女の子を前に名言を連発したり「素の俺を見てほしい」と迫ったりしてしまう、痛々しくもどこか滑稽な“おじさん”という存在。
そんなおじさんのエピーソードを軽妙に、鋭く綴った鈴木涼美さんのエッセイ『おじさんメモリアル』(扶桑社)が9月に発売されました。
「◯◯女子」のようにこれまでは何かと女性が取り上げられたり、話題の中心になったりすることが多かったけれど、これからは「おじさん」が主役……?
【1回目】「上司も夜は縛られているかも」おじさんも“いろいろな顔”がある
【2回目】「女の武器」は使えない? 女子が知っておきたいおじさんとの付き合い方
「日経記者はAV女優」がニュースになる理由
——1回目で「おじさんも女子もいろいろな顔がある」っていう話を伺いましたが、鈴木さんは肩書きをたくさんお持ちですよね。
「慶応大卒」「東大大学院卒」「元日経新聞記者」「元AV女優」「元キャバ嬢」「作家」……。あえていろいろな顔を持ってそれを楽しんでいるのかな、と思ったんですがいかがですか?
鈴木:そうですね、一人の人生を生きるだけじゃつまんない、というか、一つの道なんて選べない、という気持ちが強かったです。だって、どれも魅力的じゃないですか。
男の人に色目を使って万札をもらってキレイな服を着るのも、ものすごく尊敬できる人たちと一つの仕事をやり遂げるのも。セクシーアイコンになるのも東大に通うのも。
一つなんて選べないし、選ぶ必要もない、オンナの生き方は無数にあるけど、その中で一つだけを選択しなくてはいけないなんてもったいないと思っていました。
——特におじさんは女性を「マリアか、娼婦か」のように分けたがりますよね。
鈴木:おじさんは女性には3種類いると思っているから。会社の同僚、キャバ嬢、奥さんの3種類。
隣にいる同僚は、昨日行ったキャバクラの女の子だったのかもしれない……なんて想像もしないし、同一人物だということをわかっていない人が多いですね。
おじさんがホステスに見せる顔と同僚に見せる顔が違うのは、女性は違うと思っているから。キャバクラに来るお客さんは、私が隣で机を並べているかもなんて想像しないし、隣で机を並べているおじさんは私がお股を開いてカメラの前にいるなんて想像しない。だから文春みたいな記事が出るんですよね。
——「日経記者はAV女優だった!」って。おじさんや世間にとってはニュースなんですよね。
鈴木:さすがに記者とAV女優は両方結構忙しいので、時期は被ってなかったですよ(笑)。でも、おじさん的に衝撃なのは、やっぱり昼の女と夜の女は違う種類のものって思っているからですよね。キャバ嬢に求めるものと奥さんに求めるものは違う。
女の人は、彼氏やホストに求めるものってそんなに違わないと思うんですけれど。ホステスにはヤリマンであってほしいとか、会社の女の子には真面目であってほしいとか、奥さんには貞淑であってほしいとか……。だからこそ、ギャップ萌えも使えるっちゃ使えるんですけど(笑)。
——「秘書が痴女!」みたいな。
鈴木:そうそう(笑)。でも、人間の複雑さというか、お互いが本当にわかりあうためには同一人物だよっていうメッセージは大事かなと思いますね。
いくつも顔があってもいい
——人間の複雑さかあ……。女性自身も「一貫していないと」って思っちゃっている部分はあるのかも。例えば「私は自立した女だから乱れちゃいけない」とか。
鈴木:わかりますよ。でも、いくつ顔があってもいいじゃないですか。それは矛盾しててもいいじゃないですか。「自立した女性」も、うまくやっている人はどこかで男の言うこと聞いているかもしれない。フェミ寄りの意見を持っている研究者が家では三つ指ついていてもいいじゃないですか。それはそれでアリだなって。
——あー、矛盾していてもいいのか。
鈴木:はい。「ザ・マッチョ」の王みたいなトランプ大統領だって家では優しそう。リベラルな人のほうが家では怖そうじゃないですか?(笑)。
——わかるー!(笑)
鈴木:みんなそういうところはあると思うんですよ。おじさんも女子も。
——なんか気がラクになりました。
「自分はこういう人間」って決めたくない
——そんな「聖」と「俗」の二つの世界を自由に渡り歩く鈴木さんを羨ましいなと思う女性もたくさんいると思います。
私は鈴木さんと同じ世代ですが、地方の冴えない高校生だったので、90年代の渋谷で女子高生を謳歌して面白いそうなことは何でもやっていた鈴木さんのことを羨ましいなーと思いました。
鈴木:私はその頃は『egg』の表紙の子が羨ましかったんです。確かに、渋谷にいたから日本で見たら女子高生の中心に見えたけれど、そこにもヒエラルキーがあった。
中学は中高一貫の鎌倉の女子校に通っていたんですが、そこをやめて渋谷に近い高校に行ったんです。理由は「女子高生ブームをできれば真ん中に近いところで享受したかったから」。
これをやらないなんて死ぬよりやだって思ってた。鎌倉の女子校を卒業して大学生になっても就職してからも遊べるけれど、今やらないと意味がないって思っていたんです。
——すごい感性があったんですね。安室奈美恵さんが引退を発表しましたが、改めて振り返ると、アムラーに象徴される90年代の渋谷や女子高生ブームは社会現象でした。
鈴木:当時の渋谷はそのくらいの吸引力があったし、私がどうこうっていうよりもただただ渋谷の魅力に魅せられていたんです。
——でも、その行動力はすごいと思います。
鈴木:諦めが悪いんだと思います。体型や顔のタイプも安室ちゃんと全然違うし、違う方向を目指したほうがいいって早めに気づいた方がいいのに。
無理やりメッシュを入れていた。体型もグラマーでぽっちゃりで安室ちゃんのファッションも全然似合っていなかったのに。
でも、「自分がこういう人間なんだ」って早めに決めたくなかった。こういう面もあるし、ああいう面もあるしって。
そのうち似合う服を着ざるをえないようになるから今は好きな服を着ようって。現実を見過ぎない部分があるんですよね。例えば、指が開かないからピアニストを諦めるってことをしないというか。「でもやれるかも」って思っている。でも、そう思ってたほうが道を開きやすいのかもしれない。
——だから鈴木さんに「自由」を感じるのかもしれないですね。
鈴木:我慢できないんですよ。多くの人がAV女優になろうと思っても踏みとどまるのは将来困るから、とか世間体とかですよね。それはもちろん賢明な考え方だし、それが悪いという意味ではないんですが、若いうちからあまりにも賢すぎると「今」を謳歌できない。
私も女子高生の頃から「日サロに行ったら肌ボロボロになるよ」って言われていたんですが、30の肌なんてどうでもよかった。だって、「今」黒くないといけなかったから。
そのせいで、今スキンケアにお金かかっていますけれど、お金は稼げばいいわけだから。10年後よりも来年のことを考えているのが私ですね。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)