中国映画『来し方 行く末』で描かれる40代からの“静かな再出発” …80年代生まれ、リウ・ジアイン監督に聞く

中国映画『来し方 行く末』で描かれる40代からの“静かな再出発” …80年代生まれ、リウ・ジアイン監督に聞く

中国を代表する3人の監督作品が公開!

そして、今年のGWには世界の映画祭を賑わせてきた中国を代表するベテラン監督3人の新作が立て続けに公開された。奇しくも、それぞれがコロナ禍を境に、過ぎていった1つの時代を記録した作品になっており、それは『来し方 行く末』の主人公が夢を追っていた頃の社会の断片でもある。

「世界の工場」を支えた若者たちの青春…『青春 -苦-』(第2部)  『青春 -帰-』(第3部)

「子供服の街」と呼ばれる浙江省・織里(しょくり)。その縫製工場で働く若い出稼ぎ労働者たちの姿をカメラに収めたドキュメンタリー映画。3部作の第2部・第3部にあたる(1部は2024年日本公開済み)。

第2部『-苦-』では帳簿をなくしたため賃金を支払ってもらえない青年や、社長が全財産を持って逃げた工場の従業員たちの苦境をカメラがとらえる。第3部『-帰-』では旧正月を家族と過ごすため故郷に帰った若者たちの様子と、再び織里に戻り、働ける工場を探す姿などを追う。

© 2023 Gladys Glover – House on Fire – CS Production – ARTE France Cinéma -Les Films Fauves – Volya Films – WANG bing

中国が確かに「世界の工場」だった頃、農村出身の若者たちは安価な働き手として中国経済を底辺で支えてきた。一括りに“労働力”と見なされがちな彼らにも、当然1人1人に顔があり、若者らしい夢や恋を語る時間、悩みや葛藤がある。そんな活き活きとした青春を、カメラはつぶさにとらえる。どうすれば、これほど環境に溶け込んで撮影ができるのか。『鉄西区』『死霊魂』など作品を発表するたびに驚かされるワン・ビン監督の手腕が遺憾なく発揮されている。

撮影期間は2014年から2019年。その後、コロナ禍をはさんで世の中は一変し、出稼ぎ労働者の数も減少。つい最近まで当たり前に見られたのに、いつの間にか過去の1ページになってしまった光景の貴重な記録だ。

作品情報
『青春』第2部、第3部
全国順次公開中
配給:ムヴィオラ
公式サイト:https://moviola.jp/seishun/

パンデミックの混乱をリアルに記録『未完成の映画』

10年前に中断した映画の撮影を再開するため、集まった出演者とスタッフたち。撮影もほぼ終了した2020年1月、新型ウイルスによる感染症の噂が広まり始める。一部の者はホテルが封鎖される前に脱出できたが、主演俳優をはじめ、残された者は武漢に近い町のホテルの部屋に閉じ込められることに。外の世界とのコミュニケーションは、携帯電話の小さな画面越しだけという状況に、彼らは……。

© Essential Films & YingFilms Pte. Ltd.

『スプリング・フィーバー』(2009年)などで知られるロウ・イエ監督によるフェイクドキュメンタリー。監督がこれまでに撮ってきた作品の映像や、パンデミック中に個人が携帯で撮った実際の映像などを織り交ぜた大胆な構成。あくまでフィクションだとすることで、より自由に、かつリアルに、当時の混乱を記録している。

作品情報
『未完成の映画』
全国公開中
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/mikansei/

力強い映像で見せる中国の20年と1人の女性の生き様『新世紀ロマンティクス』

市井の人々の姿を通して中国の社会や時代の変化を切り取ってきたジャ・ジャンクー監督の最新作。21世紀の始まりから20年余り、一貫して公私にわたるパートナーの女優チャオ・タオを撮ってきた監督が、これまでの作品の映像素材を大胆に再構築し、まったく新しい映画として1人の女性の生き様を描き出した。

© 2024 X stream Pictures All rights reserved

チャオ・タオが演じた歴代作品の女性たちは、広い中国を北から南へ、西から東へ、田舎町から都会へと、そのほとんどが男に振り回されて奔走してきた。そんな彼女が故郷の山西省に帰り、コロナ禍の街で1人力強く走り出す。1つの時代の終わりと始まりを感じさせる力強い作品だ。

 

作品情報
『新世紀ロマンティクス』
全国順次公開
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/romantics/

 

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