「保護犬」「保護猫」と聞くと、どんなイメージを抱くでしょうか? 飼い主に捨てられたり、迷子になったり、保健所に持ち込まれたりなど、さまざまな事情で保護された犬猫のことを指します。
そんな犬猫たちの保護活動に約10年間携わり、2018年からインスタグラムでもマンガを発信しているtamtam(タムタム)さんによる初の著書『たまさんちのホゴイヌ』(世界文化社)が、10月28日に発売されました。
同書には、公益財団法人の保護施設で多くの犬猫の命に触れたあと、「生体販売の根源が知りたい」という思いからブリーダー犬舎に勤め、現在は個人で行き場を失った犬猫を預かり里親を探す“一時預かりボランティア”を続けているtamtamさんによる、これまでの経験や思いが込められています。
「優しさだけでは犬猫は飼えない」「『命に対する責任』に一人でも多くの人が向き合ってくれますように」とつづるtamtamさんにお話を伺いました。全3回。

tamtamさん
「飼うのをやめました」保護犬のお迎えと同時に大事なこと
——インスタで保護犬や保護猫のことを発信し始めたきっかけを教えてください。
tamtamさん(以下、tamtam):動物病院で働きながら、自分の経験を生かして個人で譲渡活動をするようになりました。保健所や多頭飼育の現場から犬猫を引き取ったり、野犬を引き取ったり……。そんな活動をするようになったころ、姉から「インスタグラムでマンガを描いてみたら?」と誘われて、犬猫の保護活動について発信するようになりました。
——インスタにマンガを投稿するようになって、反響や何か変化はありましたか?
tamtam:私のマンガがきっかけで、「保護犬を引き取りました」という方もいらっしゃれば、「犬を飼うのをやめました」という方もいらっしゃいます。
——「飼うのをやめました」という人もいるんですね。
tamtam:そうなんです。これは、すごく良いことだと思います。ちゃんと考えるきっかけになっているということなので。飼うきっかけは誰にでもあると思うんですけど、飼うのをやめることも考えてみる。
それこそペットショップに行くと、その日に連れて帰れるようなところも、まだまだあると思うんですよね。でも、私のマンガを読んで、「“犬を飼う”ことについて、どう向き合っていくか」を考えていただければ、これほど幸せなことはないなって。保護犬だから、野犬だからじゃなくて、チワワでも何でも、「犬は犬」なんです。
もちろん私も、保護犬を引き取って大変なこともあるんですけど、やっぱり楽しかったり、うれしかったりすることのほうが多い。少しでも楽しいことを描きながら、現実的な話や大変なところを織り交ぜて発信しています。「犬を飼うこと」を身近に感じてほしいし、同時に「犬を飼うこと」の心構えをしてほしいと思っています。
「かわいそう」と言われるのが嫌…マンガで発信する理由
——「保護犬を描いたマンガ」と言うと、「かわいそうな話」「涙なしでは読めない」という話をイメージしますが、ギャグ要素もふんだんに取り入れられていますね。
tamtam:やっぱり関心を持つところから始まると思うので、楽しい部分を知っていくしかない。それで、絵やマンガはギャグ要素を入れようと思いました。最近はあまり、ギャグ要素は入れてないんですけど、描き始めた当初はずっとふざけてました。ふざけすぎて、「大事な話なのにギャグを入れないでください」「世に発信しなきゃいけないことなのに、なぜふざけるんだ」といったご意見が来たりしてましたね。
——ギャグも織り交ぜつつフラットに大事なことも伝えるということでしょうか?
