「心理的安全性」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
もともとは1965年に登場した言葉ですが、ハーバード大学教授のエドモンドソンが「対人関係のリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」と定義。さらにグーグルが社内大規模調査の結果、チームにとって「圧倒的に重要」と結論づけたことで注目を集めました。
でも、具体的にどんな言葉を使ってどんなふうに行動すればいいの? と思っている人も少なくないのでは?
そこで、企業のコンサルティングや人材開発を手がける「ZENTech」のシニアコンサルタントで、8月に『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)を上梓した、著者の原田将嗣(はらだ・まさし)さんにお話を伺いました。
最終回は具体的な例を交えながら心理的安全性について聞きました。
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『心理的安全性をつくる言葉55』著者の原田将嗣さん
「うちのチーム、心理的安全性が低い」と思ったら…
——最終回は具体的な例を交えてお話を伺っていければと思います。例えば、心理的安全性が低い組織やチームにいて、なんとかしたいけど、すぐにチームの雰囲気を変えられる立場にいない場合、どんな行動をしたらいいのでしょうか?
原田将嗣さん(以下、原田):一つの方法は、上司に直接相談すること。「心理的安全性があるミーティングの進め方をこれからやっていきたいのですが、相談に乗ってもらえませんか?」というように、「相談」することがポイントです。「上司に提案したけど却下された」ということは僕も経験があるのですが、「提案があるんですけど……」っていう言い方は、ちょっとマズかったりします。「相談」と「提案」、その違いって、何となく分かりますか?
——提案だと、上司のやり方を否定しているように聞こえるからですか?
原田:そのとおりです。提案だと、「今のやり方が気に入らないので、変えたいんですけど……」と聞こえますよね。上司からすると、「何で? 気に入らないの?」という感じで受け取っちゃうのが、「提案」というフレーズなんです。
こういうときに、「ちょっと助けてほしいので、相談に乗ってくれませんか?」のほうが効果的です。人は誰しも、頼られるのは好きですけど、否定されるのは嫌いなので、相談のほうが話を聞いてくれやすくなると思います。
また、相談するときも、「心理的安全性を感じられるような言葉を使っていきましょう」というお話ではなくて、「こういう案があるのですが、もっと良い方法がないか相談させてください」のほうがいいですね。
とはいえ、上司の方に直接相談するのはハードルが高い……と思ってらっしゃる方もいると思います。そこで、もう一つの方法として、チームメンバーの中に身近な仲間をつくることがおすすめです。
——身近な仲間? そういえば本でも「小さなチーム」をつくろうと書かれていましたね。
原田:例えば、「あなたが発案したんだから、やっておいて」と上司に言われた場合に、「もしよかったら一緒にやりますよ」と、仲間に助け舟を出してもらえるとどうでしょう? 一人に任せるのではなく、みんなで取り組むんだという状況になりますよね。ほかにも、発案者がいたときに、「それ、誰々とやったらいいんじゃない?」というコメントを自分から差し込んでみるとか。そうすると、発案者も、「言ってみてよかったな」と思えるし、「言ったもん負け」のような空気にならずに済みます。リーダーや上司だけでなく、その場にいる誰もが、声かけを発することはできると思います。
もし、チームメンバーの中に仲間がいれば、「今度こういう発言をしてみようと思うんだけど、乗っかってきてくれない?」って“根回し”をしておく。最初はサクラでもいいわけです。「チームメンバーの発言を増やしたり、誰でも提案ができるようにしたい」という思いがあるなら、仲間をつくっていくことも大事なんじゃないかなと思います。
さらに言うと、その結果、仕事が増えてきて負荷になってしまう可能性がありますよね。やったほうがいいことを挙げるのは簡単ですが、負荷が増えて疲れていく。だからやったほうがいいことをやることになったら、やめたほうがいいことを考えるんです。新しいことを増やすときには、やめたほうがいいことも同時に考える。そうすると、提案が出やすくなると思います。
