ふたりで妊活を始めようvol.2

「まわりはドン引きでした」生理予測アプリのチームに配属された男性が驚いたこと

「まわりはドン引きでした」生理予測アプリのチームに配属された男性が驚いたこと
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性の悩みについて、女性は女性で、男性は男性で解決すべき、という考えはいまだ根強いもの。それは妊活や不妊治療に取り組むときも同じ。女性ばかり治療を頑張って、なかなか妊娠できないまま、お金も時間も、気持ちもすり減ってしまうというケースは少なくありません。

「不妊の原因の約半分は男性にあるけれど、自分ごととして捉えている男性は少ないんです」と話すのは、リクルートライフスタイルで精子のセルフチェックができる「Seem(シーム)」を立ち上げた入澤諒(いりさわ・りょう)さん。

男女が協力して妊活に取り組むには何が必要? 全3回のインタビューを通じて、入澤さんと一緒に考えていきます。2回目となる今回は、入澤さんがヘルスケアサービスに携わるようになったきっかけについてお聞きしました。

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【第1回】ふたり妊活で気持ちもお金もすり減らない

ドン引きされた新卒時代

——入澤さんは、もともと生理予測アプリ「ルナルナ」の事業部にいらっしゃったんですよね? 女性の身体について、そのとき初めて知ったことも多かったのでは?

入澤諒さん(以下、入澤):はい。ルナルナの会社には新卒入社したのですが、動機は「手のひらサイズのアプリで人の暮らしや社会を変えられるかもしれない」ということにワクワクしたからでした。

けれど、配属当時、男性は私だけ。周囲からは“ドン引き”されていましたね。熱意はあるけど、生理の詳しいメカニズムとか、基礎体温がどう変化するとか、そもそも何のために生理があるのかというのを、何も知らなかったんですよ。男性ってたぶん、生理についてほとんど知識のない人が多いと思います。ホルモンバランスの変化によって、気持ちに波があるというのもそこで初めて知りました。

——「PMSって何だ?」みたいな。

入澤:そうそう(笑)。どんなバイオリズムでイライラする/しないが分かれるのか、その理由が全くわからなかったんですけど「女性ホルモンのせいなのか!」とかっていう発見がたくさんありました。

男性だけど、毎日基礎体温を測ってみた

——男性が1人だけという環境で、苦労したことはありましたか?

入澤:やはり、ユーザー体験ができないので、そこは苦労しましたね。私には生理がこないので、想像するしかない。なるべく女性と同じ体験をしようと思って、1ヵ月間、基礎体温を測ったこともあります。起き抜けに測って入力するのに最適なユーザーインターフェースを考えたときに、実際に測らなければわからないと思ったので。

——どうでした?

入澤:これは大変だと痛感しました。毎朝目が覚めてすぐに、体温が上がらないようにそーっと基礎体温計手にして測る、みたいな……。私は男性なので、基礎体温の変化は当然なく「温かくして寝たら体温が高い」くらいの発見しかなかったんですけどね(苦笑)。それでもこんなに面倒なんだなとわかったのはいい体験でした。

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ヘルスケアサービスのユーザーは「健康オタク」が多い

——そこから、リクルートライフスタイルに転職したのはなぜでしょう?

入澤:文化を変えたいなと思ったんです。前職ではルナルナの事業部に2年半いて、そのあと1年間、遺伝子検査サービス事業に携わりました。社会人になってからずっと、ヘルスケア系のビジネスに関わってきたのですが、あるときから壁を感じるようになったんです。

ヘルスケア系のアプリやツールは世の中にたくさんあるのですが、ユーザーは「健康オタク」が多いんです。食事に気を遣ったり、ジムに行ったり、健康意識の高い人がさらに上を目指してサービスを使うことが多くて。遺伝子検査のサービスをローンチしたときも、使ってくれた人は健康へ感度が高い人ばかり。私としてはもっと普通の日常の中で使ってもらいたいと思っていたのですが……。

——ターゲットとニーズが合っていない?

