『マネーの代理人たち』インタビュー第1回

「ちょっと苦手」に手を出してみる。37歳で金融に転身した元フジアナの仕事論

「ちょっと苦手」に手を出してみる。37歳で金融に転身した元フジアナの仕事論

元フジテレビのアナウンサーで現在は経済ジャーナリストとして活躍中の小出・フィッシャー・美奈さん(58)。

米国の投資運用会社で働いていた経験をもとに、投資業界で働く人々の実像に迫った『マネーの代理人たち〜ウォール街から見た日本株〜』(ディスカヴァー携書)を上梓しました。

小出さんは新卒でフジテレビに入社。ニュース番組のキャスターを務めたのちに記者職に転向し、外信デスクなどを経て37歳のときにフジテレビを退社。MBA留学後、投資業界に転職して米国でアナリストやファンドマネジャーとして活躍し、現在は経済ジャーナリストという“異色の”経歴の持ち主です。

「還暦を前にこれまでのキャリアを振り返ってみて、私でも何か社会や女性のお役に立つことがあれば」という思いから本書の執筆を決意したという小出さん。これまでのキャリアを振り返りながら、働いていくなかでぶつかった壁や葛藤、迷いなどお話を聞きました。

小出・フィッシャー・美奈さん

小出・フィッシャー・美奈さん

人には2通りのタイプがある

--『マネーの代理人たち』を興味深く拝読しました。本書を書いたきっかけを教えてください。

小出・フィッシャー・美奈さん(以下、小出):若いころは自分の生活で手一杯。明日どうやって1日をうまく終わらせるか? ということで手一杯だと思うんです。

私はもうすぐ還暦を迎えるんですが、ずっと走ってきて立ち止まる地点にきたというか、走っていると視野が狭くなりますけれど、立ち止まると少し(視野が)広がる。そんな場所ににようやくきたかなあと思ったんです。

それで、私でも何か社会のお役に立てることはないだろうか、これまでの自分の体験の中から、何か働く女性や若い方々の参考にしていただけることはないだろうか、という気持ちで執筆しました。

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--小出さんは1982年にフジテレビに入社されたということですが、ウートピの読者はちょうどそのころかそのあとに生まれた世代なのかなあと。小出さんの番組を見ながら育った世代とも言えると思うのですが、ぜひ働く女性の先輩としてのお話を聞きたいなと思いました。

小出:私のキャリアは振り返るとアナウンサー、政治記者、アナリスト、ファンドマネージャーとかなり紆余曲折してまして……。

--その紆余曲折の部分を聞きたいです。

小出:人には2通りのタイプがあると思うんです。一つは「これが自分の道」と決めて、そこにまっしぐらに飛び込んでいって、何十年も研鑚を積んでその道の一流になる人。イチロー選手みたいなタイプですよね。世の中で大成される方ってそういうタイプなんじゃないかなと思うんですよ。

で、もう一つのタイプっていうのは、いろいろなことに興味を覚えてしまって、あれもこれもと手を出すタイプ。私は完全に後者かなと。

--なるほど。

小出:でも、今までのキャリアを振り返ってみて、「後悔しているか?」と問われると意外にそうでもない。もちろん、「この道で一流になりました!」という人を見ると、羨望感はあります。それだけ時間をつぎ込んで研鑚を積んでこられた本物の方々ですよね。

私はそうはなれないんだけれど、では「そうなりたいか?」というと、私はやっぱりそういうのには向いてないんだなってつくづく思うんです。

「なぜか?」と言うと、やっぱり好奇心が強いから。そうやって、あっちにぶつかり、こっちで転び、そっちで迷い、みたいなジグザグ走行のキャリアだったんですけれど、気が付いたらこうした体験のおかげで本が書けました。

--そういう迷いながらもキャリアを積んでこられた”先輩”の話を伺いたいんです! 小出さんのころと比べれば、今は働く女性も増えて働きやすい環境になったかもしれませんが、それでも働いていくなかでぶつかる壁や葛藤は共通していると思うんです。小出さんが何を考え、何で迷い、どう壁を乗り越えてきたのかを伺うことで、働く女性のヒントになればいいなあと思っています。

小出:ありがとうございます。迷った話をしたらキリがないですよ!(笑)

「ちょっと苦手」な分野に興味が惹かれる

小出:でもね、これも2通りの人がいると思うんですけれど、得意分野に最初からいく人って多いじゃないですか。でも私は好奇心が強いというのもあって、ちょっと苦手なところに興味を惹かれるタイプなんです。

--ちょっと苦手なところ?

