再生医療の発展もあり「ヒト幹細胞コスメ」が話題になっています。
「幹細胞」とは、自分とまったく同じ能力を持った細胞に分裂することができる能力(自己複製能)と、自分の体を作るさまざまな細胞を作り出す能力(分化能)をもつ細胞のこと。
幹細胞の技術を使った治療や美容に関しては研究中ですが、最近ではヒトの肌にヒト幹細胞が分泌する活性物質を含むコスメを塗ることで、肌の細胞を活性化させ、よりよい肌のコンディションにしていくことがわかってきています。
そこで、皮膚科医の日比野佐和子(ひびの・さわこ)先生にヒト幹細胞コスメの選び方やスキンケアの効果について伺いました。
※本記事は協和が2020年9月2日に掲載したリリース「話題のヒト幹細胞コスメ、ちゃんと理解している?皮膚科医に聞く、『ヒト幹細胞美容液』の仕組みと選び方」をもとに作成。2022年4月に日比野医師が改めて監修しました。
幹細胞の種類は?
——幹細胞の種類について教えてください。
日比野佐和子医師(以下、日比野):幹細胞の種類は大きく分けて3つあり、ヒト由来・植物由来・動物由来です。
まずは、ヒト由来の幹細胞である「ヒト幹細胞」です。医療や美容において頻繁に使われるのは、ヒトの皮下脂肪から採取した脂肪由来の幹細胞です。医療機関では、ヒトの脂肪組織から幹細胞を分離して培養して数千万個から1億個に増やして、体に戻す治療が行われています。
幹細胞を培養する際の“上澄み液”(培養液)には、多くの成長因子を含む百十種類の活性物質が含まれており、その培養液を化粧品の材料として使用します。人間の細胞の表面にはその特定の機能をスタートさせる “レセプター”というカギ穴のようなものがあり、ヒト幹細胞培養液には、その穴に合致するカギになる成分(成長因子や活性物質)が豊富に含まれ、細胞が活性化し、最も効果が期待できると考えられています。
二つ目は「植物幹細胞」です。植物における幹細胞は、栄養成分が豊富で、細胞分裂が活性化している場所である、種子の中の胚や根の先端、茎の付け根といった植物の成長に重要な部位に存在し、様々な細胞に分化させる能力(多能性)を持っています。しかしながら、植物幹細胞にはヒト幹細胞のように鍵と鍵穴のような仕組みがないため、効果も限定的であると考えられています。抗酸化力・保湿力は期待でき、動物由来の成分が苦手な方には、おすすめです。
三つ目が「動物幹細胞」です。ヒトの皮膚幹細胞と構造が似ているといわれる羊やブタ、馬といった動物の胎盤から採取された幹細胞が用いられることが多く、ヒトの皮膚に塗布して細胞の活性化が期待できると言われていますが、アレルギーを発症するリスクも否定できず、安全性の面からも国内ではまだ流通していません。
ヒト幹細胞はなぜスキンケアに取り入れるといいの?
——ヒト幹細胞が最も効果があるのですね。具体的にスキンケア効果について教えてください。
日比野:赤ちゃんがシミ一つない透き通った肌なのに対し、老化すると肌にシミやシワ、クスミが出たり、肌にもたるみが出てきます。これは、肌の幹細胞の数が減り、細胞を再生・修復・増殖させる働きが衰えてくるからです。しかし、細胞を活性化させるヒト幹細胞由来の成分を与えることで幹細胞の働きを助け、ターンオーバーのスピードも回復できることがわかってきました。
ヒト幹細胞培養液には、様々な種類のサイトカイン(細胞を活性化する物質)やグロースファクター(成長因子。細胞の増殖や分化を促進する物質)が溶け出し、豊富に含まれている点が他のコスメとの大きな違いです。これらがたっぷりと含まれた培養液を塗ることで、皮膚組織の主要構成成分であるヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチンを作り出すおおもとである線維芽細胞に働きかけ、皮膚を張りと弾力性をあげる効果が期待できます。
また、角質細胞を活性化させ、肌のターンオーバーを促し、肌の生まれ変わりを活性化させる可能性があります。さらに、ヒト幹細胞コスメには、発毛・増毛促進効果なども期待されています。
ヒト幹細胞によるスキンケアを始めたほうがいい年代は?
——ヒト幹細胞によるスキンケアを始めたほうがいい年代などはありますか?
日比野:老化は20代から始まっています。20代だから大丈夫だと思って、スキンケアを怠ったり、紫外線対策もせず、ストレスの多い生活を送っていると、肌の老化がどんどんエスカレートしていきます。肌の老化の8割は紫外線によるものとされています。20代から積極的に幹細胞のコスメを使う必要はありませんが、特に、紫外線を多く浴びる環境下で生活されている方は、20代からでも早すぎることはありません。
そして、さらに30代半ば以降は、老化により細胞分裂の速度が落ち、ターンオーバーにも時間がかかり、古く、硬くなった角質が残ってしまいます。ゴワついたお肌になったり、コラーゲンなどを生成しにくくなったりすることから、たるみのお悩みも出てしまうという状態に。ヒト幹細胞コスメは、サイトカインや成長因子を与えることで皮膚の細胞の活性化をサポートできる可能性があるので、お肌の曲がり角を感じたらすぐに取り入れることをおすすめします。
肌タイプによる使い分けは?
——肌タイプで使い分ける必要はありますか?
日比野:ヒト脂肪由来の幹細胞コスメは、塗ることで肌の細胞を活性化させるは働きが期待できるので、年齢や肌質によって使い分ける必要はありません。
ヒト幹細胞コスメと組み合わせて使いたいスキンケア
——ヒト幹細胞コスメと組み合わせて使うスキンケアについて教えてください。
日比野:お肌が以前よりゴワついているのは、新陳代謝が落ちているサインです。肌の表層にある古い角質層や老廃物が溜まっている状態です。ヒト幹細胞コスメで細胞を活性化させながら、内側からも新しい皮膚を作り変えるのに役立つ栄養素、ビタミンB系を積極的に投入して、肌の新陳代謝をあげましましょう。食べ物で摂取するならば、豚・鶏・牛レバー(B2)や、かつお・まぐろ(B6)などがおすすめです。
また、紫外線によるシミ・ソバカスが目立つ場合は、高い抗酸化作用があり、コラーゲンの増殖をあげる効果が期待できるビタミンCの原液美容液やサプリメントなどを組み合わせて使用してみましょう。食べ物で摂取するならば、柑橘系のくだものやキウイフルーツ、ピーマンなどがいいです。
——逆に、ヒト幹細胞コスメと一緒に使ってはいけない化粧品は?
日比野:一緒に使ってはいけない化粧品は特にありません。細胞の老化は20代からすでに始まっています。細胞を活性化させて健康的な肌の寿命を伸ばすことを目指して、日々のマストケアにヒト幹細胞コスメを取り入れてみましょう。