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東京は「何者でなくても生きていられる場所」地方出身女子が“進化系”シェアハウスを選んだのは…

東京は「何者でなくても生きていられる場所」地方出身女子が“進化系”シェアハウスを選んだのは…
※写真はイメージです

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シェアハウスの価値観を変える“進化系”が登場

大ヒットしたリアリティ番組「テラスハウス」の影響もあり、この5年ほどの間に、他人同士が一緒に暮らすシェアハウスが一般的になってきています。

東京都内には約2000軒ものシェアハウスがあり、女性がひとり暮らしを始めるときも、住まいの選択肢に入ってくるように。しかし、ともすれば、「プライバシーがなく、人間関係がわずらわしそう」、「建物が古い、ボロい」というイメージから敬遠されることもあるようです。

しかし、今どきのシェアハウスは、おしゃれなカフェが併設されていたり、ホテルのような清掃サービスがあったりと、ハイスペックな物件が多くなってきています。そこでは、シェアハウスと同じように住人の交流を促す仕組みがありつつ、ひとりひとりのプライバシーも確保されるそう。

つまり、誰かと一緒に過ごしたいときは快適な共用スペースで同居人たちとコミュニケーションを取れ、ひとりになりたいときは鍵のかかるワンルームタイプの自室で過ごせるというものです。そう聞くと、「それなら暮らしてみてもいいかも」と思う人も多いのではないでしょうか。

そこで、実際にそんな“進化系”シェアハウスで暮らしている女性に話をうかがいました。

家事に時間をとられるなら、結婚もしたくない

都内でIT系の会社に勤めるマユコさん、33歳。4年前に、シェアハウスの“進化形”とも言える共同賃貸住宅に引っ越し、東京23区内で暮らしています。

「ここに入ろうと思ったのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。あのとき、東京都内でひとり暮らしをしていて、アパートやマンションの隣人をまったく知らないという現状は、ちょっと怖いなと思ったんです。やっぱりいざというときは、近くに住んでいる人と協力できたほうがいいですから。

それに、地震がきたら壊れてしまうようなアパートに何万円も払うぐらいなら、生活する上でのメリットが欲しかった。以前、ヨーロッパで短期間生活した時に、歴史的価値のある物件に住めて、これはメリットがあるなと感じたんです。だから、日本でもメリットを得ながら生活をしたかったんですね」

マユコさんが暮らす物件は、鉄筋の比較的ハイグレードな住まいで、個人の部屋には鍵がかかり、男女どちらでも入居可能。共有のラウンジ・キッチンは、カフェのようにおしゃれな雰囲気です。

「それにいろんな人と接してみたかったんです。情報発信の仕事をしているので、さまざまなジャンルの人から情報を得たかった。実際に、今住んでいるところでは友達を連れてくるのもOKなので、同居人の友人がアニメ関係の仕事をしていたりして、人脈も広がっています。

もうひとつ、大きいのは家事。今、住んでいるところでは、共有のラウンジ、キッチン、バス、ランドリーに清掃サービスが入るので、自分で掃除しなくていい。ちょうど30歳になるころで、仕事が忙しくなってきたところだったので、家事労働に時間を割くことのデメリットから解放されて、助かりました。

疲れてクタクタになって帰ってきてから掃除したり、週に1度の休みが家事で潰れちゃったりするのって嫌じゃないですか。私は、家事に時間をとられるなら結婚もしたくない、と思っているぐらいですから」

「友達」という肩書きにはめられない関係

東京の大学に入るまで、マユコさんはリベラルな父と宗教にはまっている母親の下で育ったそう。父は放任主義でしたが、母は娘に依存的で、実家にはあまり帰りたいとは思わないといいます。

「実家も田舎も好きじゃないんです。まだまだ男女格差が強い長野にいると『結婚しろ』とうるさく言われるけれど、『母親』『妻』などの役割・肩書きに閉じ込められることが嫌だったし、とても窮屈でした。その点、東京は、そういった肩書きがなくても、何者でなくても生きていられる場所。みんなが干渉しあわず、どこかドライですよね。

シェアハウスも、TVの『テラスハウス』などのイメージか、べったりした人間関係とかリア充的な交友があると思われがちだけど、逆なんです。ずっと一緒にいなければいけないからか、みんな一線を引いている。「友達」という肩書きにはめられることもないんです」

もちろん、他人同士が一緒に暮らすというシステムゆえに、入居者全員が仲良しというわけにはいかないそう。

「たまに、濃密に人間関係を求める人が入ってきます。以前、私と同年代の女性が入ってきたことがあるんですが、彼女は同居人に説教したり、良かれと思って余計なお世話をしたりしていたけど、みんな引いていました。その人は結局、3ヶ月で退居していきました。そういう他人に対する距離感が測れないというか、気遣いのできない人には向いてないですね。

シェアハウスで暮らしていると、知人からはよく『寂しいの?』とか『お金ないの?』とか聞かれるけど、それがすごく嫌。私の入っているところは、家賃もひとり暮らしと変わらないですし、肩を寄せ合って暮らすというイメージとは正反対だと思うんです。

私は、ひとり暮らしと比べてメリットがあると思ったから合理的な選択をしただけで、今、同じところで仲良くしている人たちもそうだと思います。それがドライな人間関係でやっていけている理由かもしれませんね」

マユコさんにとっては、自分の考えに合っていて、ストレスが少ない今の暮らし。その言葉からは、消去法というよりは、むしろ積極的に新しくて自由なライフスタイルを選択したという自信が感じられます。

「できることなら50代、60代になっても、今のような共同住宅に住んでいたいですね。今後、結婚しない人はますます増えていくでしょうし、需要はあるので、そのうち高齢者むけのシェアハウスもできると思うんです。恋人と一緒に入ってもいいですし、これまでの家族の枠にとらわれない暮らし方をしていきたいと思っています」

(小田慶子)

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東京は「何者でなくても生きていられる場所」地方出身女子が“進化系”シェアハウスを選んだのは…

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