2022年5月13日、文具メーカーの株式会社キングジムが「災害常備ポーチ(7点セット)」と「災害常備ポーチ More(10点セット)」の発売を開始しました。近年様々なメーカーから災害関連グッズがリリースされる中、オフィス用品のイメージが根強いキングジムが、なぜいま「災害常備ポーチ」の発売に踏み切ったのか。本アイテムの企画・開発を担当した営業戦略部商品課の坂牧悟さんに伺います。
東日本大震災以前より、防災対策セットを展開
——今回の「災害常備ポーチ」「災害常備ポーチMore」より前に、御社は「災害対策セット」シリーズをリリースされていますね。防災セットを継続して展開するのは、なにかタイミングやきっかけはあったのでしょうか。
坂牧悟さん(以下、坂牧):特別なきっかけがあったというよりは、東日本大震災を受けて世の中的に防災意識が高まっていく中で、弊社としても防災グッズの必要性を感じていたというところがあります。挙げていただいた商品に関してですが、実は弊社では2008年に、先駆けとなる「帰宅支援キット」を発売しているんです。それをアップデートする形で2017年2月に2商品を発売し、さらに2019年にリニューアルして現行の形となりました。
——東日本大震災以前から防災グッズを展開されていたとは……! 現行の商品ですが、デザインも独特ですよね。御社らしいというか。
坂牧:「災害対策セット」シリーズはA4ファイルサイズにすることで、オフィスのファイル棚や引き出しの中に収納できるという特長があるのですが、リニューアルに際しては、ご家庭の景観にも馴染むよう「防災感」を出さないシンプルなパッケージデザインに意識しました。事務用品が得意の「キングジムらしさ」を意識したところはありますね。
「0次の備え」を意識した防災グッズを発案
——この商品が、今回発売された「災害常備ポーチ」へと繋がっていったのでしょうか。
坂牧:そもそも災害の備えには局面に応じて、1次の備え、2次の備えがあると言われています。1次の備えは災害直後に身を守るため、あるいはその日1日を生き延びるための備蓄です。そして2次の備えがライフラインが途絶えても、救助が来るまでの数日間生き延びられる為の備蓄。そして新たに注目され始めたのが0次の備え、いざ災害に遭ったときに必要な“外出先での”備えなんです。
——0次の備えは初めて聞きました。
坂牧:あまりフェーズとして備蓄を意識することはないかもしれません。
——とにかく備えておいたほうがいいのかなという気はします。
坂牧:そうですね。多くの人が防災グッズを持ち運ぶことの重要性はわかっているものの、いざ揃えるとなると何が必要かわからない。そこで、これまでオフィス向けに展開してきた防災グッズを個人向けにアレンジして、0次の備え用のグッズを販売しようということで今回の「災害常備ポーチ」の発売を決定しました。基本的には、これまで扱ってきた防災アイテムの知見を踏襲しているため、着想から販売までの期間も非常にスピーディで、通常の文具などが半年ほど掛かるところを約3ヶ月で販売に至っています。
目指したのはコンパクトでスタイリッシュなデザイン
——「災害常備ポーチ」ですが、まず目を引くのがポーチのデザインのスマートさですよね。従来の「ザ・防災用グッズ」みたいに、カバンの中で目立ってしまう商品イメージを覆すような。
坂牧:素材に関しては、コンシューマー向けの人気文具商品「チアーズ」のペンケースなどに使用しているPVCを活用しています。デザインに関しては、こちらも約55万冊の販売数を誇る人気商品バッグインバッグ「フラッティ」で実現したスマートなフォルム設計から着想を得ています。とにかく持ち運びやすくコンパクトで、一見防災グッズには見えないような洗練されたデザインにしたかったんです。カラーリングも、男女問わず使っていただけるよう、落ち着いた2色展開にしています。
——中に入っているアイテムについてもポイントを教えてください。
坂牧:7点セットも10点セットも、基本的には、一般的な災害グッズとして販売されているアイテムを入れています。ただ、個人的にいいと感じているアイテムは「備蓄氷糖」(氷あめ)ですね。たとえば電車に乗っている時に災害に遭ったり、車に乗車中に交通トラブルに見舞われた場合、ちょっと甘いものを口にすることで空腹も紛れますし、不安な気持ちもふっと和らぐことがあると思います。アイテムに関してはかなりベーシックなので、カスタマイズして個人個人で増減していただくのもいいかと思います。

「災害常備ポーチ More」セット内容:防災カード、備蓄氷糖(2個)、ポケットティッシュ、非常用簡易トイレ(汚物収納袋+抗菌性凝固剤)、マスク、ホイッスル、アルミブランケット、アイマスク、大判おしぼり(からだ拭き)、歯磨きシート(5包入)
防災グッズであっても一匙の「キングジムらしさ」を
——事前予約から販売に至り、手応えはいかがでしょうか。
坂牧:売れ行きは上々です。「以前被災した際に、こういったアイテムが足りずに困った」「これくらいコンパクトであれば女性用のバッグにも収まる」といったコメントがSNS などを中心に寄せられています。私自身がもともと営業職に就いていて、発案に際してはユーザー様の方の声をできる限り拾い集めてきたところも大きいので、反響に関してはとても嬉しく感じています。
——これからキングジムとして目指す防災グッズの未来についてお聞かせください。
坂牧:キングジムの社風としては「常にファーストペンギンでありたい」というところが大きいので、市場にまだないものを創造して、スピーディに開発していくところを目指しています。防災グッズに関しても、最近特に地震対策に関するカテゴリはどんどん拡大しています。弊社としては、すでに世の中にあるものではなく「キングジムが作ると一味違ったアイテムになる」とお客様に感じていただけるような新しいアイデアを加えつつ、今後も新商品を展開していく予定です。
(取材・文:波多野友子、編集:安次富陽子)