名曲『魅せられて』でおなじみ、60年以上にわたりアジア各国で活躍してきたジュディ・オングさん。その姿は世代を超えて多くの人々の記憶に刻まれています。大阪では2025年万博が開催中ですが、55年前の1970年大阪万博を背景にしたジュディさん主演のミュージカル&アクション作『万博追跡』(2Kレストア版)が、この夏の大阪アジアン映画祭(8月29日~9月7日)の開幕作として上映されます。60年以上にわたり、アジアの国々をまたにかけて活躍し、さまざまな文化や芸術に触れてきたジュディさんにお話を伺いました。
「会場にお花が咲いたよう」ジュディ・オングが見た55年前の万博
――ジュディ・オングさんの主演映画『万博追跡』(2Kレストア版)が、大阪アジアン映画祭(8月29日~9月7日)の開幕作品として上映されることになりました。前回の大阪万博といえば、今から55年前、20歳の時の作品ですね。
ジュディ・オングさん(以下、ジュディ):映画祭のオープニング作品に選ばれたというお話をうかがったときに、当時のいろんな場面の記憶がよみがえってきました。55年前と今回、大阪で行われる2つの万博と関わりを持って、この映画が上映されるということは、とてもうれしいですし、大変に光栄なことだと思います。
――『万博追跡』は、大阪万博のコンパニオンになった少女が、かつて母と自分を助けてくれた台湾の恩人を探すため、万博会場を駆け巡るという展開です。55年前の万博の映像を改めて見て、新たな発見や驚いたことはありましたか?
ジュディ:若い(笑)! 20歳で成人になったばかりでしたが、よく頑張っているなと思いました。あらためて気づいたのは、あの頃のファッションは楽しかったですね。女性たちがみんなきれいな色を着ていらっしゃる。黄色とか赤とかグリーンとかターコイズブルーとか、会場にお花が咲いたようできれいでした。歴史は繰り返すと言いますが、ファッションの流行もらせん状のように、少しずつ変わりながら戻ってくる。でも、『万博追跡』に映っていたファッションは、今もそのままでOKかなと思うくらいのおしゃれ感がありました。
当時は高度成長の入り口でしたから、すべてが夢いっぱいで、パビリオンの色がなんときれいだったか……。今回の万博もきれいですけど、当時は会場に入った途端にお花畑にいるみたいな、華やかな色使いでしたね。55年前の万博では、みんな宇宙や近未来の世界を見ていました。一方、今の私たちは生命と地球、自然との調和を考えていかなくてはならないと思います。
来日当時、母から言われたこと
――そうなると色合いもナチュラルになり、アースカラーというか、昔のカラフルな色味とは違ってくるのかもしれませんね。
ジュディ:「太極」の概念で考えると、うんとカラフルで、うんとおしゃれをしたら、今度はだんだんと色のない世界にいって、そしてまた色が欲しくなってくる。ずっと回っていくのです。そういう見方をすると、今は少し色を失っているタイミングかもしれないですよね。
――自分たちを取り巻く世界はどんどん多様でカラフルになっています。最近は中華圏のドラマやK-POPなど、アジアのエンターテインメントを気軽に楽しむ人が増える一方、日本人ファーストのような排他主義的な主張を訴える声も大きくなっています。ジュディさんは長年にわたり中華圏をまたにかけた活動を続けておられますが、こうした日本社会の空気の変化をどう感じていますか?
ジュディ:私が日本に来たのは今から72年前、3歳のときですが、幼い頃から母に常に言われていたのは、「あなたは台湾人を代表しているのだから、あなたが話すこと、あなたの行動を、みんな見ていますからね」ということです。
「靴を脱ぐとき、人の家に上がるとき、そうした際の礼儀にも、それが台湾人のやることだと思われるのだから責任を持ちなさい」と言われました。これは私の骨肉となっています。人間とは鏡みたいなものですから、たとえばこちらが笑顔を見せると、相手からも笑顔が返ってくるように、自分がしたことは、相手もしてくださるんです。その第1球を誰が投げるか、ということだと思います。
餐餐七分飽
事事對人好
為善最快樂
健康活到老
という中国の言葉があります。
2行目の「事事對人好」の意味がすごく深いんですよ。
まず「餐餐七分飽」というのは、「七分目まで食べたら、まず満足しよう」という意味です。たとえば100%の努力をしたプロジェクトがあったけど、自分の期待の70%に達したら、まずはOKという気持ちになろう。そうすると、80%、90%になった時、嬉しいじゃないですか? これは他人に対しても、家族に対しても、自分に対しても同じことで、理想としたものの70%を超えたら、まず満足。これが4行目の「健康活到老」(老いるまで健康で生きる)の実現に大切なことです。
次は「事事對人好」。これは「人に対して好ましくしよう」ということです。「この人のここがイヤ」と思うと、そのイヤな部分しか見えなくなる。鳥の目で見ると、その人にも素晴らしいところはいっぱいあるのだけど、それを見ないのが人間の悪いところ。人の良いところを見て、こちらから良い気を出すと、鏡のように良い気が戻ってくる。どっちが先に投球するかです。
