのかどっち?」と迷うことがあるでしょう。

そこで、臨床内科専門医で女性の不調外来がある正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長に、熱中症のしくみや症状の特徴、ケアのポイントなどを伺いました。

熱中症は急変で症状の程度が大きい

——女性の更年期の不調として、急な発汗や顔のほてりなどが挙げられますが、これは熱中症の症状でもあると聞きます。見わけ方を教えてください。

正木医師:まず、熱中症とは、「暑さ」によって体に何らかの不調が出る病気の総称です。ヒトの体内では常に熱がつくられています。その熱をいろいろな仕組みで体の外に逃がしながら、ほぼ一定の体温を保っています。

しかし、気温や湿度、運動の影響で、体外に熱を放出できなくなることがあります。このとき、体内で産出する熱と放出する熱のバランスが崩れ、体温の調節ができずに急上昇すると、めまい、立ちくらみ、顔がかーっと熱くなるほてり、異常な発汗などいつもと違う症状が現れます。

一方、更年期障害の症状も、これらに共通していることが多くあります。急な発汗、ホットフラッシュと呼ばれる顔のほてり、めまい、立ちくらみはそれです。

これらの症状が夏の暑い日に現れると、熱中症なのか、更年期障害なのか迷うことがあるでしょう。

熱中症の原因は外気温や湿度の高さですが、更年期の場合は、年齢による女性ホルモンのバランスの乱れによって不調が起こります。最大の違いは、症状の大小や継続時間です。

熱中症の場合は、体温が下がらずに悪化すると、最悪は意識障害や命の危険もあります。更年期が原因の場合は、症状は一般的に数十秒~数分と、比較的早く治まります。夏以外の日常で更年期の不調が現れたときに、その様子や時間の程度を自分で観察しておくと、夏に急変があった場合に、熱中症か更年期障害なのかに気づきやすくなるでしょう。

熱中症は、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病となる

——熱中症でも更年期障害でも、顔のほてりや大量の発汗は特徴的ということですが、どうして急にそういったことになるのでしょうか。

正木医師:ほてりは、体の表面の皮膚の下の血管が広がり、血液流が増えることで生じます。これは、熱を体外に逃がしやすくするしくみのひとつです。汗をかくのも、気化熱を利用して熱を体外に発散させるためであり、その調節には、主に自律神経が担っています。

ただし、気温がとても高い、日差しや照り返しが強い、湿度が高い環境では、自律神経の働きが追いつかずに体温調節ができず、体温が急上昇することがあります。

血流が減少すると血圧が低下し、脳が一時的に酸欠になって、めまいや立ちくらみ、頭痛、けんたい感、吐き気が起こることがあります。これは熱失神と呼ばれます。

——熱中症はひどくなると、歩けなくなると聞きました。

正木医師:主に手足に筋肉痛や筋肉のつり、けいれん、しびれが起こって、足がもつれ、歩けなくなることがあります。これは熱けいれんと呼ばれます。これは更年期障害ではなく、熱中症の症状です。ただ、この段階では必ずしも高体温になるわけではないことも覚えておきましょう。

大量の発汗が続くと、水分とともにミネラルも失われます。とくに奪われやすいのがナトリウム、塩分です。ナトリウムは、筋肉の収縮を調節しているので、塩分の補給が十分でないとつりやけいれんが起こります。

——けんたい感、吐き気、おう吐はどうでしょうか。

正木医師:熱中症の場合、汗をかき続けてそれに見合った水分をとらないと、脱水症状に陥ります。そうすると、全身の激しいけんたい感、吐き気やおう吐、頭痛などが現われることがあります。これは熱疲労と呼ばれ、著しく集中力や判断力の低下がみられることもあります。

さらに体温が上昇しつづけると、これらの体の症状に加えて、意識がもうろうする意識障害やけいれん発作なども現れます。熱中症のうちで最も重症化した熱射病と呼ばれる状態で、この場合は、直ちに救急車を呼んで必要な処置をしなければなりません。放置していると、命にかかわることもあります。

更年期障害の場合、めまいや立ちくらみ、発汗、だるさ、頭痛、肩こり、腰痛などが一年中断続的に慢性的に起こり、熱中症のように体温が上がることによる急な症状とは異なります。

夏にめまいや立ちくらみがしたら、まずは熱中症を疑う

——症状が現れたら、どうすればいいでしょうか。

正木医師:暑い日にめまいや立ちくらみがしたら、いつもの更年期の不調だと思いこまずに、まずは、処置に急を要する熱中症対策を実践しましょう。

体温を下げるためにすぐに涼しい場所や冷房中の屋内へ移ってください。次に、放熱を促すために衣服をゆるめ、靴と靴下を脱ぎましょう。さらに、体温を下げるために、首回り、わきの下、足のつけ根などの太い血管を水や濡れタオル、保冷剤、氷のうなどで冷やしてください。

自分で水が飲める状態であれば、水分を摂取します。スポーツドリンクや経口補水液ならば塩分も補うことができます。塩飴、梅干しなども有用です。めまいがひどい場合は転倒に注意し、できれば寝ころんで足を10センチほど上げます。血液が心臓に戻りやすくなり、血流が改善するからです。しばらく安静に過ごし、様子を見てください。

——熱中症の症状が出たとき、重症かどうかの目安はありますか。

正木医師:自分でコップやペットボトルを手に持って飲むことができて、安静を保っていると落ち着いてくればまず大丈夫でしょう。

コップやボトルを持てないなど自力で水分が摂取できない場合、また、水分を摂取し安静にしても症状がおさまらない場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。

——更年期世代の女性が熱中症に気をつけるコツはありますか。

正木医師:更年期や控えた世代や更年期の女性は、若いときより体温調節が苦手になっていると認識し、とくに、環境の変化と自分の症状の関連に注意を向けましょう。熱中症は、夏への変わり目の暑くなりはじめの時期、前日より3度以上気温が上昇した日、高温の日、熱帯夜に発生が増えると言われています。

「かーっと顔がほてって、汗がダラダラと止とまらない」という不快感、違和感をいつもの更年期の症状とやり過ごさずに、まずは気温、湿度、熱中症指数に注意をしましょう。

——熱中症と更年期障害の違いがよくわかりました。ありがとうございました。

熱中症による急な不調を的確に判断できるように、日ごろから自分の体の変化に向き合い、いざというときにはできるだけ冷静なセルフケアを実践したいものです。

(取材・文 ふくいみちこ・藤井空 / ユンブル)

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