「言ったもん負け」にならないために…
——確かに、「提案したら仕事が増えるから、あえて発言しない」というのはあるあるです。
原田:「うちのチームは提案を持ってこないんだよ」という上司の方のコメントを聞いて思うことなのですが、提案をしたら仕事が増えるので言いにくいんですよね。提案を増やしたいのであれば、発言をしても大丈夫な状態をつくらなくてはいけない。そのためには、リーダーや上司が、「じゃあ代わりに何をやめる?」と言ってあげるだけで、気が楽になります。一度検討したうえで、今やっていることが大事なのであればそのまま続けるのでもいいし、今やっていることの時間を半分にできないか? と話し合ってもいいと思います。そのプロセスを踏んでいくことが大切だと思っています。
つまり、新しくやると決めたことが、ただただ負担になってそれで終わったとしても、そこに行き着くまでに、「今はやめられることがないな」「これはこれで大事なことをやっている」ということを認識できます。そのうえで、少しでも新しいことをやったほうがいいのであれば、一歩ずつでも進めていく。結果的に、発案者の負担が増えることになったとしても、そのプロセスを踏んでいれば、「最終的には何かやめていったほうがいいとみんなが感じているんだな」と思える。そのほうがまだ救われる気がします。
——やめたほうがいいことを考えるのがポイントなんですね。
原田:そうですね。そのときにも、できるだけ、リーダーや上司、先輩といった上の立場の人が言ってあげることが大事なんですよね。やっぱり、メンバーは、「やめたほうがいいことを言うと、やる気がないと思われそう……」というように、発言に対する不安があったりするので。ある程度、年次が上の方が、「新しいことを増やすのもいいけど、やめることも一緒に考えたほうがよくないですか?」ということを発信してあげると、少し安心できますよね。
やたら褒めるのはダメ? 「いいね!」の伝え方
——自分が上司や先輩の立場のときのケースについても伺いたいのですが、心理的安全性を意識するあまり、やたらと褒めてしまうという声も多いです。評価したいという気持ちは変わらないのですが、褒める以外に声のかけ方が分からないというか……。
原田:やたらと褒めるのは、あまりおすすめしていません。褒めることで大事なのは、アイ(I)メッセージなんです。「私はいいと思うよ」「私はあなたがやったことは素晴らしいと思うよ」っていう。
ところが、「あなたはすごいね」「あなたは偉いね」というメッセージ、いわゆるユー(YOU)メッセージになると、上から目線になってしまいます。一方で、アイメッセージの場合は、「私はこう思う」「私が思うことだから自由でしょ?」というように、自分に責任がある発言ができるので、そんなにいやらしい褒め方にはならないんです。
——なるほど!
原田:もちろん、おだててうまく乗せてあげるとか、そういう戦略を立てるマネージャーの方もいらっしゃるかもしれません。でも、基本的には長続きしないと思ってます。1回や2回は、おだてられて行動することもあるかもしれませんが、最終的には、アイメッセージとして届けられたほうが、うれしい言葉として残りますよね。だから、褒めるときのポイントとしては、評価者の目線ではなく、「私はこう思う」というアイメッセージの目線に立つことをおすすめしています。
——評価者だからこそ、上から目線ではなく、アイメッセージが大事なんですね。
原田:そうです。評価は評価として、評価面談など評価するときにすればいいので。別に、毎日毎日、評価をしてほしいわけではないですよね。「今日は良かったけど、昨日はちょっとダメだった」という話をされても、気持ちよくないじゃないですか。
——なんかいちいち監視されているようで嫌ですね。
原田:そうではなくて、「今日も頑張っているように見えたよ」「以前と比べて、成長したように感じるなぁ」とか、そういう表現のほうが届きやすい。アイメッセージとユーメッセージは、よく対比として使われますが、今後はぜひアイメッセージを使っていってほしいですね。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)