入澤:そうなんです。私たちは、不健康になる前に意識を変えてほしくてヘルスケアのサービスを開発しているけど、いざ世の中に出してみると、健康意識が低い人には届かないんですよね。

——なるほど。

入澤:その課題をどうにかしたいと思っていたときに、リクルートから声をかけてもらったんです。リクルートは、就活とか結婚とか、さまざまなライフステージにおいて、新しい文化をつくってきた会社というイメージがありました。ヘルスケアの領域でも新しい文化をつくれるんじゃないかという期待があって、転職を決めたんです。

Seemはきっと必要とされる

——リクルートには、Seemを作りたいという企画を持って入社したんですか?

入澤:いえ、案は持っていましたが、会社へのプレゼンテーションはしていませんでした。Seemを立ち上げる前に、たまたま上司と飲みに行く機会があって。「何か新しい事業をやろうよ」と上司に言われて、「スマホで精子チェックができたらどうですかね?」みたいな話をポロッとしたんですよ。

そうしたら上司が、妊活中に病院で検査をしたときのことを話してくれたんです。雰囲気は悪いし、みじめな気持ちになったって。「自宅でスマホでできるなら絶対やるよ」と言ってくれて、ターゲットとニーズにズレがないと思い、すぐに開発に着手しました。

——開発にあたってハードルはありましたか?

入澤:まず社内の事情として、リクルートではこれまでものづくりをしたことがないということがありました。イメージを形にするにあたって、社内にリソースもノウハウも全くなかったんです。

——どうやって解決していったんですか?

入澤:外部の方々の知恵をかりました。メーカーや、画像解析サービスを提供している企業、病院の先生などにお会いしてお話を伺いました。「こういうサービスを作ろうと思っているんだけど、どう思いますか?」って。

賛否はどちらもあって、医師の中には「こんなもの作るな」と言う先生もいましたね。

医者に「いい加減なことをするな」と言われて

——「こんなもの」?

入澤:医療についてよく知らない企業がいい加減なものを出せば、患者さんに誤解を与えることになりかねない。そういった観点から「いい加減なことはするな」っていうお話をいただいたんです。

——逆に「それはいいね」って言ってくださったお医者さんもいるんですよね? 

入澤:はい。男性が病院に来ないのを課題に感じている先生は多く、そういう先生たちは「いいね」と評価してくださいました。

というのも、女性から治療を始めて、男性が後からやってきて、男性に原因が見つかって、これまでの治療が不要だったというケースを多く見ているんですね。自宅でSeemを使った後なら男性が病院に行きやすそうだということで、評価してくださいました。

——男性の妊活に対する意識が変われば、お医者さんにとってもメリットがありますもんね。

入澤:そうなんです。もちろん、いい加減なサービスにしないというのは、先生に言われる前から決めていました。しっかり臨床試験もしましたし、関係省庁に行って問題がないかどうか確認したりもしました。だから「作るな」とおっしゃった先生にも、ちゃんとどういったサービスなのかを改めて説明しに行きました。

今はその先生も応援してくれています。先生のところに取材が来たときに、Seemを紹介してくださることもあるくらいです。

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気軽な感覚で使ってほしい

——それは嬉しいですね。ほかに何か開発で気になったことはありますか?

入澤:開発当初から、Seemがユーザーのデメリットになっちゃいけないと思っていました。このサービスの場合、具体的なデメリットは、受診の妨げになってしまうこと。Seemを使うことで「病院に行かなくていいんだ」と思われてしまうと良くないですよね。

なので、あくまで簡易チェックであるということは、今も繰り返し伝えています。「妊活がうまくいかなければ、絶対に一緒に病院に行くようにしてください」というコミュニケーションは取り続けていますね。

——販路を延ばすための工夫はされましたか?

入澤:そうですね。いいものを作っているから届くだろうというのは怠慢だなと思うので、手にとってもらいやすいカテゴリーの商品にするように意識しました。。名前も「◯◯チェッカー」とか「簡易検査◯◯」とかだったら、絶対に購入のハードルが高くなるのでカジュアルな感じにしました。

誰でも手軽に使えるサービスにできて、初めて裾野が広がります。だから購買層を意識したPRはすごく大切だと思います。「ちょっと見てみようかな」くらいの気軽な感覚で手にとってほしいと思います。

(取材・文:東谷好依、写真:大澤妹)

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