距離はお任せです。相手の隣にくっつきたければそれでもいいし、3メートルくらい離れたところからでも「こんにちは」は言えます。その人の良いところを見て、悪い部分とは付き合わないこと。
そして3行目の「為善最快樂」。これは、いいことをしたときの爽やかな気持ちを意味します。「なんだか、いいことしちゃった」と言う時のあなたは輝いています。こうした気持ちでいることが「健康活到老」(老いるまで健康で生きる)につながります。
中でも、「事事對人好」の考え方で大切なのは、「これもありね」「それもありね」と言える自分になるということ。
私が中国で開いたコンサートに来てくれた日本の女の子から手紙をもらったことがあります。現地の女の子と友達になって、おうちに食事に招かれたそうなのですが、「日本ではお箸を横に置くのが正式ですけど、中国では縦に置くのが正式なんですね」と驚いたというのです。そして、「どちらも合っているんですね」と書かれてありました。この「私は横に置くけれども、縦もありなんだ」と思う心が、「事事對人好」につながる。この気持ちを持つことが、世の中が間違った方向へ進むことを止めることにつながると思います。
――「事事對人好」、つまり人に対して好ましい気を向けるという行動自体にもエネルギーが必要ですし、新しい文化を受け入れたり、何かアクションを起こしたりというのも、意外とエネルギーが必要だと感じます。自分も含め、そういうエネルギーや余裕が足りていない人が増えている気がします。
ジュディ:太陽の下にちょっと出て、ポジティブなエネルギーを得るということは大切ですね。壁に囲まれた小さい世界の中にいるのではなく、出て行って人々や世の中を見ることが大切。風、水、自然、これらを体感するためには、オープンでないといけない。オープンであるとはどういうことかというと、「それもありね、これもありね」と思える心を持って、相手のことを尊敬する、相手の文化を尊敬する。
お互いにそう思っていれば文化交流につながって、たとえば「そこにゴミを捨てるのはダメなんだ」などと分かるわけですよね。(ゴミを捨ててはいけない場所に捨てるのは)分からなくて、していることですから。それを誰が先に気づくかということだと思います。
エンターテインメントの役割
――映画のような芸術やエンターテインメントが、平和や多様な文化の共存、相互理解にどんなふうに貢献できるとお考えですか?
ジュディ:「百聞は一見にしかず」と言いますが、映画や文化は言葉を越えて心に直接届く力があります。文化をもって国境を越えていくことは、とても大切なことです。今回上映される『万博追跡』も、最終的に伝えたいのは平和の大切さ。エンディング曲「邁向世界大同」は父がこの映画のために書いた曲で、みんなが進歩しながら一つのフレンドシップに向かい、地球人として共に生きることを願っています。世の中に絶対というものはない。そう考えると心が楽になり、他者を受け入れる空間が生まれるのです。

映画『万博追跡』メインビジュアル
――ジュディさんはご自身のYouTubeチャンネルで料理やライフスタイルの紹介もされていますね。食養生や薬膳に関心があるので、興味深く拝見しています。残暑厳しいこの時期、体がだるくても手軽に作れるおすすめ料理はありますか?
ジュディ:この時期は、「キュウリと豚肉の炒め物」なんておすすめですね。バラ肉でも、ひき肉でも何でもいいのですが、すでに切ってある豚肉に必ず片栗粉を加えて、それにお醤油をかけるんです。それを手でぐしゃぐしゃっと混ぜて、置いている間にキュウリを切ります。大体1センチぐらいの輪切りでいいですよ。ちょっとカッコよくいきたいときは乱切りね。そしてフライパンに油を敷いて、ちゃんと油に火が通ったら豚肉を入れる。
このときに、すぐにかき回さないこと。その間にお茶を入れたり、ビール1本開けたりしてもかまわない(笑)。お肉の下がカリッとしてきたら、ひっくり返して、その下味がついたお肉の中に切ったキュウリを加えます。そしてお肉と一緒に炒めながら、もう少し醤油を入れたら出来上がり。それをご飯の上に乗せたら、おいしいのなんのって! キュウリは体の熱をとってくれるし、豚肉は熱を足さないうえビタミンDが豊富です。どうぞ、お試しください。
■映画情報
<第21回大阪アジアン映画祭(Osaka Asian Film Festival EXPO 2025 – OAFF 2026)>
会期:2025年8月29日(金)〜9月7日(日)
上映会場:ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館、大阪市中央公会堂
公式ウェブサイト https://oaff.jp
公式Instagram @osakaasianfilmfestival
公式X @oaffpress
『万博追跡』(2K レストア版) 世界初上映 World Premiere
2025 年(オリジナル版:1970 年)/97 分/台湾
原題:萬博追踪(2K 數位修復)/英題:TRACING TO
EXPO ’70 (2K RESTORATION)
監督:リャオ・シャンション (廖祥雄)
出演:ジュディ・オング(J翁倩玉)、フォン・ハイ(馮海)
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