ニコ・ニコルソンさんインタビュー第2回

困ったらLINEでスタンプ! 祖母の介護を通じて縮んだ母との距離

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大好きだった“わたしのお婆ちゃん”が、気がついたらアルツハイマー型認知症になっていた——。

小さいころから可愛がってくれた祖母が認知症になり、知らない人のようになっていく戸惑い、想像以上だった介護の大変さ、介護と仕事の間の葛藤についてつづったニコ・ニコルソンさんのエッセイマンガ『わたしのお婆ちゃん〜認知症の祖母との暮らし〜』(講談社)が6月に発売されました。

家族や身近な人に介護が必要になったらどうすればいいの?

ニコさんに、3回にわたって話を聞きます。第2回は、介護によって変化した母親との関係について伺いました。

【第1回】施設に入れるのは可哀想? “祖母の介護”を通して見えたこと

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「何をやっても後悔は残る」から…

『わたしのお婆ちゃん』より

『わたしのお婆ちゃん』より

——ニコさんは介護のために一時的に実家に帰っていたんですね。どのくらいの間、帰っていたんですか?

ニコ:結局、半年ほど帰っていましたね。

——介護をしながら仕事をするというのはいかがでしたか?

ニコ:祖母の介護をしながら仕事をするのはやっぱり無理だと思いました。祖母が家にいる間は何をするかわからないので、常に見ていないといけないんです。マンガの構想を練ろうと机の前に座っても、祖母の足音がバタバタ聞こえると見にいかなければならないので……。

——私の仕事もPCがあればどこでもできる仕事なので、「いざ」というときは在宅でできるかなと思っていたんですが、難しいですね。会社勤めをしている人はなおさら難しいでしょうね。

ニコ:そうですね。母が会社に行っている間は祖母はデイサービスに行っていたんですが、家にいる間は祖母の面倒を見なければいけない。(祖母は)夜はトイレに起きたり、朝だと思って起きちゃったりもするので、母は夜も眠れない状況でした。仕事と介護の両立は難しいのではないかなと思います。

実家に帰る前は「デイサービスもあるから何とかなるかな?」と思っていたんですが、うちの場合は無理でしたね。

——祖母を施設に預けようと決めて祖母に申し訳なく思う気持ちと、それでも「今の仕事が諦めきれない」という思いの間で葛藤するシーンにとても胸が締めつけられました。きっと私もそうするだろうなと思いました。

『わたしのお婆ちゃん』より

『わたしのお婆ちゃん』より

ニコ:きっと、母が言う通り「何をやっても後悔は残る」んだろうなと思います。自分の仕事を諦めたとしても後悔しただろうし。

今でも「もっとうまくやる方法があるのではないか?」とずっと考えています。でも実際に施設に預けた祖母が笑っている時間が増えているのはマンガにも描いた通りですし、結果としては間違ってなかったと思ってはいるんですが、それでもずっと考え続けるんだろうなと思います。

介護はこれからもずっと続いていくし、マンガとちがって締め切りもないものだから。

母が感じていた“居心地の悪さ”の正体

——マンガでニコさんのお母さんがまわりから「1人でお母さん(祖母)を看ているなんて偉い」「立派」と言われることに「居心地が悪そう」に感じているというシーンがありました。それってどういうことなのかな……と考えています。

『わたしのお婆ちゃん』より

『わたしのお婆ちゃん』より

ニコ:多分、どうしようもなくなっちゃったんでしょうね。言い方は悪いですが、祖母の介護だってやりたいわけではなかったのに、そういう状況になってしまい、(介護を)やらざるを得なかったから続けている。

好きでやっているわけではないのに、勝手に「偉い」「立派だ」「あんたはよくできた人だ」と言われることに抵抗があったのかな、と。聖人のようなすごく優しい人と思われることがちょっと嫌だったのかな、と。

そんなふうに言われたら誰だって、プレッシャーというか、もう逃げ出せなくなっちゃうという状況に追い込まれる気がします。まわりから「偉いね。偉いね」って言われたら、ずっと“いい人”の仮面を被らなければいけないですよね。

——そうですね。気軽に弱音や「助けて」と言えなくなってしまいますね。

ニコ:今回のことで、つくづく介護をしている側の人って「助けて」とか「しんどい」とかなかなか言えないものなんだなと思いました。だから、コミュニケーションをとるのが大事だなって。まずは話を聞いてあげようと思いました。

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——ニコさんの場合でしたらお母さんということですよね?

ニコ:はい。うちの場合、母が口下手というのもあって、もともと母と私は密に、フランクに会話できる感じではなかったんです。お互い照れ屋というのもあって……。

変な話、祖母がこういうことにならなければ、ここまで母と腹を割って深く話すこともなかっただろうなと思いました。

——そうだったんですね。マンガを読んでいても、他人はおろか娘にも頼らないで全部自分でやろうとするお母さんという印象があります。

ニコ:そうなんですよね。頼れないし、頼らない。母はもともと真面目で、長女のせいか責任感も強い。離婚したという負い目もあって「このくらいできなくてどうするの?」「親一人の面倒も見られなくてどうするの?」という気持ちで頑張ってきたんだと思います。

なので、多分こういう人が潰れてしまうんだろうなと思って、親戚と相談して「祖母より母」というスローガンを作りました。

——「祖母より母」! いいスローガンですね。

ニコ:ありがとうございます(笑)。最初に母を何とかしないと祖母を施設に入れることもできない。まずは母を説得しないと何も前に進まなかったというのもあって。母のほうがよっぽど“厄介”でしたね(笑)。

——それでお母さんとコミュニケーションをとるようになった?

ニコ:前よりは腹を割って話せるようにはなりましたね。そうしたら、今まではあまり自分のことを相談する人ではなかったんですが、「お正月は婆を実家に戻してあげたいんだけれど、一人は無理だから帰って来てくれない?」と言うようになったんです。

——すごい変化ですね。

困ったらLINEのスタンプ

ニコ:あと、強制的に親戚のLINEグループを作りました。電話で言えないなら、LINEで言ってもらおうと。そういうことは全然しない家族だったんですけれど、強制的に作りました。スタンプ一つでもいいから「ヘルプ!」とか「救援求む」のようなスタンプを送って、と。助けを求めやすい環境を整えるようにしたら、ちょいちょい言ってくれるようになりましたね。

——今はそういうツールがたくさんあるのだから使わない手はないですし、若い世代の本領発揮ですよね。

ニコ:ツールを使いこなすのは大事ですね。母はガラケーだったのでこの機会にスマートフォンに変えました。スマホだとテレビ電話も使えるので。母は説明が下手なので、電話をしても全然元気じゃなくても「元気だよ」で済ましちゃう(笑)。でも、FaceTimeであれば「ちょっと婆の顔を見せて」と言うと、こちらも状況が見えやすくなるので、想像以上に便利でした。

——おおー! FaceTimeってこんなところで使えるんですね。

ニコ:便利なツールは私たちが教えてあげればいいと思います。最近のものは感覚的に使えるツールも多いので年配の方でも扱いやすいのではないかと。

——「介護」と言うと問題が大きすぎて、自分にできることってあるのかな? と思っていたんですが、自分たちにもできることっていろいろあるんですね。

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※次回は7月27日(金)掲載です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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