tamtam:そうですね、保護犬に関するワードを自分で調べるといっぱい出てきます。逆に言うと、みんな怖いから、危ないワードをわざわざ調べないんです。「レスキュー」で調べても、怖い映像が出てきますけど、実際のレスキューは、楽しいこともあるんですよ。
毛玉だらけのボロボロな犬も、やっぱりきれいになるんです。その子の性格が明るかったりしたら、それはもうハンデにはならないんですよ。だって、保護したから。その子が保護前の環境に戻ってしまうのであれば問題ですけど、過去は過去なので、あとは上に上がるしかないじゃないですか。だから、「レスキュー映像のどこが不幸せなんだ?」って思いますね。その辺を知っていただくと、保護犬というハードルが下がってくるのかなと思っています。
——マンガの「ボス」という保護犬のエピソードで「『かわいそうな犬』なんかにしてたまるか」と描かれていたのが印象的でした。
tamtam:「かわいそう」と言われるのが、すごく嫌いなんです。私は、老犬をお世話したこともあったんですけど、年を取った犬なだけなのに、「かわいそうだね」って言われるのがすごく腹立たしくて……。「この子は今楽しく生きてるのに、なんでそんなことを言われなきゃいけないの?」って。シニア犬は、クルクル回ったりしてかわいいですよ(笑)。それを動画に撮ったりすると、「かわいそう」って言われるんですけど、私も、私の子供たちも一緒にくるくる回ったりしてその時間を楽しむようにしているんです。不謹慎と捉える方もいらっしゃると思うんですが、どんなシーンも、やはりいとおしいと感じます。
でも、そこは多分、写真や動画では伝わらない。絵でしか表現できないだろうなと感じています。私が感じているものと、受け取る側が感じるものは、全然違うと思うので、私が感じているものを絵で表現してしまえばいいかなと。私の絵やマンガを見て、シニア犬を迎えたいと言ってくれる人とか、シニア犬はかわいいと思ってくれる人も、結構いらっしゃいましたね。
——だから、マンガを描いているんですね。
tamtam:そうですね。例えば、先ほどの「ボス」もガリガリでやせ細っていて、写真だけ見たら「なんてかわいそうな犬なんだ……」ってなるんですよ。でも、その写真は、私が「ボス、こっち向いて~!かわいい~!」って言いながら撮ったので、全然かわいそうな写真じゃないんです。保護されて、元の飼い主に戻る必要はないから、もうこの子はかわいそうじゃないのに、写真だけ切り取られてしまうと、かわいそうな過去を持った犬とジャッジされてしまう……。
でも、犬も猫も、過去は思い出さないんですよ。飼い主を見たら、「この人知ってる」ぐらいしか、多分思ってないんです。今を生きているから、今に寄り添わなきゃいけないんですけど、人ってどうしても過去に行きたがるんですよね。だからこそ、絵とマンガという手段は、すごく合っていたかなと思います。
——でも、私も保護犬の写真を見るとどうしても「かわいそう……」と思ってしまいます。
tamtam:そういう場面だけをみてしまうと、やっぱりそう思ってしまいますよね。でも実際は、みんな楽しそうにお世話しているときも多いと思うんですよ。私はそこの部分を伝えていって、もっと知りたいと思ったら踏み込めばいいし、やめたいと思ったらストップしてもいいしと思っています。
例えば、ペットショップで犬を買った人が、2匹目に保護犬を迎えることがすごく多いんです。それまで犬のことを知らなかったけど、犬を飼ってはじめて保護犬のことを知ったり、保健所のことを知ったというような人が多いから。
「すごいね」と言われるたびに思うこと
——保護活動に対するイメージについて、思うことはありますか?
tamtam:「偉いね」「すごいね」とか言われるんですけど、全然偉くないと思うんですよ。私が今、個人で保護活動をしているのも、「子猫がいるから引き取ってくれない?」と言われたことがきっかけでした。「面倒を見るくらいなら、里親を探しますよ」という感覚です。それを他人に言うなら、「保護活動」という表現しかないだけで……。私自身、人に優しいわけでもないし、道徳観が強いわけでもないし、単純に犬が好きなだけなんです。この子たちの笑顔をもっと見たいと思った結果、趣味みたいな感覚でこういう活動をしているというほうが近いです。
だって、この子たちにとったら、私は全然必要ないんですよ。野犬の子なんかも、外に出たいのに、私がそれじゃあ納得いかないだけで。新しい家族の元で幸せな顔を見たいという、私の単なるエゴであり、押し付けなんです。それを、「すごいね」と言われると、やりたくてやっていることなので、すごくむず痒くなります。
欲しいものリストをアップして支援を受けるときも、支援いただいた方から「ありがとう」って言われるんですよ。「なんでお金をもらっているのに、ありがとうって言われるんだろう?」みたいな(笑)。私が守りたいと思ったのが、犬だったという単純なお話なんです。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)