小出:実は人前で喋るのはすごく緊張するのでもともと苦手だったんです。でもなぜか興味を惹かれてアナウンサーになった。その後は記者職で政治経済部というところに配属されて政治経済ニュースの担当になったんですが、実は高校のときは嫌いな授業の筆頭が政治経済だった。

--えー、意外です。

小出:もう一つの極めつけは、数学もダメだった。子どものときから本を読むのが好きだったんですけれど、理数系がダメ。なのに金融に行ってしまい、気が付けばエクセルに向かって数字と格闘する毎日。そう考えると、私のキャリアは全部苦手分野を歩いてきた感じなんです。

でも考えてみたら、「絶対にイヤ!」という、本当に嫌いな分野なら最初からタッチしないと思うんですが、「ちょっと苦手かな」というくらいの時は本当は興味を惹かれている場合が多いんじゃないか? とも思うんです。

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--好きと嫌いは「関心を持っている」という意味では一緒、ということですかね?

小出:そうです、そうです。恋愛でもそういうことないですか?

--本当に関心がない相手だったらLINEのブロックさえしない。ブロックするってことはちょっとは気にしていることなのかな? と思ったことはあります。

小出:そうそう、「ちょっと苦手かな」というのは、実は意識しているから、相手を良く観察するようになるんですよね。そうすると、堅物だと思っていたら、実はユーモアたっぷりの面白い人だったとか、軽薄で薄っぺらい人だと思っていたら、実は深みがある人だったとか、人間でもそういうのあるじゃないですか。

仕事もそれと同じで、取っつきにくいと思っていた分野でも調べてみたら「こんな面白いことあったんだ!」と発見があって、だんだん引きずり込まれていく。

「私の道はこれです!」のようなものはないんですが、逆に言えばそのおかげで自分の世界が広がって、いろいろなことを学ばせていただいたなあと感謝をしているんです。

原動力は「好奇心」

--いくつになっても新しい発見があるというのは自分も楽しいし、素敵だなあと思います。小出さんは子どものころから好奇心が強かったんですか?

小出:大阪の郊外のニュータウンで育ったんですが、当時はまだ竹藪を切り開いて人工的に作られたばかりの街で、整然としているんだけれど、雑多なものがないというか、好奇心の強い子どもにはちょっと退屈なところがあったんです。

そのニュータウンで私が10歳のときに大阪万博が開かれ、「月の石」なんかと一緒に、きらびやかな民族衣装を着た世界各国のコンパニオンさんたちがたくさんやって来たんです。それがとても刺激的で、「大人になったらいろいろな国を見てみたいな。もっと混沌(カオス)とした広い世界も見てみたい」とそのときに漠然と思ったんです。

まだ10歳ですから、何をやりたいっていうカチッとしたものはなかったんですが、何かしら外に行って広い世界を見たいなっていうのは、子供心にあったんですよ。

なので、高校生くらいになると、何となくマスコミに行きたいと思うようになりました。きちんとした人生設計は何もなかったんですけど、好奇心だけは先行していましたね。

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カオスの中に身を置きたい

--それで上智大学のイスパニア語学科に進学されたんですね。

小出:そうですね。英語の次に多くの国で話されている言葉って何語だろうと調べたらフランス語とスペイン語だった。でもスペイン語の言葉の響きのほうが日本語に近いんです。

それから、スペインは先進国ですけど、スペイン語を話している人々が多いのが中南米という部分に興味を惹かれて。「先進国じゃないカオスなところに行ってみたいなあ」っていう。

--それも「好奇心」ですね。

小出:はい。政府の交換留学制度で1年間、メキシコに留学しました。そのときの体験が先の仕事に結びついたのかな? と思うのは、メキシコでは停電や断水もしょっちゅうでした。

シャワーの水が止まって、髪を洗っているときに蛇口からピタッと一滴も出てこなくなる。電話や交通や送金など、物事の一つ一つがいちいち上手くいかない。システムが違うと、こんなにも人の住む環境も違ってくるんだなあと思いました。

それまで便利な日本の暮らししか知らない20代ですから、すごく新鮮で。やっぱり外の世界って面白いと実感して、より一層、マスコミに行って広い世界を見たい、ときたいと思ったんです。

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--「カオス」というのも小出さんの本に出てくるキーワードですね、常にカオスの中に身を置きたいということなのでしょうか。

小出:あはは。なにも「カオス」自体を求めているわけではないんですが(笑)。でも、混沌とした状況の中にある人々のたくましさとか、カオスの中の面白さはこのときに体験しましたね。

--安全な道と面白そうだけれど危険な道があったら……。

小出:それもね、2通りあると思うんです。安全志向で、石橋叩いて渡っていくほうが心地よい人と、そうではなくて人生1回きりなんだからちょっと危ないかもしれないけど、この橋は面白そう、道も3本くらいに分かれていて面白そうだから行っちゃおうか! っていう人の2通りありますよね。私は完全に後者ですね(笑)。

--それで「楽しくなければテレビじゃない」のフジテレビに入社するんですね。次回はフジテレビ時代のお話を聞かせてください。

※次回は5月21日(月)公開です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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