女優の草笛光子さん(89)によるファッションフォト&エッセイ『草笛光子 90歳のクローゼット』(主婦と生活社)が2月3日に発売されます。
2018年3月に発売され、累計発行部数4万部を突破した『草笛光子のクローゼット』の5年ぶりの続編。「自身のキーカラー・BLUEの着こなし」「お散歩や買い物などTPOに合わせたリアルクローズ」「シニア世代がおしゃれに見えるための6つの鍵」「原節子さん、杉村春子さんほか先輩との思い出を着る」「タンスに眠った服と小物の活用法」など、現在89歳でまさに“人生100年時代のヒロイン”といえる草笛さんのクローゼットをさらに深掘りしています。
同書の発売を記念して、草笛さんのインタビューをお届けします。
【前回は…】髪を染めるのをやめたら自由になった 草笛光子さんに聞く「一番の幸せ」
コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻…5年ぶりの続編を出したきっかけ
——『草笛光子のクローゼット』に続く5年ぶりの続編ですが、もう一度この本を出そうと思った理由は何ですか?
草笛光子さん(以下、草笛):「90歳を前に、もう1度ファッションの本を出しませんか」とお話をいただきました。私はモデルさんではないのであまりうれしくないんです。なんだか照れくさい。前回の『草笛光子のクローゼット』はとても多くの方が手に取ってくださったようでいろいろなところで声をかけていただきました。例えば、お仕事でご一緒した方々に「買いました」「すてきでした」と話しかけていただき、ドラマの打ち合わせでは「(この役は)こんな感じの雰囲気の洋服でお願いします」と本の中の私を指さされました。驚くのは、それが5年たった今も続いているということ。長い時間楽しんでいただける本になっていること、その反響の大きさに今も驚いています。
そして、また出版のお話をいただいた時に「もうお見せできる服はないから」とお答えしたのですが、昨今、突如コロナウイルスが蔓延(まんえん)し始めエンターテインメント業界も大打撃を受けました。そして、ロシアによるウクライナ侵攻も始まり、戦争体験者としては毎日心を痛めていました。今は思いもよらぬことが起こる時代だと痛感したのです。そして、改めて装うことのおもしろさ、楽しさ、うれしさ、何より挑戦を失ってはいけないと。もしかしたら、スタイルが良いわけではない私を見ると、8等身でなくてもこんなふうに着こなせるのだと、皆さん勇気が湧くのかもしれないし、私でお役に立てるなら、と本を出そうと思いました。
——撮影中で思い出に残っているエピソードを教えてください。
草笛:ああでもない、こうでもないと洋服を引っぱり出して、億劫(おっくう)という気持ちと戦いながら、撮影に臨みました。今回は、ボーイフレンド犬のサヴィちゃんに登場してもらいました。サヴィちゃんは、ご近所のゴールデンレトリーバーで行きつけの花屋さんで出会い、遠くからでも私を見つけると尻尾をブンブン振ってうれしそうに歩いてくる姿が、かわいくて仕方がありません。
また、新宿伊勢丹でも撮影させていただきました。私は、洋服より靴が好きなので、ルブタンショップですてきな靴に囲まれて楽しく撮影できました。営業後にお借りしたので、買い物できなかったのが残念。また、前回同様、横浜のニューグランドホテルで撮影させていただきました。特別な撮影スポットをご用意してくださり、雰囲気のある写真が撮れました。ニューグランドホテルにいるだけで心が踊ります。お仕事の後、レストランでドリアをいただくのも定番です。
年を重ねて「たがが外れた」
——最近購入したアイテム(小物でも)があれば教えてください。
草笛:コロナ禍で買い物をすっかりしなくなりました。出かける機会も減ってしまったし、去年は、ほとんど買い物していません。お仕事では相変わらず毎回違った洋服を着て、どう着こなすか戦っていますが、プライベートでは洋服や靴を買う気がなくなって“おしゃれ”から遠のいてしまった気がします。そんな自分は女優としてダメだと思っていますが、「私はわたし」と居直っている自分もいます。年を重ねて、“たがが外れた”んです、人からどう見られたいとか、これじゃなきゃダメとか、そういったしがらみから解放されて、「いいじゃないこれで、なんか文句ある?」って。そのほうが楽ですから。
——どんな衣装が来ても「エイや」っと着ちゃう、試してみる、このパワーは女優として自然に培われたのでしょうか?
草笛:性分なのかもしれませんが、台本を読むように洋服を見ています。どう演じるか、勝負なんです。地味なものを艶(あで)やかにしたくなるんですが、そんな術(すべ)は作らなくとも出せる人になりたいといつも思っています。
——ちゃめっ気たっぷりの草笛さん。元気で楽しく生きるコツはどこにありますか?
草笛:みなさんから、「お元気ですね」を声をかけていただきますが、私も毎日、毎時、億劫と戦っていますから、元気で楽しく生きるコツがあるなら教えてもらいたいくらいです。
草笛さんが大事にしている母との約束
——座右の銘は?
草笛:「週刊文春」の連載タイトルにもなっていますが、「きれいに生きましょうね」という母との約束。母がマネージャーだった時代の芸能界はいろいろとありましたから、決して外見のことでなく、生きざまのことなのですが今でもずっと大切にしています。
もう一つ、「一番きれいなのは、女性の裸よ」これも母の言葉です。「洋服が美しいのではなくて、中身が美しいことが大切」だと伝えたかったのでしょう。着飾るよりも土台が重要だと、ズバッと教えてくれる母でした。
——人生100年時代、89歳の今、この先をどう生きていこう、という目標はありますか?
草笛:女優としてまだまだいい仕事がしたいです。みなさんに感動してもらえる腕のある女優になりたいと思っています。あとは、わがまま放題やって「おもしろい女優だった」と言われたいですね。
——改めてみどころを教えてください。
草笛:前半は、クローゼットから引っ張り出した洋服を着て、途中、大切な方からいただいたお洋服や、若いころの旅行写真、ローマ法王からいただいたメダルの写真、日常使いのお茶碗なんかもあって、ちょっと見せすぎじゃないかと思っています。後半は、読み応えたっぷりのエッセイ。前作を超える盛りだくさんな内容となっています。よろしければ、お楽しみください。
『草笛光子 90歳のクローゼット』1870円(税込)で2月3日発売。
(撮影:天日恵美子)