健康情報を読み解くキーワード/第3回

「診療ガイドライン」って何? 健康情報を読み解くキーワード【京大・准教授に聞く】

「診療ガイドライン」って何? 健康情報を読み解くキーワード【京大・准教授に聞く】

メディアで耳にする健康情報に関わるキーワードについて、京都大学大学院医学研究科社会健康医学の准教授で、精神科指導医・専門医の田近亜蘭(たぢか・あらん)医師に連載でお話しを聞いています。これまでの「第1回 エビデンスレベルって何? 前編」「第2回 エビデンスのレベル3〜レベル1って何? 誤った健康情報に振り回されないために 後編」に続き、今回から、「診療ガイドライン」という用語について前後編の連載でお尋ねします。

田近亜蘭医師

田近亜蘭医師

医師向きの診療法の手引書

——便秘、アレルギー性鼻炎、頭痛、うつ病など身近な症状のケア法を知りたくてネットで検索をしていると、「○○○診療ガイドライン」という言葉をよく見かけます。診療ガイドラインとはどういうものですか。

田近医師:医師や医療関係者向きに、医学会が作成した診療についての手引書のことです。日々の診療の重要なポイントについて、最新のエビデンス(科学的根拠。第1回・第2回参照)が各分野の専門医らによって示されています。

医師は日々の診療の中でさまざまな疑問、例えば、「うつ病が改善した後も抗うつ薬の服用は続けてもらった方がいいのか」といったことに遭遇します。これを「臨床疑問」、または「クリニカルクエスチョン」といいます。

これに対して、医師は医学的知識や自身の経験で対処しますが、複数の方法が考えられるケースや、自分の知識が古くなっていないかなどを確認したい場合があります。そのようなときに、診療ガイドラインを参考にします。

例えば、うつ病の場合は、日本うつ病学会が作成した『日本うつ病学会治療ガイドライン』、便秘の場合は日本消化器病学会による『慢性便秘症診療ガイドライン』、糖尿病の場合は日本糖尿病学会による『糖尿病診療ガイドライン2019』などがあります。多くの病気に対して、それぞれの医学会が作成し、医療専門の出版社などから刊行されます。

——ひとつの病気に、ひとつの診療ガイドラインが存在するのですか。

田近医師:ひとつの病気でも症状別に複数のガイドラインが存在する場合があります。例えば頭痛の場合は、日本神経学会などの作成による『頭痛の診療ガイドライン2021』、厚生労働省の慢性の痛み政策研究事業による『慢性疼痛治療ガイドライン』、日本口腔顔面痛学会による『非歯原性歯痛の診療ガイドライン 改訂版』など、症状や病気の原因、病態によって診療科が異なるように、診療ガイドラインもさまざまにあります。

——診療ガイドラインのタイトルに「2021」など数字が記載されているものとそうでないものがありますね。

田近医師:どの診療ガイドラインも数年ごとに改訂されます。ただ、まだ初版の場合は数字が記載されていないものもあります。いずれにしても、最新のものを参考にします。

専門医らによる作成委員会がつくる

——診療ガイドラインとは、医師たちが診療時に参考にする本なのですね。誰が作成するのですか。田近先生は、『統合失調症薬物治療ガイドライン』の作成委員会の委員でいらっしゃいますよね。

田近医師:はい。各医学会はまず、その病気の専門医や指導医らを集めた「診療ガイドライン作成委員会」をつくり、その会が作成します。

まず、取り上げる病気に関する重要な臨床疑問を設定します。例えば、先ほど挙げた、「うつ病が改善した後も抗うつ薬の服用は続けるべきなのか」といったことです。そして、それらの疑問に関してすでに発表されている世界中の医学研究論文を収集、選択、評価、分析して、最新のエビデンスを提供し、それを元にしてその治療の「推奨度」を合議で決めます。

医療者の視点だけでなく、患者さんの視点や価値観を取り入れることはとても重要なので、最近は、患者さんや市民もガイドライン作成メンバーに入ってもらうことが増えてきています。

診療ガイドラインには治療法の推奨度が記されている

——どのようなことが書かれているのですか。

田近医師:医師が診療する際に解決したいクリニカルクエスチョンに対して、回答が示されています。

多くの診療ガイドラインでは、複数のエビデンスを総合的に判断し、ある治療法を行う、または行わないことの推奨の強さを「強い」か「弱い」か、そしてその根拠となるエビデンスの確実性が「強い」「中程度」「弱い」「非常に弱い」に分けて表示されています。診療ガイドラインのもっとも重要な部分であり、診療ガイドラインとは具体的に、これらを示す文書のことといえます。

——診療ガイドラインは医師や医療関係者向きということですが、一般の人も読めるのですか。

田近医師:書籍として市販されています。それに、まだ少ないのですが、各医学会のウェブサイトなどで公開しているものもあります。

また、日本で診療ガイドラインの作成を推進する「Minds(マインズ)」という団体があり、厚生労働省によるEBM(Evidence-Based Medicine エビデンスに基づく医療)の普及推進を行っています。このMindsのウェブサイト「Mindsガイドラインライブラリ」では、診療ガイドラインの検索機能や、ヒットしたガイドラインの概要(書誌情報)、また、本文を公開しているものにはそのリンクも掲載されています。同サイトでは、一般の人向きにわかりやすく解説したガイドラインの検索も可能です。

「Mindsガイドラインライブラリ」

聞き手によるまとめ

診療ガイドラインとは、特定の病気についてエビデンスに基づいた治療方法を示す、医師と医療関係者向きの手引書ということです。これは医学会が選んだ専門医たちでつくる委員会によって作成され、一部はウェブサイト等で公開もされています。次回・後編では、一般向きのガイドラインの解説書について紹介します。

(構成・取材・文 藤原 椋/ユンブル)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「診療ガイドライン」って何? 健康情報を読み解くキーワード【京大・准教授に聞く】

関連する記事

記事ランキング